夏24日 ヴァニラ ちなみに本物の鉄下駄は漬物石の代わりになっていた
「う……動けない……」
さっきヒューさんが来て「鉄下駄の追加パーツだ」って言って、下駄に重りを付け足してくれたんだけど……。
もともとなんとか履いて歩けるっていうより動ける重さだったのに、重りをつけたらビクともしなくなっちゃったのよね。
でもね、でも、ヒューさんからの贈り物だし、使いこなしてこそ愛だと思うの!
だからあたし、歩けるように頑張る!
だってこの鉄下駄って「足腰を鍛えろ」って意味で、なんで足腰を鍛えないといけないかって言うと「安産のため」で、それってつまり「俺のために元気な子を産める体になってくれ」ってことなんじゃ!
きゃー! もう! もう!
「ヴァニラ、仕事」
「……はい」
離れてたから小突かれなかったけど、お兄ちゃんが呆れた目であたしを見ていた。
ふんだ。あたしよりお兄ちゃんの彼女の方が鉄下駄必要なんだからね。空飛んでてあんまり歩いてないし!
いざって時に鉄下駄貸してって言っても、貸してあげないからね!
「しかし、なんでヒューはおまえに鉄下駄渡したんだ?」
今は開店準備が早めに終わったので休憩中。
お兄ちゃんが鉄下駄を片手で持ち上げて、しげしげと眺めている。
「安産のためよ」
「あ゛? 最初から順を追って話せ」
お兄ちゃんの言葉遣いが悪い。
機嫌悪いのかなー。めんどくさいなー、もー。
「喘息起こして倒れてたクーをおんぶして運んだら、ヒューさんにお礼言われて、
それで『安産のために足腰鍛えてるからちょうど良かった』って言ったら、
これを贈ってくれたの」
「またテンパったのか」
「うん」
ヒューさんを前にすると、ヒューさんが眩しすぎて前後不覚になるんだよね。
「ふーん。まあ、ヒューのことだから他意はないか……」
よくわかんないけどお兄ちゃんはあたしの説明に納得したみたい。
機嫌直ったのかな。よかった。
「だけどこれを履くのは、腰を痛めるからやめておけ」
「だいじょうぶ! 時間はかかるかもしれないけど、
いつか颯爽と履きこなしてヒューさんの期待に応えてみせるんだから!」
「鉄下駄を颯爽と履きこなす女は、いくらヒューでも恋愛対象としては微妙だと思うぞ」
そうかなー? そう、かな。うん、そうかも。
言われてみれば確かに、鉄下駄を颯爽と履きこなす女の人って筋肉で出来てて、鉄下駄を履いた足で攻撃を繰り出してきそうで怖いかも。
「でも、せっかくヒューさんにもらったし……」
あたしが未練たらしく鉄下駄を見ていると、お兄ちゃんが「仕方ないな」と言って立ち上がった。
「ちょっとヒューのところ行ってくる。開店時間までには戻るから」
夕方、ヒューさんが店に来た。
「これを」
と言ってヒューさんは、小さな紙袋をあたしに差し出した。
「ロバに『お礼の品なら菓子か、妹にだったらアクセサリにしろ』と言われたから、
俺が今一番うまく作れるものをモチーフにアクセサリを作ってみたんだ」
「あっありがとうございます!」
どどどど、どーしよ! ヒューさんから手作りアクセもらっちゃったよ!
ドッキリ? ねえこれドッキリ!?
「そろそろ仕事しろ」
あたしがあわあわしている間にいつの間にかヒューさんは帰っていて、五分くらい固まっていたらしいあたしは、またお兄ちゃんに怒られた。
でもお兄ちゃんのおかげでヒューさんから手作りアクセもらえたんだから、あと十一回くらい怒られても許すし、お風呂洗いもするよ!
お仕事終了後、ドキドキしながら紙袋をあけると、中には細い鎖に繋がれた銀色に光る小指の先ほどの鉄下駄が入っていた。
これ、安産のお守り?




