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夏28日 ヴァニラ あたしとヒューさんの一芸披露

どうしようどうしよう。

あたしは今、明後日の歓迎会で披露しなければならない一芸について真剣に考え中。

鉄下駄のペンダントを握って考えても、良い案は生まれてこないし。

安産のお守りであって案産ではないのよね。

やばい、あたしあまりに切羽詰ってオヤジ化してきてる!?


「お兄ちゃん、なにか良い案ないかなあ?」


藁にもすがる思いでお兄ちゃんに聞いてみる。

お兄ちゃんはお料理とか提供するから一発芸は免除されてるんだよね、いいなー。

あたしは一発芸するしか道がないんだよ。


「あれやればいいだろ。小さい頃よくやってた……」

「サルの物真似? あれやるならシュシュが用意したバナナ食い競争に参加しても一緒でしょ!」


あたしは小さい頃、よくサルの物真似してお姉ちゃんにお菓子をもらってたんだよね。

すごーく小さい頃だよ、すごーくだよ! お兄ちゃんが都に出て行くよりも前の話なんだからね!


「そんなことより、これ広場に持って行ってくれ」

「そんなこと!?」


色んな意味で乙女の命がかかってる大事な局面なのに!

オヤジ化するかもしれないし! 舞台で恥をかくかもしれないし!


「ヒューたちが広場に舞台を作る作業してるはずだから、これ差仕入に持って行け」

「喜んで行ってきます」



広場ではシュシュに指示されながら、ヒューさんとジャンたちが舞台を作っていた。

台の高さも一メートルくらいあるし、広さも結構ある。使い捨てには持ったいない、結構立派な舞台になりそう。


「来月の祭でも使うからね、勿体無くはないのよ。

 それに、最近この村も少しだけど若いやつが増えてきたし、

 今回来る調査員だって最低半年、もっと長くこの村にいる可能性もあるから、

 村長がこれを機会に村を活気付けて行きたいんだって。

 この広場も今まで寂れた掲示板しかなかったけど、

 舞台も作って大なり小なりどんどんイベントやっていこうってさ」


差し入れが入ったバスケットを渡すと、シュシュが舞台を作ることになったいきさつを話してくれた。


「どんどんイベントやっていこうなんて、村長ってば自分の髪が惜しくないのね。

 ふふん、やっぱりドMジジイなのね!」


今日もシュシュはスパイシーでムーディな香りを漂わせてる。

村長の頭が草になってた間は、頭頂の一本に絡んだイベントはなかったけど、この前また生えてきちゃったもんね。一本だけ。

「なぜ抜くか。そこに毛があるからだ」って、シュシュも前代の青年団まとめ役の人に言われたらしい。

伝統ってやつなのかな。


それにしても、こんなしっかりした舞台で猿の物真似なんて、乙女の命は風前の灯だよ。

なんとか別の芸を考えないと!



差し入れはサンドウィッチで、ヒューさんはそれをひとつ手に取ると舞台の裏側の方へさっさと行ってしまった。

あたし、この前のミニ鉄下駄のお礼、言ったかどうか自信ないんだよね。

お礼を言うべくヒューさんを追うと、ヒューさんは舞台の裏手で大きな積み木みたいなものを重ねていた。横には大きなハンマーが置いてある。


「これって、ダルマ落としってやつかな」


思わず漏れたあたしの声に、ヒューさんが振り返った。


「ああ、当日の一発芸をこれにしようかと思って練習しているんだ。ただ……」


ヒューさんの凛々しい顔が少し曇る。


「ただ?」

「どうにも成功しなくてな。なんどやっても崩れてきてしまう」

「そうなんですかー」


あれ? なんか店以外でヒューさんとお話するのって、初めて……じゃないけど、でもでもすっごくレアだし、それよりなにより二人きりって初めてなんじゃ!

きゃー……いやいやダメダメ、暴走するにはまだ早いよあたし! 今日はちゃんとお礼を言うんだから!


「あのっ! 鉄下駄、ありがとうございました!」


あたしは勢いよくペコリと頭を下げた。

よし、言えた。頑張ったあたし。


「いや。……気に入ったか?」


ううぅ……ヒューさんのちょっと掠れたみたいな低い声。

あたし……もうゴールしても、いいよね。


「はいっ。えっと、小さいのは軽くて持ち運べるから今もつけてます!

 あ、でもっ! 重いのがダメだったわけじゃなくて、

 あっちも重いんだけどそれがいいっていうか……っ」


あたしは起きながらにして意識を手放した。

かすかに残った正気が「重さか……なるほど」と呟くヒューさんの声を聞いた気がした。



気がつくとあたしは、ダルマ落としの一番上に乗っていた。

ええと、二メートルくらいの高さがあるのかな。

どうやって上ったのかぜんぜん覚えてないけど、猿の物真似をしていたあたしは伊達じゃない。その気になればこのくらいの高さ余裕で上れるから、きっと自力で登ったんだと思う。

なんで上ったのかはまったくもって謎だけど。


「いくぞ」


下にいるヒューさんが低く小さく掛け声をして、ハンマーを一番下の段に叩き込んだ。

足元がぐらりと揺れるけど、咄嗟にバランスをとって落下する下段と一緒に一段分落ちて着地する。

あぶないなーもー。相手がヒューさんじゃなかったら物申すところだよ。

でもこれくらい、猿の物真似をしていたあたしのバランス感覚にかかれば、どうってことないけど。

それにしても、どうしてこんな事態になってるのかな。

下を見ると、口の端をちょっと上げて満足そうな顔をしたヒューさんと目が合った。


「いけそうだな」

「はっはいっ!」


少し目を細めるようにして貴重な笑顔を向けられて、状況は全然わからないけどあたしは……あたしは……!


「休憩終わりよー。……何してんのあんたら」


ああ、シュシュの声がする気がする。


「芸の練習なんだが。二人組で芸を披露してもいいんだよな?」

「別にいいけどー? で、何してるの?」

「達磨落としを披露しようと思ったんだが」

「ぷっ。あんたらしい微妙チョイス」

「達磨の造りが悪いのか、どうにもうまくいかなくてな。

 重さを足せば良いのではということで、乗ってもらったんだ」

「ふーん。どうでもいいけど、怪我はしない、させないでよね」

「もちろんだ」



その後正気を取り戻したあたしは、ヒューさんと二人で芸を披露することになった事実に、再び意識を手放すのだった。

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