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夏26日 ディオ 地獄の業火がやってくる

今日の昼頃村長のところに、調査員についての正式な文書が王都から届いたらしい。

文書によると、騎士一名、魔道研究所の所員一名、モンスターテイマー二名が調査員としてうちの村に派遣されてくるそうだ。

魔道研究所の所員っていうのは知らない名前だったけど、モンスターテイマー二名はジジとニニだし、騎士はアルだ。

派遣されてくるやつが知ってる顔で良かった。

アルは都で働いていた飲食店の常連客で

ロバートと仲が良かったから、オレもそれなりに話したことがある。

派手な眼帯をしているし、ちょっと痛々しい言動をするやつだけど、根は良い奴だって昔ロバートが言ってたし、村のやつともいい感じにやっていけるんじゃないかな。



「ハア……」


アルが来るとロバートに伝えた時は微妙な顔をされて「あれ? なんだよ、喜べよー」と思ったけど、その後の村の……というより村の女の子たちの盛り上がりを見ていると、いっそロバートの微妙な反応が

心の支えに思えてきた。


「ハア……」


とめどなくため息が出てくる。

今日は村の女の子たち、みんなアルの話題で持ちきりで、誰もオレのことは相手してくれないんだよね。

ところがどっこい、広場で見かけたミズキはいつもどおり女の子を数人侍らせてた。

いや、わかるよ? ミズキのファンと、オレと仲の良い女の子は種類が違うってさ。

そりゃまあ、しがない村のチャラ男より、都会のアイドルがいいよね。


「ディオ、詰所の備品……消毒用アルコールでいいや。

 消毒用アルコールが少なくなってるから、買ってきて」


ため息がウザかったらしく、アンシーが適当な理由をつけてオレに外に行くように促してきた。

「消毒用アルコールでいいや」って、本当は買い物の必要がないことを隠す気さえないとは。

いっそ「ウザいから出て行って」って言われた方がマシです。いや、やっぱりちょっとはオブラートに包んで欲しいけど。


「アンシーさんも、アルフレッド・ヘルファイアのファンだったりするの?」


アンシーが誰かのファンとか、あんまり想像つかないけど。

あ、でも芝居好きってことは、やっぱり好きな役者とかはいるのかな。


「広場でまだ来てもいない騎士に黄色い声を上げるくらいなら、

 私は王都で軍属弓術士にでもなって、同じ騎士を目指してるよ」

「ああ、アンシーさん腕いいですもんね」


なんでこんな田舎でしがない自警団員やっているのかと思うくらい。

オレは小さい頃から団長に剣を習ってたけど、でも都に行った時は軍に入ろうなんて一つも考えなかったなあ。まあ入ったところで、オレに騎士は無理そうだけど。

もっとゆるーくかるーく生きたかったし。


「アンシーさんもゆるく生きたい感じです?」


って、何となく聞いちゃったけど、そんなわけないか。

何考えてるのかはオレにはよくわからないけど、アンシーってしっかりしてるし堅実的だしね。しっかりプランを持って生きてそうだ。


「そうかもね」

「え!?」

「わたしはずっとここでゆっくり生きたい。マリーたちもいるから」


そう言ったアンシーは、ちょっとだけ微笑んでいるように見えた。

いつも無表情だから、その表情の変化に驚いて見ていると


「アルコール」


無表情に戻ったアンシーに退室を促された。

はい、すみません。いま出て行きます。


「ただいまー! あれなんか辛気くさいわね。それでちょっと湿気くさいわね。

 ディオ、あんたちょっとキノコ生えてんじゃないの?」

「生えてません」


村長のところに行っていたシュシュが帰ってきた。

帰ってきた途端暴言を吐かれた。ハア……ちやほやされたい……。


「団長は?」

「まだ村長のとこー。なんか村長に愚痴ってたわ。

 『俺が騎士の頃はこんな華やかな扱いは受けてなかった』とか『俺の方が強いのに』とか。

 ああ、あと団長、あんたを鍛え直して騎士にするとか言ってたわよ」

「勘弁してください」


うちの団長は昔騎士だったらしい。

ただ、昔はこんなに雑誌とかがあったわけじゃないし、今みたいに女性人気は高くなかったそうだ。

男子の憧れの職業としては、今と変わらず大人気だったみたいだけどね。

団長が騎士を辞めた理由は「膝に矢を受けてしまってな」ということだけど、団長は今も朝と夜に村一周ランニングを欠かしていないから、たぶん嘘だ。



消毒用アルコールを買いにホセのところへ行くと、ホセが腕を組み眉間に皺を寄せて、ふんぞり返って座っていた。

なんていうか、ガラが悪い。


「お゛う」


挨拶もなんだか凄味がある。

こうやってるとホセってチンピラみたいなんだよなあ。


「こんにちはー! わっお邪魔しました!」


ヴァニラが入ってきて、ホセを見て一瞬で帰っていった。


「ちっまたか。さっきから客が来ては帰っていきやがる。冷やかしが流行ってんのか?」


ホセが眉間の皺をさらに深くして唸るけど、その風体が原因だよ、絶対。


「どうかしたの?」


ドアを開けたり閉めたりされたせいで機嫌が悪いのかと思ったけど、なんとなくそれとも違う気がするんだよね。ホセって口では文句言ってても、結構懐は深いし。


「いや……調査員にヘルファイアって騎士が来るらしいじゃねーか」

「くるねぇ」


ホセもアルの話かぁ……ハァ……。


「こないだ隣町でそいつと会ったんだが、そいつ、俺の馬の名前にケチつけてくんだよ」

「名前っていうと、えーと……エターナルダークホースだったっけ?」


永遠の黒い馬だよね。そりゃ、染めない限り黒いと思うよ。


悠久たる深淵エターナルダークフォースだ」

「うん」


ごめん、どこが違うのかわからない。


「そいつ、荘厳たる夕闇マジェスティックシャドウに改名しろって言ってきやがったんだよ」

「うん」


オレだったらエリカとかライラックとかにするな。

花の名前にしとくと、女の子との話のきっかけになるし。


「それでな……あー……すげー癪なんだけどさ……。

 その時は突っぱねたんだが、今になって荘厳たる夕闇マジェスティックシャドウ

 悪くねーなと思えてきて……それがなんつーか腹立つっつーか……」


なるほど。


「だからもっといい名前ねーかと思って、さっきからずっと考えてんだよ」


あ、その眉間に皺と腕組み、機嫌が悪いんじゃなくて考え事のポーズなのか。



その日ホセの馬は「アンリミテッドダークネス」に改名した。

ちなみに村の人たちには「ダークホース」の方が分かりやすかったと、新しい名前は不評だったそうだ。


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