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夏30日 ミズキ 迎える立場

黒の王子の衣装を張り切って作って、殺陣たての練習をして。

準備期間が二、三日しかないから、台詞はある程度アドリブでいこうってことになった。

最初は台詞を考えようと思っていたのだけれど、あいにく私は厨二属性を持っていないのでホセが喜ぶような台詞回しが思いつかなかった。

それに演劇初心者のホセが、短い劇とはいえ台詞を覚えて棒読みにならずに演技できるとは思えない。

本番は、ホセが適当に厨二台詞を撒き散らすのにこちらが合わせるつもりだ。

衣装を作ったり演技の練習をしたりしていると、部活をやっていた時みたいでなんだか楽しい。

またバック転もできるようになったし、久々の舞台、寸劇だけど派手にやるぞ!

それにしてもこの浮き立つ気持ち、文化祭や定期公演の練習と言うよりは、新入生勧誘用の劇の準備をしている時に近いものを感じる。

この半年間、私はこの村で一番の新参者であり、ずっと迎えられた側の立場だった。

でも今回は、私も迎える立場だ。

村の一員として「ラスシャ村へようこそ」と言えるのが、なんだかちょっとくすぐったくて、そして嬉しい。

調査員のうち二名は女性らしいし、張り切って格好良く歓迎するぞー!



本番はホセの台詞にアドリブで合わせていくつもりではあるが、一応ホセの厨二台詞の傾向等は掴んでおきたい。

そういうわけで夕方、雑貨屋の前でホセと練習をしていると、ディオさんがやってきた。


「あ、今日、調査員来ないって」


ディオさんのその一言に、人を迎える喜びに膨らんでいた私の気持ちがぷしゅーと萎んだ。


「チャラ……失礼。ディオさん、どういうことです?」

「別にチャラ男でもいいけどさ」


ディオさんは、私のファンのうち一部の女の子たちからの評判が悪い。

彼女たちの発言を集めると「あの人チャラくて~」「女と見たら誰彼かまわず声かけるし」「この村きってのチャラ男よ」「女なら老婆から幼女まで手当たり次第なのよ。この間もお婆さんの荷物運んであげるふりしてちゃっかりデートしてたのよ」「チャラ男って呼ぶと長いから、こっそりチャラって呼んでるの」などなど。

お婆さんの荷物を運んであげたりとか、チャラいんじゃなくて単に女性全般に親切なだけなんじゃないかと思わなくもないが。

あと、「チャラ」と呼ぶのも「ディオ」と呼ぶのも手間は変わらないと思うのだが。

ただ、彼女たちがあまりに「チャラ」と連呼するものだから、うっかり私にも彼の名前は「チャラ」として刷り込まれてしまった。

ちなみにファンの子たちのフォローをしておくと、彼女たちは架空の王子をちやほやして盛り上がりたいだけでリアル男はお断り、自分がリアル男に女性として認識されてあまつさえちやほやされるなんて気持ち悪いと考えているタイプだ。だからディオさんのことも受け入れられないらしい。

私もこの村に来てからディオさんに限らず女性扱いされることが増えて、気持ち悪いわけではないがなんだかこそばゆく落ちつかない気持ちになったから、彼女たちの気持ちもなんとなくわかる。


「到着が遅れるんだって。明日来るってさ。

 今日は有志による一芸披露有りのただの宴会に変更。前夜祭みたいなものかな」


歓迎会の前夜祭ってなんだいったい。


「有志ってことになってるけど、たぶんほとんど誰も出ないだろうし、

 出来たら出てくれた方が助かるんだけど」

「ならば私は出ようか」


ディオさんの言葉に私は頷いた。


「二回同じ劇をすることになるが、歓迎会のリハーサルと思えばいいしな」


少しでもホセに舞台慣れしておいて欲しいし、私にしたって本番さながらの練習はあるにこしたことはない。やっぱり観客がいるといないじゃ、結構違うからね。

せっかく迎える立場になったんだ。私の力量の中で最大限の歓迎をしたい。


「俺もいーぜ」


ホセも今日の舞台参加に同意すると


「お、ほんとに? 助かるよ。オレもなんかやんないとなあ……」


ディオさんは嬉しそうな顔をしたあと、苦笑して頭を掻いた。

ディオさんに苦笑の理由を尋ねると、自警団は本日の一芸は強制参加で、しかも明日披露する一芸とは別の芸を披露しなければならないらしい。

ディオさんは今日披露する芸が思いつかなくて困っているそうだ。


「ああ、だったら……私たちの劇に一緒に出ませんか?」


困っていると言えば、私も困っていることがあった。

私は今まで王子役を数多くこなしてきたがすべてヒロインがいる劇だったので、ヒロインがいないホセと二人きりの劇はどうにもやりにくいのだ。


「劇かあ。オレやったことないよ? いいの?」

「もちろん。お願いできたらこちらも助かります」

「そうなの? オレはどんな役をすればいいの?」

「ヒロインで」

「え!?」


たしかディオさんは女装が趣味だとシュシュさんが言っていた。


「ディオは女装をして自ら女性になりきることで、女性が求める理想の男像を模索しているのよ!」


とのこと。

私は一応生物学的には女なので女の子たちが求める王子像ってなんとなくわかって演じられるんだけど、生粋の男性だとなかなか大変なのだね。


「私もヒロインがいない劇をするのは初めてで、勝手がつかめなくて困っていたんです。

 ディオさんは演劇の経験はないとのことだが、女装が趣味と伺いました。

 服を着るだけなら簡単だが、女性になりきることもやっているとのこと。

 それもまた演技のなので、ディオさんヒロインとして参加していただけると大変助かります」

「オレ、女装が趣味なの!? 誰が言ってたのそれ!!」

「シュシュさんが」

「あー……なるほど……。いや、オレはね別に女装が趣味なわけじゃなくて……」


ディオさんが困った表情で、以前女装をしたいきさつを話し出した。

どうやらシュシュさんの嘘というか冗談で、ディオさんが女装をしたのは仕事上のことでしかも一回きりらしい。


「そうなのか……」


深淵の騎士と黒の王子がヒロインをかけて戦うという設定だと、私としてはやりやすかったのだが。

ヒロインがいないとどうも、王子のモチベーションが下がるんだよね。


「残念だ……」

「え、そんなに?」

「はい……結構真剣に状況を改善する良い案だと思っていたので……」


もちろん私自身は役者としてヒロインがいなくても完璧な王子を演じるべきであり、ヒロインがいないと上手く演じられないなんて役者失格だと思う。

だけど今の私では、今日明日という短時間でその役をものに出来るとは思えないんだよね。

せっかく歓迎を表すんだから、できれば得意分野の一番良い劇を見てほしかったんだけど。


「わかった、やるよ」


項垂れていた私の頭にディオさんの参加表明の声がふってきて、驚いて顔を上げる。


「女の子にそんなしょんぼりされちゃ、断れないしね」


ディオさんは「しょーがないなー」って気持ちが前面に出た苦笑いをしていた。


「え、いや、私は……」


突然の女性扱いに、面くらう。

いや、べつに突然じゃないんだろうけど!

ただ私がまだ女性扱いされることに慣れてないだけで!

く……、これがディオさんのチャラたる所以か……。


「つーか、んなあべこべなことしてねーで、

 ディオが黒の王子でミズキがヒロインやればいーじゃねーか」


それまで黙ってディオさんと私のやりとりを見ていたホセが、ここにきて口を開いた。

そういえばホセも微妙に私のことを女性扱いするやつだった……!


「ああ、たしかに」

「いやいや、私は……」


私は王子! 王子なんだよ!!



その後、なぜか三人でヒロイン役の押し付け合いが始まり、その日のリハーサルは痛み分けということで、三人揃って女装して舞台に上がった。

明日こそは、格好良く王子を演じて歓迎したいと思う私だった。


……あ、私は女装じゃないのか!


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