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夏28日 アッシュ ショボいボクらの誇大妄想

アル――アルフレッド・ヘルファイアがボクの住む村に来ることになった。

調査のためだってわかってるけど、アルにこんな田舎はふさわしくないと思うっていうか……、兄貴たちはアルたちの歓迎会をしようとしてるみたいだけど、一芸披露と手料理でもてなす歓迎会なんてショボいっていうか……。

ボクもこの村の一員として、ショボい村のショボい奴ってアルに思われるんじゃないかって、なんかちょっと微妙な気分だ。

そりゃ、今のボクはたしかにショボい村のショボい奴なんだけど、だからこそもしアルに会うとしてもその時は、勉強して都に行ってちょっとはデキるボクになっていたかったのに。




学校帰り、川に寄るとミズキが木の棒を振り回していた。

川まで来る途中、ガキたちが同じように木の棒振り回してたんだよな。アルに弟子入りするために練習してるつもりらしい。

ミズキはボクに気付くと棒を収めて、ボクの顔を見て苦笑いした。


「今日も喧嘩か?」

「どーでもいいだろ」


今日の学校は、アルが来ることと歓迎会の話題で持ちきりだった。

いまだに「大人になったら騎士になる」とか普段から言ってるやつなんか「アルに弟子入りするんだ!」とか馬鹿みたいなこと語ってるし、青年団に兄姉がいるやつは自分の兄がやる芸について「おれの兄ちゃんすげーんだぜ!」とか言ってるし、本当に馬鹿かっての。

ボクが「馬鹿じゃねーの。うちみたいなショボい村の人間、騎士に相手にされるわけねーだろ」って言ったら、クーが「でもでもっ! ヒュー兄は世界で一番格好良い鍛冶屋だもんっ!」って口ごたえしてきた。

鉄下駄作って悦に入ってる奴が世界一なわけねーだろ。だいたい鍛冶の技術だって全然じいちゃんに追いついてねーのに。

なのにクーは「世界一だもんっ!」って言って譲らなかった。

ああなると絶対クーは折れないから、ボクはさっさと放って帰ってきただけで、別に喧嘩と言うほどのものじゃない。


「きみはアルフレッドって騎士のファンなんだよな」


一人になりたくてミズキに構わず上流に向かって歩き出すと、ミズキが後ろから声をかけてきた。


「……そーだけど」


アルのファンってだけで騎士好きじゃないってところ、ちゃんと理解してて欲しいけど。


「じゃあ楽しみだな」

「……そーでもない」


ボクよりミズキの方が楽しみなんじゃねーの。棒振り回してるし。

ミズキもアルの弟子になるつもりでいるのかな。馬鹿じゃねーの。


「そうか。私はちょっと楽しみだな。

 別にアルフレッドじゃなくても、誰でもいいんだけどな。

 誰か新しい人が来て、歓迎会を開く側になるというのはなんかいいぞ」


返事をしながらも足は止めずに上流に向かったのに、なんでかミズキは後ろから付いてきて話しかけてきた。


「何でついてくるんだよ」

「なんとなくだが。ああそうだ、ちょっと殺陣たての練習を見てくれないか?」

「何でボクが」

「クラスメイトのよしみでさ」



「……わりとよかったんじゃねーの」


ミズキに無理やり見せられた剣術の演技は結構様になっていて、微妙にどんくさいミズキじゃないみたいだった。

ミズキは別にアルに弟子入りするつもりで剣の練習をしていたわけじゃなくて、歓迎会でホセと披露する劇の練習をしていたらしい。


「そうか、よかった。アシュレイくんもちょっとやってみるか」

「何でボクが」

「クラスメイトのよしみでさ。

 相手がいる状態でも練習したいんだが、ホセは店があって忙しいからな」


ミズキにせがまれてその辺に落ちていた木の棒を拾って構えると、気持ちがすっと落ち着くような気がした。


「おや、結構様になっているね」

「どーでもいーだろ」


ボクは一年前までは自警団の団長に剣を習っていたんだから、構えくらいできて当然なんだよ。

今みたいに川のそばで自主練してたらクーが真似してやりたがって、遊びで手合わせしたらボクは初心者のクーにあっさり負けて、その上はしゃいだクーが喘息だしたせいで母さんに怒られて、馬鹿馬鹿しくなって剣なんてやめたけど。


「ボクが合わせるから、ミズキは好きに動けよ。

 ホセもミズキに合わせて動くくらいできると思うし」


ミズキの演技に合わせる形で棒を振るうと、ミズキの動きには明らかな隙が山ほどあることに気付いた。

はたから見る分には派手な動きで格好いいけど、全然実用的じゃない。

まあ、ミズキは強くなりたいんじゃなくて格好良く演技したいだけみたいだから、いいんだろうけど。

でもボクは、せっかく剣を持つなら、やっぱり本当に人を守れる剣の方がいいと思うけど。


しばらく棒を打ち合わせていると、草むらからクーが飛び出してきた。


「クーもっ! クーもやりたいですっ!」


ボクとミズキが手合わせをしていると思ったのか、目を輝かせてクーがせがんできた。

クーが棒の間合いギリギリくらいまで無防備に近づいてきたので、ボクとミズキは打ち合いをやめる。


「クーは駄目。喘息起こすかもしれないだろ」

「でも……」


クーは体を動かすことが好きだから、こういう剣の(棒だけど)打ち合いとかも好きだ。

だけど気管支が弱いから激しい運動をするとすぐに喘息を起こす。

それがわかっているのにそれでもクーは活動したがるから、ボクはかなり面倒くさい。

聞き分けないクーに、ミズキが屈んで目を合わせた。


「これはかたい棒だから、怪我をするかもしれないよ?」

「クーは、それ、やったことあるです。怪我なんてしないです」

「おや、クーリエちゃんも経験者なのか。この世界の子はみんな剣を習っているのかい?」


ミズキはちゃんとした剣の使い方は知らねーみたいだし、ミズキのいた世界では子どもはあんまり剣を習わねーのかな。

まあボクたちだって、みんながみんな武術を習ってるわけじゃねーけど。

兄貴なんて剣は打つものであって、木人にさえ切りかかったことないだろうし。


「クーは魔女でねっアッシュは騎士になろうと思ってたのですっ。

 だからアッシュはダンチョーさんに剣をならってたのですっ。

 クーは見てただけですけど」

「昔の話だ」

「一年前までの話ですっ」


クーが余計なことを言うから訂正したら、さらにクーに訂正された。

ミズキの微妙に笑ってるみたいな顔がすげームカつく。


「魔女や騎士になるのはやめたのかい?」


ミズキが大人ぶった表情で、ボクたちにわかりきったことを聞いてくる。

ボクは学者か文官になるって、いつも言ってるだろ。


「あのねっそれはねっ」


ボクがミズキの質問に無視を決め込むも、クーは好き勝手に何でも喋ってしまう。


「クーは体が弱くて、魔女にも女騎士にもなれないのです。

 そしたらアッシュも騎士になるのやめるって……」

「クー。別に、ボクが騎士を目指すのをやめたこととクーは関係ねーし」


ボクが騎士を目指し続けるとクーも体が弱いのを無視して無理をするからとか、クーが魔女になれないのにボクだけ騎士になるのは可哀想だと思ったとか、そういうのじゃ全然ねーし。

ただ剣を習ってないクーに手合わせで負けて、自分の才能のなさに気付いただけだし。


「でもっ! アルがくるのですっ!」


クーが突然嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。

それに対してミズキが大人な表情のまま笑顔を深める。

ミズキのくせにボクたちを子ども扱いとか、本当ムカつく。クラスメイトだから同列だろ。

まあ、たしかにクーは子どもっぽいけどさ。


「クーリエちゃんも、アルフレッドのファンなのかい?」

「クーは違うのです。でもっ、アッシュがアルの弟子になったらきっとすごいのですっ。

 アッシュは世界一の騎士になれるですっ」


クーがミズキに対して自信満々に突拍子もないことを言い出した。


「ば……馬鹿じゃねーの!? なれるわけねーだろ! 弟子も! 騎士も!」


クーが勝手に言い出したこととは言え、誇大妄想もいいところのボクの将来予想を人に聞かれて、ボクは恥ずかしくて全力で否定する。聞かれた相手はたかがミズキだけど、それでもさすがに恥ずかしすぎる。


「馬鹿じゃないですっ。なれるもんっ! 絶対っ! 世界一の騎士にっ!」


ボクが大声で否定したからか、クーも対抗するような大声で妄想を叫んだ。

他の奴にまで聞かれたらどうすんだよ!


「クー! ちょっと黙れ!」

「黙らないもんっ!」


ボクがクーの口を押さえようと腕を伸ばすと、クーはするりとかわして走り出した。


「アッシュは絶対世界一の騎士になるですっ!」


大声で宣言しながら村を駆けるクーを追いかけてボクも走る。

クーは足が速いからボクは全然追いつけなくて、最後はクーが喘息を起こして、またボクはクーと一緒に母さんに怒られた。

そして翌日からしばらくの間、「よっ世界一!」と村の大人たちに声をかけられまくるのだった。


ああ、早く村を出たい。


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