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春12日 ミズキ KY野郎と目玉危機

噂というものは、当事者の元にはなかなか届かないものだ。


たとえば、リーンが魔女っぽく空を飛ぶことになったことに対する評判は、たぶん彼女には届いていないはずだ。

そして、リーンの耳に届けたくない噂であれば、彼女とごく親しい関係にあるものにも、なかなかその噂は届かない。




「なあなあ、ちょっとこっちこいよ」

村の広場でお嬢さんたちと華やかな会話を楽しんでいると、突然、若者に肩を叩かれた。

顔つきからするとちょっと年下かな。

肉体労働でもしているのか、体格は結構良い。

野球部と柔道部なら野球部寄り、くらいの体格をしている。


「ちょっと、あたしたちが今ミズキ様と話してるのよ!

 ジャンは邪魔しないで!」

「いいだろべつに!」

ジャンという男子は、お嬢さんたちにギャンギャン吠えられて若干逃げ腰になりつつも、退くつもりもないようだ。

ほう。女性の集団に敵対されて立ち向かうとは、なかなか気概のある男じゃないか?

それか、ただひたすらに空気を読まないタイプか。

「すまないお嬢さんたち。実はちょっとジャンと約束していたんだ」

よし、ここは助け船を出してやるか!

王子は当然女の子に優しいけど、男にだって公平なんだぜ!

が、

「は? 約束なんてしてねーよ。つか呼び捨てすんなよ馴れ馴れしいな」

差し出した手はジャンによってぶった切られた。

空気読めこいつ!

「…………」

「…………」

王子もお嬢さんたちもあ然。

「ま、いーや。それよりちょっとこっちこいよ!」

その空気も当然読まず、ジャンは馴れ馴れしく私の肩に腕を回して、私を集団から連れ出した。

くそ、触るな。KY菌がうつるわ。


「何だよ、そんな顔するなって!

 そんなに女に囲まれてたかったのかよ。

 爽やかそうな顔して、やっぱやらしーやつだなー」

私がじと目で睨みつけていると、ジャンがふざけたことを言い出した。

「やっぱ」ってなんだ「やっぱ」って!

「そんなんじゃない」

女の子たちを喜ばせたい一心の私のエンターテイナー魂を、男の下心と一緒にするなし!


「そんな怒るなって! いいもの見せてやっからさ。

 さっきあの家にリーンが配達にいったんだよ!」

ジャンは建物の陰に隠れるようにしつつ、向かいの家を指さした。

こいつの用事なんてどうでもいいし、さっさと別れようと思ったが、どうやらリーン絡みらしい。

なんか心なしか、ジャンの鼻息が荒くなってきた気がするのも気にかかる。

「リーンがどうした?」

「お、やっぱ興味ある? 王子とはいえ男だもんなぁ!」

こいつ、本当会話が成り立たないな。

ていうか私、男装のせいで男だと思われてるのか。

女の子たちは話したことない子も、私が男装した女だって知っていたから、てっきり女だっていうのはみんな知ってることなのかと思ってたんだけどな。


「お! でてきたぞ! よく見てろよ!」

家からリーンが出てきて、箒に乗って飛びたつ。

「はい白ー!!」

となりの男がサルみたいにキャッキャと手を叩いて喜んでいるが……

たしかに、うん……

見えた。


あの恰好で飛ぶと、見えるのか。

いや、そりゃ見えるに決まってるか。

前の世界じゃ、空飛ぶ人間なんていなかったし、私が知ってるアニメの魔女も、下着が見えそうになったことなんてなかったから、全然配慮してなかったわ。


「これ、きみ以外も知ってるのか?」

「男は結構知ってるよ。女たちには秘密な。

 あとホセもダメだな。あいつリーンの保護者だから。

 今さ、明日の下着の色予想くじっての作ってんだよ。

 一口二百ゼルでさ。当たれば賞金でるから、参加してくれよな」

何が目的で話しかけてきたのかと思えば、賭けの参加者を増やしたかっただけらしい。


それにしても……

Oh……これはマズい……非常にマズい……。

まずはリーンにはあの服を着るのをやめてもらって……

いや違うな、他の服でも飛んだらアウトの可能性があるな……。

でも今更「やっぱ飛んじゃダメ!」とか言ったら「なんで?」って聞かれるかもしれなくて、

だけど本当のことは伝えない方がいい気がするし!

いや、私が怒られるとかじゃなくてさ、自分が気づかないままパンチラしまくってたなんて教えられたくないじゃん?

だからその事実は隠すとして!

そうすると飛ぶのをやめさせる理由が思いつかないわけで!

なにか……なにか方法は……!


「けどちょっとあのスカート長すぎだよなー。

 あれじゃ飛び立つ一瞬しか見えねーし。

 いやまあ一瞬だけチラッと見えるから良いって意見もあるんだけどさ。

 でも俺としてはもうちょっとガッツリ見たいね!」


…………それだ!!


ガッツリ見せるんじゃなくて、ガッチリ見せない新しい服を作ればいいんだ!

たしか服地はホセの所で扱ってるってリーンが言ってたし、善は急げだ!


「おい、どこいくんだよ?」

「雑貨屋だが何か?」

あんたの色くじの野望は私が阻止する!

「おまっ! ホセに告げ口する気かよ!

 やめとけよ! そんなことしたら、あいつ、村中の男の目を潰してまわるぞ!

 お前もだぞ!」

なにそれマジで!?

なんか目に違和感を感じてそっと抑えてしまう。

よし、まだ目玉ある。

「リーンとホセは付き合ってるの?」

「しらねーよ! でもたぶん付き合ってないけどさ!

 でもホセのやつ、すげー過保護だから!

 ばれたらやばいって!」

知るか! ……と言いたいところだけど、今回は私も元凶だ。

私があの服で箒に乗れって言ったわけで、見ただけの男が目を潰されるなら、私は命を取られるのではなかろうか。

よ……よおし……、ホセにばれない様に、服を作り変えるぞ……。



ホセの営む雑貨屋で、服地の注文についてあれこれやりとりをする。

ホセにリーンの状況はばれてはいないと思うが、話していて内心ひやひやだ。

鍛え上げられた演技力で乗り切るが!

リーンが注文したという大量の小麦粉を、罪悪感から一緒に運ぶと申し出る。

バック転はできるけど、王子は筋力はあまりないのですよ。

でも頑張る。罪滅ぼしと言わんばかりに頑張る。

外まで運び出した時には、肩で息をしそうなくらい疲労していた。

けど、王子だから! 王子はスマートじゃないといけないから!

ぐっと堪えて、リーンを見送る。


そう、その時私は、あまりの疲労によって気が抜けていた。

肩で息をするのを押しとどめるのに必死だった。

今この瞬間、隠そうとしたことが露見しようとしていることに気付かなかった。


ああ、白い。


「おいミズキ」


呼ばれた声には冷ややかな怒りが込められており。

私は目の前が真っ白であり。

あ、これもしかして、

すでに目を潰されてしまったんだろうか。

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