夏27日 ホセ 歓迎会打ち合わせ
今日は若人の日。
シュシュが青年団の連中に相談したいことがあるっつって、急遽ロバートに今日を若人の日にしてもらったらしい。
「あれ? お前一人? リーンは?」
すでに騒がしい店内に、ミズキが一人で入ってきた。
「恋煩い中で家に引きこもりっころ」
「なんだその語尾」
「なんとなく。私が小学生の頃、モリッコロというキャラクターがいたなあ」
ふぅん。まあいいや。
「お前どこ座る?」
「とりあえずロバートさんに言わねばならぬことがあるから、カウンターかな」
きりりと口元を引き締めたミズキにただならぬ決意を感じ取って、様子を見るため俺もカウンターに座り直すと、ミズキはロバートにリーンの寝言について話し始めた。
何なんだいったい。
シュシュが雛壇の中腹に立って、店内を見渡し話し出した。
この雛壇、ミズキの歓迎会で使ったやつだ。
結構高さがあるから、パフォーマンスをするときなんかにその後もちょくちょく役に立っている。
「みんな知ってると思うけど、森の魔物を調査するための人たちが
今月三十日に王都からやってくるわ。
当面はここロヴァ亭で寝泊まりするらしいけど、やつらはサラリーマン。
つまりだいたい決められた勤務時間しか働かないわ。
それがどういうことかわかる? はい、マリー」
「ふぇっ? ええ?」
左にアンシー、右にミズキを従えて嬉しそうに酒を飲んでいたマリーが、突然指名されて狼狽えつつ答える。
「勤務時間が決まっているなら、遅刻しないように寝坊厳禁……かしら」
「それはマリーのお父さんに早朝の散歩がてらにモーニングコールをさせれば解決するわね。
ちなみにアタシが求めていた答えとは違うわ!」
曲がりなりにも村長であるマリーの親父さんにそんな雑用させんなよ。
まあ草が生えてる間は毎朝俺の馬を騒がせて、俺のことを起こしてくれたけどさ。
「アタシが言いたいのはね、『やつらは暇!』ということよ」
シュシュはダンッと足音を立てて段を一個上がった。
「調査は最短でも半年はかかるらしいわ。
つまり半年の間、やつらはここで食事をするし、
余暇には散歩したり川で釣りをしたりするかもしれないし、
当然この若人の会にも顔を出すようになるかもしれないってこと。
というわけで、歓迎会の打ち合わせをするわよ!」
そうして、歓迎会の打ち合わせが始まった。
「実は歓迎会の内容はもう考えてあるのよ。
自己紹介を兼ねて、舞台の上で一人一芸やっていきましょ。
名前と職業を言って、特技とかを披露していく感じね」
なんか、シュシュにしてはまともな内容だ。
「一芸が思いつかない場合は、宙にぶら下げたバナナを手を使わずに
口で取る競技に強制参加してもらうからね」
なんだその屈辱的な競技。サルになれってことか?
「それは、歌を歌うとかでもいいんですの?」
見た目の派手さの割に中身が凡庸なマリーがシュシュに尋ねた。
こいつ、特に芸とか持ってなさそうだもんなあ。
いや待て。ミズキんとこのヒヨコ、もとはマリーの髪の中から生まれてきたって話だったよな。サトウに協力させて、その巻いた髪の中からいろんなものを取り出せば、結構良い芸になるんじゃねーか?
「もちろん歌ってもいいけど……。
そーね。舞台で芸をするか、当日会場で飲食を提供するか選べるようにしようか。
飲食物は材料費程度の値段で販売することが条件よ。
舞台では、その日販売している飲食物の紹介と自己紹介をして頂戴」
「お菓子でもいいのかしら?」
「アタシはレモンタルトを所望よ!」
舞台で芸を披露しなくても良くなったことで、何人か青い顔をしていたやつの顔色が良くなった。
だが、
「お前は何悩んでんだよ」
ミズキの顔色が悪い。
ああ、こいつ料理とかできないんだったか。
でもこいつなら前の世界じゃ演劇してたらしいし、舞台で芸をするなんて慣れたもんだろ。
「自己紹介というのが……。名前と……名前はいいが職業が……。
『大塚瑞貴、職業ニート、その実体はみんなの王子です☆』なんて言えない!
頼むホセ、私を幽霊アルバイターとして雑貨屋の店員にしてくれ!」
「いやお前、服作って収入得てんだから自営業で服作ってますって言えばいいだろ」
「は! そうか!」
それよりお前、『みんなの王子です☆』っていう部分は本気で言うのか? それでいいのか?
「ホセはどうするんだ?」
「あ? 俺は普通に雑貨屋やってるって言うよ」
「いや、そうじゃなくてだな。芸をするのか? それとも料理でも出すのか?」
「あ。あー……」
俺かあ。何するかなあ。
料理は人に出せるようなもんじゃねえから、芸なんだが。
「私と短い劇でもやってみるか?」
「短い劇?」
「そうだなあ。深淵の騎士VS闇の王子って感じで殺陣でも披露するのはどうだ?
本職の騎士の前だと思うとちょっと恥ずかしいが」
深淵の騎士と闇の王子か。
こいつのことだから闇の王子役がミズキだよな。
てことは、俺は深淵の騎士?
「悪い案じゃねーと思うけど……」
俺は騎士っつー柄じゃねーと思うんだが。
「ホセはこないだ買っていた黒いコートを着ればいい」
「よし、やるか」
「つれたくまー」
こうして俺は、ミズキと短い劇をすることとなった。
当日、劇のテーマが「深淵の騎士VS黒の王子」から「深淵の騎士と黒の王子の薔薇の花園」に変わっていてえらい目をみることになるとは、その時の俺は考えもしないでいた。




