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夏20日 ロバート 「おいしい」の効果

十年前、テラと初めて会った時、新人とはいえテラはすでに軍属魔道師だった。

軍属魔道師っていうのは軍属剣術士なんかよりもなるのが難しいと言われていて、いわゆるエリートだ。

高い魔力がないと魔法自体が使えない上に、魔法を使うために勉強する魔道書ってやつは、おれには全く理解できないレベルで難しい。

たぶんこの村で軍属魔道師向けの魔道書を理解できるやつがいるとすれば、サトウくらいのものだろう。

サトウは魔力があまりないらしいから、理解できたところで魔道師にはなれないだろうが。

軍属魔道師の中でも容姿が良く実力のある若い女性は『魔女』と呼ばれて人気がある。魔女は騎士の魔道師版みたいなものだ。

テラに聞いた話だと、魔女にでも選ばれない限り女性軍属魔道師はモテないらしい。

たしかに、賢い女は鼻に付くって男は結構いるだろうな。


当時のおれは、ホセくらいの成長度で、自分の容姿に絶対の自信があった。

村でも異性を認識しはじめてからこの方モテなかったことがなかったし、都に出てきてからもおれ目当てで店に来るお客さんがいることくらい把握していた。

そんな時、店の常連だったアルがテラを連れて食事に来た。

テラは今の彼女と変わらない容姿をしていて、おれは一目惚れして即座にアプローチした。

たぶん今のおれでは、軍属魔道師の女の子に告白するなんて恐れ多くてできないだろう。

自信家で馬鹿だったからこそできたことだ。

おれは自信家で馬鹿だったから、一度二度告白して断られても引かなかった。

おれが落とせないはずがないと思っていたからだ。


付き合っているうちに、おれはだんだん腐るようになっていった。

修行を始めて三年経って、客に出す料理も任せてもらえるようになっていた。

そこで次の目標を見つけることができなかったおれは、この先ずっとしがなく鍋を振るい続けるのかと、なんだかむなしくなっていた。

好きな子は新人の中でも成績は優秀らしく、日々忙しそうに働いている。

アルに聞いた話だと、魔女に選ばれるのも近いかもしれないという話だ。

彼女と自分との差が、ますますおれを不貞腐れさせた。

だけどそんな不機嫌なおれに、彼女は言ってくれた。


「ロバくんのごはん、おいしいよ。

 わたし、ロバくんはすごいと思うの。

 わたしがお料理のお勉強をしても、絶対ロバくんみたいにおいしく作れないもの。

 わたしは魔法しか取り柄がないから軍属魔道師でいるだけ。

 でもね……わたしには魔法しかないってわかってるけど、

 それでも時々、軍属魔道師のお仕事イヤだなって思うことがあるの。

 それでもね、ロバくんの作ってくれたごはんを食べたら、明日も頑張ろうって思うんだ」


彼女のその言葉で、おれの中のもやもやした気持ちが嘘みたいに消えてなくなった。

もっと美味い、誰かの活力になるような料理を作ってやろうって思えるようになったから。

当然一番はきみの活力になりたかったわけだけど。


だからきみが

「おいしい」

って言ってくれると、おれはすごく嬉しいんだ。


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