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繰り返されるセカイ  作者: めろう
第一章
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第一話 転校生

教室の中が騒がしい。

明るい笑顔が満ち満ちている中で、一人暗い顔をしている俺は、唯々静かに窓の外を見ていた。

桜が舞い踊る校門前。

今日は新たなる学年の始まり、春休み明けの始業式だ。

華々しい今日と言う一日も、俺からしてみれば地獄の始まり。同じような毎日を、ルーチンワークをこなさなければならない退屈な日々の始まりなのだ。


終焉の笛の音にも似たチャイムが鳴り響く。正確には、ホームルーム開始のチャイムなのだが。

鳴り終わる前に去年も見飽きた顔の教師が入ってくる。

教室からは「また南野先生だ!」という喜喜とした女子の声や、「また南野かよ…」と苦虫を噛み潰したような顔で唸る男子の声がする。

「はーいお前ら、おはよぅ!!いい顔してる子もいればしけたツラしてる奴もいるねぇ!」

心なしか、俺の顔を見て「しけたツラ」と言ったような気かして、少しムッとなる。


南野 茘枝(みなみの らいち)。体育と国語を受け持つ、この学校では有名な教師だ。

科目を二つ受け持つのには理由がある。

それは彼女が、解離性同一性障害、所謂「多重人格」だからだ。

いま出ている人格はアグレッシブで、大阪のおばちゃんのような元気なものだ。この人格では体育を教えている。運動神経は非常に高く、彼女を越せる者はこの学校には居ない。

いま出てない、おしとやかで優しいお姉さんのような可愛らしい人格は国語を教えている。前に説明した人格とは全く逆で、個人的には常にこっちの人格でいてほしい。


なんてぼーっと考え事をしていると、前から何かが飛んでくる。それは反応できない俺の頬をかすめ、後ろの壁に当たり、粉々に砕け散った。

チラと振り返ると、白い粉塵があがっていることから、恐らくチョークだったのだろうと推測できる。が、頬を伝わる温かい液体がその推測をぶち壊す。

「秋山ぁ~……貴様初日のホームルームの、しかも私が担任を務めているにも関わらずなぁにボォーーーーーーっとしてんのかねぇ~?」

南野先生の髪が総毛立つ。いや、怒髪天を貫く……とも言える。

とりあえず、明らかな殺意がピリピリと肌に突き刺さる。

生徒相手にここまでキレるかよ普通……

「そんな……滅相も御座いませんよセンセイ……ちゃんと聞いてますよ、ハイ」

ポケットからハンカチを取り出し、頬の血を拭う。無意識に、手が震えていた。圧倒的、恐怖。


「よろしい……さて、今日はビッグニュースがある。さあ、なんだと思う?」

先生の問いかけに、しばし教室がざわつく。中には、お互いに顔を見合わせてはにやつく奴らもいる。

「情報が早い奴はすでにご存知だろうが……なんとぉ?本日よりこのクラスに転校生が来まーす!!」

「おおおおおお!!」と教室中が沸き上がる。

俺はただ、はぁと溜息一つついて外を見る。

興味がない、期待もない、面白くも何もない。

それよりも、窓の向こうで遊ぶ小鳥や風で桜が舞い上がる様を見ている方がまだ趣がある。

「さぁ!転校生よ!入ってらっしゃーい!!」

先生の合図と共に、ガララと音を立てドアが開く。


そこに立っていたのは茶色の髪が煌々と光を受け輝き、その髪に萌黄色のカチューシャが映える。凛とした表情からどこか大人びた印象を覚え、しかし、ふにゃとはにかむと年相応の可愛らしさが感じられる。低い身長と華奢な身体つき。見た感じ、運動神経は良さそうだ。

総評:上の中。男共の興奮は絶頂に達している。一部の女子からは冷ややかな目が飛んでいるが……。

「はいはい、静粛に!!さ、自己紹介してくれるかな?」

先生の隣に立つと、より身長の低さが際立つ。……まぁ、南野先生が172cmなんていう男のような背丈を持っているのもある。

「皆さん、初めまして。篠原 つぐみ|(しのはら -)と申します。諸用の為、此方の学校に転校してきました。この周辺は初めてなので、誰か教えてください」

にこっと笑うと、また男共が「俺が!俺が!!」と沸き上がる。

男心を掴むのに慣れてるなコイツ。

「あ、そうだ。特技はマジックなんです」

と、黒板に向かい手のひらを左から右へ、一振りすると「篠原 つぐみ」と文字が浮かんだ。


「おおっ!!」「すごーい!!」「どうやったんだぁ!?」

と、驚愕の声が上がる中、教室の左斜め後ろ、窓際の席に座っていた俺には、奇妙なものが見えた。

彼女の手のひらの中で、小さなチョークが高速で文字を書いていたのだ。

それはまるで、手のひらに指が生えて書いているかのように。

この女には警戒をすべきだと、俺の中の何かが囁く。

と、彼女を見ていたら一瞬、目が合った気がした。

――

「――あぶねぇ!!」

――ッ!!

脳裏で、映像が流れる。

校舎の屋上から……彼女が落ちてしまいそうな、そんな映像。

ズキズキと頭が痛い。

あいつとは……篠原つぐみとは今日初めて会ったはずなのに、何故このような映像が……?

あまりにも鮮明で断片的な記憶に、問いを重ねるとさらに痛みが増す。まるで、思い出してはいけないと脳が抑制している感覚だ。


痛みにうなされていると、後ろに誰かが座った気配がする。後ろを振り返ると、転校生がにこりと笑った。

「よろしくね、秋山君」

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