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夏29日 ロバート これからの二人

二日顔を合わせない程度のことは、珍しいことじゃない。

それこそミズキちゃんがこの村にくるまでは、手紙の配達の時くらいしかリーンに会うことはなかった。

だけど付き合い始めてからは短時間とはいえほぼ毎日のように話しをしていたから、この二日リーンが顔を出さないのは、避けられているってことだろう。



「で、お前はここで待ってるわけね」


雑貨屋のカウンターで飲み干されたコーヒーのカップを片付けながら、ホセが迷惑そうに眉を顰めた。

ホセの話だと、毎朝おれが雑貨屋を出た五分後くらいにリーンが雑貨屋に顔を出しているらしい。

おれの所には来なかったのに、一昨日もホセの所には寄ったというから業腹だ。おれの彼女なのに。

放っておくとこのまま際限なく避けられそうな気がするから、さっさと捕まえて話をしたほうがいいと昨夜おれは考えて、今朝こうして雑貨屋でリーンを待っている。

だいたい避けたくなるほど相手に対して不満があるなら、さっさとその不満を言えばいいんだ。

おれはどっちかというと煮えきるタイプだから、煮えきらず悩みを抱えたままうじうじしているなんて、我が彼女ながらイラッとする。


「ホセくんおはよ……う……」


ホセがカップを片付け終わって新聞を広げると同時に、リーンが店に入ってきた。

彼女のゆるっとした笑顔がおれと目が合って微かに引きつる。


「お、おはよう……。ここで会うなんて、めずらしい、ね?」


声をかけると、リーンはすいっと目を逸らした。

首を傾げる仕草が今日も可愛いが、その態度は結構腹が立つ。

だけどやっぱり可愛い。

本音を言えば今のおれの好みからするとリーンの容姿はちょっと幼すぎるのだけれど、それでもやっぱり恋人補正で世界一可愛い。

リーンとは夕方の約束を取り付けて、ホセには騒がせたことを簡単に謝ると、おれは雑貨屋を後にした。



さっきまでリーンの態度に腹が立っていたのだけれど、落ち着いてくると「まあいいか」と思えてきた。

どんな理由で避けられているのかは考えてみたもののまったく想像がつかないけれど、想像できたところでそれが正解とは限らない。

結局、本人に聞いて見なければ本当のところはわからないんだ。

想像がつかなさ過ぎて、別れ話をされる可能性もあるのかもしれないと思うと、それだけが少し不安だ。

夕方、そろそろリーンがくる時間だと思うと落ち着かず、二階に上がり客室の窓から外を眺めると、少し上空にリーンがふよふよと浮かんでいるのが見えた。

手紙を手に持って、しょぼくれた顔をしている。


「敵は……手紙の彼女じゃないから、かな」


よくわからないことを呟くリーンに声をかける。

このまま声をかけないでいるとあと十分は余裕で待たされそうだから。

屋根の上に登ると、夕立後の涼しい風が頬を撫でた。

特別高いところが好きというわけではないけれど、彼女の見ている世界をおれも見てみたくて、おれは時々屋根の上に登っている。

リーンには「ちょっと違う」と前に言われてしまったけれど、それでも、おれが登れる一番高い場所はここ以外になかった。


「なにか言いたいことがあるんじゃない?」


郵便物を受け取ってから話を切り出すと、リーンは怯んだような顔をしたあと俯いて、膝の上で組んだ手の指を何度も組み替えた。

ここまできたんだからさっさと言えばいいのにと思わないでもないけれど、それはおれのペース。彼女には彼女のペースがある。


「ロバくんは今も……昔のわたしが、好き?」

「好きだよ」


だいぶ時間をかけて口から出た彼女の問いに、おれは何も考えず肯定した。

おかしいなと思ったのは、リーンが微かにショックを受けたような顔をして俯いたからだ。

好きだと伝えてショックを受けられる意味がわからない……いや、『敵は手紙の彼女じゃない』ってそういう意味か。

リーンは、自分とテラを体が同じだけの別の人間として捉えているのか。

おれにとってはリーンもテラも完全に同一人物なんだけどな。

人に対して臆病で、それなのに甘えたで、我が強くて、あざとくて、したたか。

そんなに性格がいいわけじゃないのに、でもなんとなく可愛い。


「きみのすべてが好きってことさ」


おれの気持ちを伝えれば、頬を染めた彼女が濡れた瞳で見つめてきた。


「わたしも、ロバくんが好き」


彼女に「好き」と言われると、心の中にふわっと暖かい風が吹くような心地がして、表情を保つことが出来ないくらい嬉しくなる。

再び付き合い始めてから何回目かのリーンからの「好き」は、回を追うごとにそこに乗る気持ちが深くなっているような気がして、それがまたおれの心を浮き上がらせた。

見つめる彼女の瞳に吸い寄せられるように顔を寄せて、唇を重ねる。

やわらかさを堪能しつつも、押さえがきかなくなる前に離れると、リーンがとろりとした顔で


「もっと」


と強請ってきた。赤い舌がちらりと見えて、劣情を煽られる。

本当に、今も昔も彼女は変わらない。

快楽に従順なところも、全部。



その後少し話をして、彼女に「大好き」と言われて部屋に連れ込もうか考えていると、白い目をしたヴァニラに「お兄様、お店の準備をそろそろお願いしてもよろしいでしょうか」と呼び戻された。

思っていたよりもだいぶ時間が経っていて、店の準備をしないとたしかにやばい。

リーンが手伝いを申し出てくれたので、野菜を切るのを彼女に任せて二人で厨房に立った。


八年前、おれは見習い調理師で彼女は軍属魔道師だった。

一緒に調理場に立つなんてあの頃は考えもしなかったけれど、これから先ずっと一緒にいるのなら、この光景が当たり前になる日だって作ることが出来る。

彼女が望むように。おれが望むように。

隣に立つリーンを見ると、視線に気付いた彼女が首を傾げてはにかんだ。


「一緒にいよう。これからも、ずっと――」



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