第拾弐話 『鬼と福』
「起きなさ〜い。」
目を開けると目の前に桜花の顔が映った。
「うわぁ!?」
心臓止まるかと思ったぞ!
「失礼ね。そんなに驚かなくてもいいでしょ。」
「いや、普通吃驚するって。」
桜花はムッとした顔をする。
「せっかく早く起きたから起こしにきてやったのに…酷いわ。永遠に寝てなさい。」
「ごめんなさい。感謝してます。」
殺気が感じられたので即座謝った。
俺はパンにかじりつく。
「今日はどうするつもりだ?俺は学校へ行くけど。」
「ん〜そうねぇ…。今日はやることないし…。」
「黒の学校にでも行ってみようかしら。」
ぶっ!
俺はお茶を吹き出す。
「何吹き出してんのよ。汚いわね。」
「・・・茶吹き出したのは謝るが、それはありがた迷惑だ。」
冗談じゃねぇ。こんなやつが学校に来たら大騒ぎになる。注目を浴びる。俺が面倒なことになる。そういうシナリオじゃねえか。悪いが何とかしてでも止めなければッ!
「私も一回学校というのに行ってみたかったんだよね〜。あ、転入生とか言うのもいいかも知れないわね。黒、時間たっぷりあるから今すぐ制服とカバンを買ってきなさい!」
・・・どうやら俺に拒否権は無いようだ。つーか拒否したら殺されそう。後ろから桜花による期待の目線を感じながら、俺は嫌々制服とカバンを買いにいった。
「はぁ、桜花の奴何考えてんだ。というかあいつ学校行ったこと無かったのか。のわりには頭良い…いや前言撤回。妖怪的ではバカに分類されるか。」
そんなことを心の中でブツブツつぶやきつつ、自分と大体同じサイズの制服とカバンを買った。
そして帰っている途中、女性とぶつかりそうになる。
「おおっと、大丈夫か?」
「あ、はい…。ってあら?」
その人はあの吸血鬼事件の時の女性だった。
「あなたはあの時の・・・。こんなところで一体何を?」
「はい、ちょっと外の空気を吸おうと散歩してました。」
彼女は笑顔でそう答える。桜花に危険だから気をつけろと言っていたのに大丈夫なのか…?
「俺の名は七刹 黒。あんたは?」
「枝塁 佑香です。よろしくお願いしますね。」
よろしく。と言おうとしたその時、教会の鐘が鳴る。
「あ、もうこんな時間ですね。今回はもう失礼しますね。」
そう言って彼女は遠くへ走ってしまった。
「・・・さて、そろそろ戻らないと。」
「ロスタイム、5分15秒。時間は一分一秒大切なのに。残念だわ。」
「…そんな曖昧な事あてにならんだろう。」
反応して桜花は顔を顰める。
「そんなこと無いわ!カップラーメンだって3分すぎたら伸びちゃうじゃないの!」
・・・なんか例えがラーメンなのに凄い説得力だ。
「それは置いといて、制服買ってきてやったんだから感謝しろよな。」
「ん、ありがとう。やっぱ黒は優しいね。」
そう言って桜花は笑顔を見せるが、今回だけそれは俺にとっては凄く嫌なんだが・・・。
俺は制服に着替えて出る時間まで家にいることにした。
「ねぇ、黒の学校ってどんな感じ?」
突然こんなことを聞いてくる。
「ん、なかなかいい学校だぞ。良い成績が無いと転入できないが、大丈夫なのか?」
「何言ってるの、こう見えてもマスター(仕事依頼主)にまで『天才の中の天才』と呼ばれてるのよ?」
桜花は自信満々でそう答えるが、やっぱりバカで失敗フラグかも。いや、そうであって欲しいくらいだ。
「そうか、期待してるぞ。」
俺は苦笑いでそう言った。
「まあ、万が一落ちることがあるとしても…。」
ん?
『殺してでも転入させてもらおうかしら。』
・・・。
やばい。
こいつはマジでヤバイ。
とても人間、いや妖怪だと思えねぇ・・・。
俺は大きなため息をついた。
「もうそろそろ出るぞ。健闘を祈る。」
俺は勿論苦笑いで。
「ええ、期待しててね!」
桜花は気合い満々な顔で。
「・・・学校崩壊する日が来るかもな。」