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夏27日 ミズキ あの娘の悩み相談室

リーンがなんとなく元気がない。

私がパンで出来ていたなら「ぼくの顔をお食べ」と言うところなのだが。

いや、やっぱり言わないな。あれはヒーローであって王子じゃないし。

私は王子であってヒーローではないのだ。

これは多分、恋煩いだろうなあ。

と、自分の恋愛ごとは記憶の彼方の王子は考える次第であります。

王子はプライベートな恋愛なんてNGだからさー。

大塚瑞貴(忘れそうだが私のフルネームだ)の恋愛経験なんて、幼稚園の頃の初恋についてしか思い出せない。

相手は「ひろし」くんだった。

彼の顔は眉毛が太かったことしか思い出せない。アニメに出てくるとある一家のお父さんと同じ名前で、しかも眉毛がちょっと似てたもんだから好きになったんだよね。

今考えれば、好きなのは園児のひろしくんじゃなくて画面の中のイケパパだったんだろうけど、その時は「将来はひろしと結婚するー」とか言ってたんだよなあ。

で、大塚瑞貴としてはその後の恋愛経験は皆無なわけだが、王子としては数多の恋愛を経験しているわけですよ!

王子、百戦錬磨ですから! もちろん演技の上でだが。

そこから推察するに、たぶんリーンは恋煩いに相違ない。

ロバートさんかあ……ちょっと苦手なんだよね。あの年上で余裕があって、自分の容姿の使い方を心得てる感じが。すぐボロがでるイミテーションというよりハリボテ王子な私としては、なんとも微妙な気分にさせられる。


「そういえば、今夜は若人の日だってホセが言ってたけど、行く?」


長椅子の上で膝を抱えているリーンに尋ねると


「ん……わたしは今日はやめておこうかな」


と返ってきた。

本格的に元気ないなあ。でも「どうしたの?」って聞いた結果、恋愛相談されても、私に助言ができるとも思えないしなあ。

王子の恋愛って王道ロマンスが多いし、そうじゃなくてもリアルな恋愛ものなんてやらないから、全然役に立つ知識がない。


「あのね、ミズキちゃん……」


だから私に恋愛相談はしても無駄だぜ!


「なんだい?」


なんて、言えるわけないんだよなあ。

私はリーンの隣に座ると、同じように膝を抱えた。

あー、これ、なんか落ち着く。

なんか落ち着いたら、私に恋愛経験はないけど、クラスの子たちが恋愛相談しているのをよく聞いてたことを思い出した。

相談者とアドバイザーが話しているのを、私は聞いているだけだったけど。

よく「彼へのプレゼントが決められない」だの、「付き合って三カ月も経つのにまだキスまでしかいってないの」だの、そんな感じの相談を、今のリーンよりも悲壮感を漂わせた顔で話してたっけね。

リーンのことだから「まだ手も繋いでないの」とか言い出すのかな。

微笑ましいな、ふふーり。


「……浮気は良くないよね」

「ごぼふっ」


吃驚しすぎて肺と胃の空気が同時に全部出たみたいな音が出た。


「ご……ぼふ……そ、そうだね?」


予想してた質問と思いがけずランクが違い過ぎてビビったわ。


「え? ロバートさん、浮気してるの?」


それは悪いやっちゃ。

付き合って約二週間で浮気がばれるとか、そもそも隠す気ないんじゃなかろうか!


「してるような……してないような……」

「どっち!?」

「本命の彼女は死んじゃったから、わたしで手をうっておこう……みたいな」

「ほーん」


そういう事情か。

その場合、死んだ本命がヒロインか新しい彼女がヒロインかで話は変わってくるよなあ。物語の場合。リアルの場合? 聞いてくれるな。


「わたしと彼女どっちが好きなの? って聞いてみるとか」

「ミズキちゃん、もしそれで『当然きみだよ』って言われて、信じられる?」

「無いな」


口先だけなら何とでも言えるもんな。


「……わたしは信じちゃいそうだけど」


おおう、惚れた弱みというやつか。

けどまあこういう相談って、結局のところ相手に自分が思ってることを言ってみるしか解決方法がないっぽいんだよね。

それで結局相手のことを、信じられるか、信じられないか、信じたいか、信じたくないか、この先も付き合っていきたいか、別れたいか、その結論は相手次第なところも多少はあるけれど、一番は自分次第なんだと思う。

いや、私お付き合いしたことないから予想を飛び越えて妄想の域なんだけどさ!


「信じちゃうなら、それはそれでいいんじゃないかな。リーンが信じたいってことなんだろうし」

「そうかな」

「うむ」

「ん……そっか」


リーンが抱え込んでいた膝を崩して、足を床に下ろした。

私もならって足を伸ばす。

あ、なんか解放感。

足を抱えるのも落ち着いていいなと思ったけど、私はやはりこっちの方が良いな。


「それでさ、今夜の若人の日、行く?」


清々しい気持ちでさっきの質問をもう一度口にする。

さっきは行かないって言ってたけど、悩みが解決した今なら行きたがるかもしれないと思ってさ。


「ん……行かない」


行きたがるかもしれないと思った……んだけど、リーンさんは頑なだった。

ていうか……ていうか!

やっぱりまだ元気なかった!

そうだよ、この恋愛相談ってやつはさ、相談にのっても、相手の悩みは大概解決しないものなんだよ!

「相談するだけして『えーでもー』『だってー』『ありがとぉ、もうちょっと考えてみるねぇ』って言い出すのよ! どうせ自分で決めるんだし、だいたい相談する前から心の中ではどうするか実は決めてるんだから、だったら相談するなっつーの!!」って、よく恋愛相談されてたアドバイザーの子が言ってたの、今思い出した!

な……なんか虚しくなってきた……。


「ミズキちゃん、ありがと」


遠い目をこさえている私に、リーンがお礼を言ってきた。

いいよいいよ、お礼を言いつつも「でも……」って言うんでしょう?


「わたし、ロバくんに聞いてみる。

 今はちょっと……まだ気持ちが落ち着かないから聞けないけど……、

 でも聞いてみて、それでもしロバくんがわたしの方が好きって言ってくれて、

 それを信じたいなってわたしが思えたら、

 ミズキちゃんの言うとおり、それでいいってことにする」


そう言うとリーンは元気はちょっとないけれど、それでもにこりと笑った。


「う……うむ……どういたまして」


あれ? これって結構相談にのった効果あった系?

ごめんリーン。「でも」「だって」「だけど」の3D女かと思ってごめん。


「ごめん、リーン。

 お詫びに『リーンの可愛い寝言百選』をロバートさんに教えて

 リーンの株を上げておくから許して」

「え? なんでミズキちゃん謝ってるの?

 えっ? ミズキちゃんが来て二カ月も経ってないのにわたし百個も寝言言ってるの?

 言ってないよね? 言ってないよね?

 あとロバくんに言うのとかやめてね? ね?」


まあまあ、遠慮するない。



若人の日の最中、ロバートさんにリーンの寝言をいくつか教えると


「え? その寝言、いまだに言ってるんだ……」


と驚かれた。

リーンの寝言をすでに知ってるって、それってつまり……。

手を繋ぐことに悩んでいるリーンなどというものは、どこまでも私の幻想だったようだ。

最近の子って進んでるね。

そう思う、十八歳彼氏無し歴イコール年齢の王子だった。



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