表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

二人のキラリ

 事件の詳細はこうである。

 一言で言ってしまえばストーカーによる放火殺人事件であった。犯人は犯行現場近くで火災が発見されてすぐに逮捕された。

 男はある日ネットで見つけた可愛いい女の子を、いつしか自分の所有物であるかの如く思い込むようになった。やがて男は一大決心をして、その純粋無垢な愛を告白するために、のこのこと現実社会に出てはみたものの、あっさりと断わられた。だがその答に納得も反省もないまま、相手がワガママなのだと決め付けた。

 そして報復と称して殺してしまった。

 全く馬鹿げた論法だが彼にはそれが正論であり、人生の全てなのだろう。

 全く理解には程遠い。

 だがこの事件の不可解さはそこではないのである。あろうことか被害者が全くの別人とすり替わっていたのだ。

 県警の本多警部の話によると、現時点では混乱を避けるためにマスコミには発表を控えているそうだ。何故なら犯行があった時間に、その被害者はブログを更新していたのである。もちろん人気ブロガー「キラリ」としてである。

 それが何を意味するのか。

 そもそも何故被害者が入れ替わっていたことが逸早く分かったのか。それは彼女には前科があり、指紋の照合が可能だったからだ。

 キラリこと岡林綺羅、二十一歳は二年前に傷害事件を起こし、起訴猶予になったことがあったのだ。その事件が事件だけに、本人の名誉も考慮されたのかも知れない。彼女はいわゆる美人局の「つつ」であった。そこに因縁をつけてきた「カモ」に対して暴力を振るったのだ。何とも危険な香りのする人気者ではないか。

 つまり人気ブロガー「キラリ」は一人ではなかった可能性がある訳だ。だがもしそれが本当だとすれば、本物の「キラリ」はどこへ行ってしまったのか? 謎は深まるばかりだ。

 そこで本多警部から龍司さんに、龍司さんから僕に話が回ってきたという訳だ。

「翔平、お前ならどうする?」

 龍司さんのいつもの決まり文句だ。

 僕ならまずブログの読者、とくに過去にコメントを多く残している人物を探ってみる。何を書いているか探ってみることで、炙り出せるかも知れない。だけどそれって警察の仕事じゃないのか?

「繊細なプロファイリングが出来るとしたら翔平しかいないだろ」

 龍司さんは一体僕を何だと思っているのだろうか。それに少しばかり買いかぶり過ぎじゃないか? 

 だが龍司さんはそんな僕の疑問に耳など貸してはくれない。

 そう言えば彼女、最近になってテレビ番組に出演したことがあったな。その時の番組のビデオは残っていないだろうか?

 答えはすぐに出た。

 今時は少しでも話題になりそうな動画はすぐに探し出せる。もちろん違法ではあるが、海外のサイトならばいくらでも投稿できるのだ。動画に少しばかりの英訳や中国語訳をテロップにして足してしまえば、そんなサイトはいくらでも食い付いてくる。

 問題の番組はすぐに見つけることができた。そればかりかイベントに参加する動画もいくつか見つかった。あとはじっくり内容を確かめるだけだ。

「いくら何でも画像にチラッと映っているというだけでどこのどいつか調べ出すのは難しいぞ」

 本多警部は顔をしかめる。

 いや、本当にそうだろうか。警察庁はまだあまり表沙汰にはしていない「顔認証システム」があるはずだ。僕の学校の先輩にもシステムの開発協力をしている人物がいる。

「あの、本多警部……」

 後ろから部下の山田刑事が声を掛けた。昭和の刑事ドラマの雰囲気をそのまま体現している本多警部に対して、山田刑事は僕よりも四歳ほど年上の、割とどこにでもいそうな優しいお兄さんと言った印象だ。対照的な存在感でいて、事件となると不思議と息が合う名コンビって感じだ。

「本多警部、科捜研に持ち込まれてはどうでしょう。もしかしたらその、翔平君の言うことはまんざら外れてはいないと思います」

「なんだ、どういうことだ?」

 よし、これで話は決まりだ。あとは誰が怪しいのか、しっかりとチェックするだけだ。運良く対象者が映っていれば糸口が見つかるはずだ。

 それから僕には気になることがもう一つあった。

 そもそも「キラリ」のブログが注目されるようになったのは洋服のリメイクや古くなった靴やバッグ、他の小物のリメイクだった。どちらかと言えば地味な作業のようにも思える。だがメディアに姿を現わす彼女はまるでファッションリーダーさながらに、派手な振る舞いを見せている。

 僕には彼女を観ていると、何だかギャップが感じられる。何故ならどの動画を観てもリメイクした完成品が並べられているだけで、彼女自身が実際に製作している場面は映っていないのだ。もしかするとずっと以前から「キラリ」は二人存在していたのかも知れない。そう思えてならなかった。

「本多さん、彼女がこの事件を知らない訳がありませんよね。だとすれば本物のキラリは今どこにいるんでしょうか?」

「それを探し出すのが翔平の役目だ」

 かっこいい決め台詞的なことを言うけれど龍司さん、僕はただの学生ですよ! 警察の仕事でしょ、警察の!






 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ