第拾壱話 『妖具と永遠』
「ふーん、その眼は生まれつき持っていたわけね。」
肉を大量に食べながら桜花はそう言った。
「ああ、そうみたいだ。父の日記にそう書いてあったぞ。」
「ということは、『討命死眼』か・・・。」
俺は首を傾げる。
「とーめいし・・・?なんじゃそりゃ。」
「相手の寿命、さらに相手の死点(急所のようなもの)が視える眼のことよ。」
ユエが答える。
「死点・・・視えたこと無いけど?」
確かに、死点など一度も視たことが無いのだ。というよりも、視ようとしなかったからなのかな。
桜花は俺の持っているナイフを見つめていた。何かあるのか。
「そうだ、あのリリムとかいうやつ、妖具がどうのこうのと言っていたが、このナイフのことか?」
「その通りよ。妖具とは女神(永遠奏界を作った妖怪の方)が作った永遠奏界を支える結界の一つ。そのナイフはその眼と対になっているらしいわ。」
そしてユエが繋げる。
「まったくおかしな話よね。死を恐れて助け合うはずの関係なのに裏では妖具を使ってこんな殺戮が起きてるなんて。まあ私も人(?)のこと言えないけどね。」
いや待て。なんでそんな凄い物がここにあるんだ。
「・・・俺ってその殺戮者の一人なのかな。」
それを聞いた桜花は驚いた顔をする。
「あら、そのナイフはただ刺したり切ったりしても死なないわよ?寿命を操作することが出来るだけだから。」
俺はホッとした。よかった、俺はまだ人を殺してないんだな。というか、じゃああの時のは冗談だったわけか。
「でも、それは逆に恐ろしいことでもあるのよ。寿命を無くせば即死、増やせば禁忌に触れてしまうから・・・。」
呆然とする。使い方によっては恐ろしい武器であるということだ。
「ごちそうさま。今日は疲れたからもう寝るわね。」
「食べてすぐ寝るは体に悪いぞ。」
「大丈夫、減る物じゃ無いから。」
・・・減るのか?桜花はソファーの上で横になり、布団をかけて寝てしまった。
「それじゃあ、私もそろそろ失礼するわ。」
ユエも出て行ってしまった。
「・・・はぁ。」
俺は大きなため息をつく。
ナイフの寿命を視ようとする・・・見えないのだ。
このナイフには寿命が無い。永遠に生き続けるのだ。
「・・・まさかこんなところで『永遠』を見ることになるとはな・・・。」
俺はフッ、と笑う。
「永遠、ねぇ・・・。羨ましいよな。死ねないって。」
俺はベットの上で横になる。
「俺たちはこうやって一分一秒生きるだけでも惜しいのに・・・。」
俺は大きなあくびをした。
「さて、そろそろ眠くなってきたし、寝るか。」
そう言って黒はゆっくりと目を閉じていった。
・・・。
『おやすみなさい。』