夏22日 ディオ それぞれのおねだり
都にいた頃の遊び仲間から、菓子が届いた。
付いていた手紙によると残暑見舞いらしい。
いつもは送ってこないのに、なんで今年だけ? なんかあったっけ?
たしかこいつ、パティスリーで修業してたんだよね。
あ、もしかして店の売れ残りを大量に押し付けられたとか?
甘いものは嫌いじゃないけどオレ一人じゃ食べ切れそうにないので、話のネタにロバートのところに持って行くことにした。
ロバートと送り主はそこまで交流があるわけじゃないけど、顔見知りではあるからね。
「え! これ、ココレットティアのお菓子じゃん!
すごい人気なのに都にしかお店がないんだよ! どうしたのこれ?」
菓子を出したら、ロバートよりもヴァニラの方が食いついてきた。
やっぱ女の子は甘いものが好きなのかね。
「都の知り合いが送ってきたんだよね。なんで突然送ってきたのかわかんないんだけど」
しかしあいつが修行してた店、そんな名前だったっけ?
もっとこう……チョコだとかクマだとかヒヨコだとかいうような名前だったような。
「なんで突然って……独立して自分の店開いて雑誌に載るくらい流行ってるから、
自慢のために送ってきたんだろ」
ロバートは菓子を一瞥すると、微妙に嫌そうな顔をして調理場に戻って行った。
え、あいつ独立したんだ? 全然知らなかった。
なんで顔見知り程度のロバートが独立を知ってて、友人のはずのオレが何も知らないんだろう……。
友情って儚い。
「ねえねえ! 一個ちょうだいぷりーず!」
オレの微妙な気分なんておかまいなしに、兄貴とは対照的なキラキラした目で菓子を見ていたヴァニラが、手を出してねだってきた。
「どうせオレ一人じゃ食べきれないからここに持ってきたんだし、遠慮せずどーぞ」
「やたー! ディオ、メタボ!」
菓子を差し出すとヴァニラは一個とって嬉しそうに菓子にパクついた。
こう欲しがったり喜んだりしてもらえると、菓子をあげ甲斐もあるよね。
他のことでもそうだけど、ヴァニラは頼みごとやおねだりが上手い。
でもなんで、オレは成人病だって罵られたんだろう……。
昼食後の腹回りを気にしつつ食後のコーヒーを飲んでいると、リーンとミズキが店に入ってきた。そういや今日水曜だっけ。
ロバートの表情が心なしか緩い。
ロバートが幸せそうで良かったと思う気持ちもあるけれど、壁を叩いたり砂を吐きたい気持ちもある。男心は複雑だ。
まあ、「リーンが仕事休みでデートするから今日は食堂休む」とか言い出さないだけいいんだけどさ。
食堂休まれると、オレの飯事情がマジで結構キツイ。
ロバートが調理のためにカウンター裏の調理場に引っ込むと、リーンとミズキはヴァニラと話し始めた。
なんかこっちを見てる気がする。
会話に意識を傾けると、どうも菓子の話をしているみたいだ。
少しして、リーンが席を立ってこちらにやってきた。
「ディオくんあのね。わたしもお菓子もらってもいい、かな?」
リーンは軽く首を傾げて菓子をねだってきた。
リーンも結構おねだり上手だよね。
ヴァニラは断られても「そこをなんとか!」ってねだり倒す勢いのねだり方をするけど、リーンの場合は断られない確信があってねだってくる感じだ。
信頼してる相手にしかねだらないってことだから、リーンにねだられて悪い気はしない。
ただ、彼氏の視線が怖いから、早く帰って欲しい。
「どうぞ」
箱ごと菓子を差し出すと、リーンは中から一個とって、ミズキの方を見た。
つられてミズキの方を見ると、ヴァニラがミズキに
「ミズキさんはお菓子いらないの?」
と問いかけていた。それに対してミズキは
「いや、私は、その……王子たるもの、人から物をもらうわけには……」
などと、ごにょごにょ言っている。
ミズキはおねだり下手か。
ミズキの分の菓子もリーンに渡そうと菓子を一個取り出すと
「ミズキちゃんの分ももらってもいい?」
同じことを考えたらしいリーンが尋ねてきた。
「どーぞ」
すでに取り出していた菓子をリーンに手渡す。
「ありがとう!」
リーンは嬉しそうに笑って席に戻って行き、ミズキに菓子を渡した。
渡されたミズキは「ええと……えっと……」と狼狽えて
「ディオさん、もらいます!」
とでっかい声で宣言した。
やっぱりおねだり下手だ。
残った菓子を詰所にでも持って行こうかと非番にもかかわらずロヴァ亭を出て自警団詰所に向かっていると、子どもが道端でいじけていた。
まだ結構数があるし、子どもにも菓子を押し付けようかな。
「アッシュ、これやるよ」
アッシュの前に菓子を出すと、不貞腐れたアッシュは
「いらねーよ」
とそっぽを向いた。可愛くない態度だけど、なんていうかそこが可愛いよね。
「アッシュがいらないならクーにでも押しつけといて」
アッシュに菓子を五つ渡すと
「なんでボクが……自分で渡せばいいだろ」
ぶつぶつ言いながらもアッシュは受け取って、家に帰っていった。
まあそう言わずに、家族で一個ずつ仲良く食べなさい。
「おやおや、お菓子の匂いがするぞー」
詰所に行くと、シュシュがドアの前に立ち塞がった。
「ここを通りたくばその菓子を寄越すがいい!」
「どーぞ」
シュシュに菓子を一個渡すと「きゃっほう」と言って、シュシュはテーブルに戻っていった。
シュシュは何でか普通にねだらずに強奪したがるんだよね。
テーブルではアンシーが、我関せずといった様子で本を読んでいる。
「アンシーさんもどうぞ」
机に広げた本の横に菓子を置くと、アンシーはチラリとこちらを見て
「ありがと」
と言った。特に喜んでいる風でもない。
そういえばアンシーに頼みごとやおねだりをされたことって、ここ五年はないなあ。
これじゃ、アンシーがおねだり上手か下手かもわからない。
ねだったり頼みごとしたりするほど、オレに期待してないってことかね。
けど……
「なにこれ! ディオ! このお菓子すごいおいしーよ! ねっアンシー!」
菓子をもぐもぐしながらシュシュがアンシーに振る。
「そうだね」
と答えたアンシーの表情は、心なしか明るい。
期待されてなくても喜ばせることが出来るなら、
まあいい、かな。




