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【短編】五番街通りの復讐屋 不良のいじめ野郎への復讐

作者: 桐沢遊

「か、返してく、わっ!」

「ハハハ!返す?何を?」

「…さ、」

「さ?」

「僕の財布と定期返して!」

「だったら!さっさとビール買ってこいよ」

「で、でも、高校生はお酒買ったらダメなんじゃ…それに、バレたら退学…」

「だ、か、ら!お前に買いに行かせるんだよ」

「じゃないと、これ、一生返さねーから」









「あ~!暇だ!最近でかい案件少ないからな~」

勇作が椅子にふんぞり返りながらいう。

「まぁ、オレらが暇なときは世界が平和ってことかな?」

「何自画自賛してるんですか…」

呆れて日由佳が呟く。

「ネット上では、不適切な投稿続けてるクズがいるんですから…」

と言ってパソコンに向かう。

「ま、ネット上はお前に任せてるから、オレにはまったくもって関係ないんだがね」

「いい大人が高校生に仕事を丸投げですか…」

「だってオレはお前みたいにすべての投稿やIPアドレス、更には電波状況から住所を割り出し、所属する会社や学校、家族構成までを探索するソフトなんざ、作れねーから!」

「T大出身が聞いて呆れますね~」

微笑みながら言う。

「情報系は俺の専門じゃないからな」

そう言って勇作は時計に目をやりため息をつき、

「もう4時半か…今日は相談は来ないかな…なんか買いに行くか!」

と言って間髪いれずに、

「あ~、じゃあマカダミアチョコ買ってきて~」

日由佳がそんなことを言った。

「あ~、わかった。買うだけだからな!」

「え~!ケチ!」

という言葉が聞き終わらないうちに勇作は事務所を出た。








田辺は隣町のスーパーに来た。ここは酒を買う際、年齢のチェックをせずに買えるのを聞いてきたからだ。息が上がっていた。

(はやく買わないと…お金全部たかりかねない)

そう思って急いでいたからだ。

店に入りかごを取り酒類のところに行った。

走ってきたので息が上がったのを整え、かごにビール缶を入れた。

5本目を入れたその時、腕を掴まれた。

田辺はビクッとして振り向いた。

知らない男がニコニコしながらそこに立っていた。

田辺は膝が震えだした。

なぜならその男の微笑みは狂気を孕んでいたからだ。









勇作は高校生の腕を掴みニコニコしながら話しかけた。

「高校生がお酒を買っちゃあいけないなぁ…」

少年はおどおどしていた。顔が引きつってる。

「その制服…隣町の高校だね」

目には涙を浮かべている。

「いいのかな?そんなの買って…学校に連絡して、どうなっても」

そう言って黙って高校生の顔を見た。

泣いている。すぐに悟った。

「誰に頼まれた」

「え?」

「高校生で酒を買うほどの度胸があるのなら、学校にちくると言ったら普通は泣かない。因縁つけて俺に怒声を浴びせて去っていく」

「う…」

「いきさつを話しな」









1時間前に遡る。

田辺は通ってる高校の不良グループ4人にいじめを受けていた。

元々ひ弱な性格なので、いいターゲットになったのだろう。

暴力は当たり前。カツアゲや物を隠されたことは何度もあった。

今日は定期と財布をカツアゲされ、酒を買いにパしらされていた。

「買いに行かなかったら…定期も財布も返さない、と言ってきました。ましてや…酒を買う金は僕の財布から出したお金なんです…」

別の方向を向きながら勇作は黙って田辺の話を聞いていた。

「何度も何度もやめてくれ、といっても聞いてくれず、毎日毎日いじめられて…先生に相談しても何もしてくれないのです」

うつむきながら両手を強く強く握り締めながら悔しそうに語った。

本当に悔しそうにしてた。言葉には怒りや憎しみ、そして何もできなくて情けない感情が入り混じっていた。

「許せないか?」

今まで黙って聞いていた勇作に、田辺は驚いた。

許せないか?そんなの決まってる。殴りたいのなら殴りたい。でもそんなことしたらおおごとになる。でもできない…

「なら…俺が力になってやるぜ?」

それと同時に田辺はふと勇作の顔を見た。

微笑んでいたが、先ほどの狂気を孕んだ笑顔ではなく温かな笑顔だった。

その顔に安心したのか、田辺は黙って頷いた。










ついて来い。と言われたので田辺は勇作についていった。

勇作は電話をしていた。

「うん。とりあえずきっかが忍び込んで写真を撮るように言ってある。それを送られたあとすぐにメール作成しろ」

というのは聞こえていた。一体この人は何をするのだろう。と思った。

「ついたぞ」

「え?」

酒屋だった。

「どうした?ついてこい」

「え?あ、はい」

そう言って二人は中に入った。

「いらっしゃ…ってまたお前か…」

「おう!まただ」

「同じ理由で何度も来るなよ…」

そういって、店主は奥に入っていった。

「あ…あの…」

「詳しい説明はあとだ。あ、おい!あとビール缶4本な!」

「わかった!わかった!」

と言ったあと奥から店主が商品の入ったレジ袋を持って出てきた。

「ビールと合わせて2750円」

といったと同時に勇作は田辺の方を向き、

「ほれ、出しな」

といった。

「え!?僕が払うんですか?」

「口突っ込んだとはいえ、ビジネス、だからな」

「でも僕、1000円しか持ってないですが…」

嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべ、レジの方へ向きを戻し、

「フン。じゃあ差額は俺が出す」

と言った。

「ガキに頼るなよ…」

と呆れて店主が言ったあと、勇作はレジ袋を受け取る。

そしてそのレジ袋をまだ状況の読めていない顔をしている田辺に渡した。

中身を見た。

そこにはビール缶4本と無色透明の液体が入った瓶があった。

「これからこのあと、お前がどのように行動するのか命令する」

と話す勇作の顔を見た。真剣な面持ちだった。









「か…買ってきました」

ここは不良グループ4人がたまり場としている校舎裏倉庫。

「遅かったな!」

「遅すぎたから財布の残りの金使っちゃったよ!」

ゲラゲラ笑う4人。そして田辺に近づいてきて吸ってたタバコの煙を顔に吹きかけた。

咳き込む田辺に4人はまたゲラゲラ笑った。

田辺の腸は煮えくり返っていたが、勇作の言われた通り我慢した。

(ここでことを荒立てたら、勇作さんの思いが、無駄になる!)

へへへ、と笑いながら一人がレジ袋の中を見る。

「ん?なんだこれは?」

レジ袋の中には頼んだビール以外に透明の液体が入った瓶が入ってた。

「あ、ああ。スーパーじゃどこも年齢確認を行って買えなかったから、知り合いのところから少し分けてもらったんだ。そのウォッカ」

「ウォッカ…へ~、これが」

目が輝いていた。

「ねぇ、だから、定期と財布。返して」

力なく笑う田辺に向かって財布と定期を投げた。

「またよろしくな!」

「今度またたっぷり遊んであげるからよ」

笑われながら田辺は倉庫から出た。

その後田辺は気づかれないように急いで駐輪場に止めた自転車を取りに行った。

自転車にのり猛スピードで駅に向かう。駅に着いたあと田辺は公衆電話へ向かい勇作に電話した。

「渡しました。あのお酒」

「へっ、よくやった。あとは明日が勝負だ」

「あ、明日?」

「多分、アンケートを書くはずだ。その時あいつらが今までお前らにしてきたことを書け。今度こそ学校は動いてくれるだろう」

といって電話が切れた。

「アンケート?」

田辺には勇作の言ってる意味がわからなかった。










田辺が出て行ったあと、4人はしばらくバカ騒ぎをしてた。

4人のターゲットは田辺以外にもいるのか、またカツアゲの話や暴力座他の話だった。

そして田辺の持ってきた液体に目をやる一人。

「これがウォッカ、ねぇ?」

「初めて見たぜ」

「なぁ、一気呑みしねぇ?」

「いいねぇ!こんな上物の酒で一気飲みとかゆめだったんだよなぁ!」

そう言って4人は自分の器に液体をなみなみ注ぎ一気飲みを始めた。

そして、

「せーのっ!」の掛け声とともに全員が飲み始める。

ゴクゴク飲む。ごくごくごくごくごくごくごく。

飲み終わったとき、3人はバタリ、と倒れた。

「オイオイオイ、だらしねぇなあ、お前ら」

と言ってタバコをくわえ火をつけた、その時。

オレンジ色の光が目の前に広がった。










「田辺から連絡が来た。メールを学校に送れ」

と勇作は電話で話す。

「分かりました」

受話器の向こうは日由佳だった。

「やっぱりお前と橘花の仕事は早い」

「ただで引き受けるなんて、鹿島さんも優しいですねぇ」

「ただではない。1000円だ」

「酒代。ですか」

「あぁ。あの酒は特別」

「いつものアレ、ですね」

「馬鹿どもが知らずに一気飲みする姿や無意識のうちに火をつけるさまが目に浮かぶ。スピリタスと知らずに、な」

「いじめっ子の不良対策の万能薬ってか!?」

そう、勇作が田辺に渡した酒は、スピリタス。

アルコール度数96度、ポーランド原産のウォッカ、スピリタス。

あまりの度数の高さに飲む時は喫煙を禁じられてる酒。

「ああやって自分を悪く見せてる奴は度胸試しをしたくなる。一気飲みがそれだ。しかも、有名な銘柄の酒を渡せばそれこそやりたくなる」

「あとは急性アルコール中毒で、ぶっ倒れるのを」

「待つだけだ。メールに奴らは校舎裏倉庫にいることは書いたのか?」

「書きました」

「わかった」

と言って電話を切り、またかけた。

「よぉ、そっちはどうだ」

「大炎上!」

「ははは、吸ったか」

「みたいだね」

「あいつらの恐怖におののいた顔、撮れたか?」

「あんたは私を殺す気?」

「ハハッ、そりゃあ、メールに添付するためのタバコを吸った写真が天井裏からの撮影だもんな」

「あ、教職員たちが来たみたいですよ」

「慌てふためいてるだろうな」

「ご名答!奴らの写真でも撮る?」

橘花はすごく楽しそうだった。

しかし

「おい、俺らはそんな一般人が慌てふためく顔がみたいんじゃねぇ」

と制した。

「わかってる。でも見るのは自由だよね」

そして、じゃねといい電話が切れた。










1週間後田辺から電話がかかってきた。

「おう、元気してるか」

「はい」

静かな声だった。

「その割には声が元気そうにないな」

「一体何を渡したんですか」

勇作はすべて話した。

「な…なるほど」

「あいつらはどうなったよ?」

それは勇作が一番聞きたい内容だった。

「えっと、聞いた話では、3人が急性アル中になって2人が大やけど。1人は顔を焼く大怪我だったそうで」

ただし、勇作はその場にいた橘花から撮影された動画で倉庫の中から助け出されたことは知っていた。

「自業自得だなぁ…」

田辺は呆れたようにため息をついた。

「それで、アンケートが実施されただろ?」

「はい」

「そりゃあな!タバコ吸った証拠の画像が入ったメールが教職員のメールに一気に届いたうえ、ボヤ騒ぎ!実施されるわな!で、言われた通りに自分が今までされてきたこと書いたんだろうな?」

「えぇ」

「そう書いたなら、教員は動かざるをえないだろうな。しかもおおごとになっているから校長の耳も入ってるはずだから。」

「あ、あとあの4人から被害を受けたのは僕だけでなく、ほかにもいっぱいいたそうなので」

ひと呼吸おいて、

「全員退学処分だそうです」

「被害を受けた奴らが全員そう書いたのか…そうか、わかった。それだけで十分だ。あ、あと、これからは、電話するなよ。もう俺に頼らなくてもいいんだからな」

「こんなこと言うのはなんだけど。本当に、ありがとうございます」

勇作は鼻で笑い、

「礼を言うのはこっちのほうさ」



うまい肴が手に入ったんだからな!

簡潔にいじめを解決したいのならばこれが一番の得策。

本来そういうやつらは自分らを悪く、怖く見せたいがために高校生のくせにタバコを吸い酒を呑む。

なのでスピリタスを渡しておけばいいのである。


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