第拾話 『託された一つの希望』
「───黒!?」
突然、桜花は目を開ける。あたりを見渡すと黒はいなかった。
「いつもならこの時間に帰ってくるはず・・・。まさか!」
桜花は黒の危機を感じ取ったか、家を飛び出す。
「黒・・・無事でいて。」
そう心配に思いながら、桜花は危機が感じる方向へ向かった。
その時にはもう5分が経過していた。
俺はもう動けるようになっていて、床に座って考え込む。
ポケットからナイフを取り出した。
「ここでずっといるわけにはいかないしな・・・。俺はやるしか無いのか?初めて人を、妖怪を切る事に───。」
しばらく考えていたが、俺は決意する事にした。
「・・・やるしかない。そうしなければ、俺に明日は無い!」
扉をゆっくりと開ける。通路には誰もいなかったが、奥から声が聞こえる。
俺はタイミングを計って飛び出ようとしていた。
「・・・今だ!」
俺はナイフを構え、素早く切りつける。
「はぁぁ!」
その横にいた者にも切りつける。
「なんだ、今の騒ぎは!」
「奴が逃げ出したぞ!追え!」
「うおおおお!」
俺は出口に向かってただ敵を切り、走り抜ける。
「はぁはぁ・・・。」
俺は正気に戻り、あたりを見渡すと殺戮の海となっていた。
「う・・・。」
俺は叫びたい気持ちを抑え、出口まで歩いて行った。
気が付けば全て倒してしまったのか、静かだった。出口は目前。だがその時。
『まあ、派手にやってくれたわね。』
後ろを振り返るとリリムがいた。恐怖が急に押し押せてきた。
間に合わなかった・・・。
「覚悟は出来てるかな?死ぬより痛い目にあっちゃうよ。」
リリムはフフフ、と笑い、こちらに近づいてくる。
くそ、どうすればいい…。
──────桜花ッ!
その時、桜花が扉を突き破ってリリムを蹴り飛ばした。
「がはっ!…。」
リリムは吹き飛んで壁に当たる。
「無事かしら?」
「お、桜花!」
俺は桜花に抱きつく。
桜花は顔が赤くなる。
「て、照れるねぇ・・・。」
「良かった・・・。ありがとう。」
しかし、リリムが起きあがって襲いかかってきた。
「死ねぇ!」
「───っ!」
「あ、危ない!」
油断して素早く行動がとれなかった。
が、突然赤い剣が飛んできてリリムに突き刺さる。
ブシュッ!
「ぐっ!」
「危ないところだったわね。遅れたわ。」
「ユエ!お前も来てくれたのか!」
「初仕事、ね。いくわよ、ユエちゃん。」
「了解。」
桜花は炎をまとってリリムに突進する。
ドンッ!リリムの目の前で爆発させる。だが寸前で避けられてしまった。
「ふふ、そんな無謀な技通用すると思ったの?」
リリムは余裕を見せる。その時。
爆風の中からユエが飛び出てきた。
「残念、全て計算通りだったのよ!」
「しま────っ!」
ユエは剣で思いっきり斬りつける。
ズバッ!
「がっ・・・!」
リリムは倒れる。ユエと桜花はウィンクで合図を送った。
「す、凄い・・・。」
俺はため息をついた。
「さあ、帰りましょ。私は腹が減った。」
「・・・そうですか。」
俺は首を落とす。
「ヘー黒の料理っておいしいの?」
「もちろん、とてもおいしいわよ。楽しみにしてなさい。」
桜花は目を光らせて言った。
「む、そう言ってくれるとうれしいぞ。」
俺は張り切ってそう言う。
「さて、おいしい晩飯が待ってるわよ!お家へれっつごー!」
「おー」
「・・・はぁ。」
三人は森を切り抜け、帰って行った。
──────。
「ここかしら?黒君が連れ去られた場所というのは・・・。」
あの時の女性が屋敷へとやってきた。
「・・・荒れてるわね。またあの人の仕業かしら。」
彼女はむー、と頬を少し膨らます。
「お・・・うか・・・!」
「ん・・・?」
床にはリリムがボロボロで倒れていた。
「・・・この人が犯人かしら。神の罰として裁きを。」
そう言って彼女は腰の鞘から十字架型の剣を抜く。
「───安心して永遠に眠りなさい。」
ブシュッ!
その剣でリリムを斬りつけた。
「貴方に神の微笑みがありますように。」
彼女はそう言って剣を収め、屋敷から立ち去った。