夏20日 リーン 好きなのは顔じゃない……?
今日は虹の日。
ユズさんが亡くなってから、初めての虹の日です。
ユズさんが好きだったコロッケと、ユズさんの旦那さんが好きだったという豆の煮付けを作りますよ。
それとロバくんの作ったビーフシチューのパイ包みがユズさんは好きだったから、それをテイクアウトでロバくんにお願いしてあります。
ロバくんに初めて会ったのも、ユズさんがパイ包みを食べに行こうってロヴァ亭に連れて行ってくれた時だったな。
「うぇ? リーン、ロバートさんと付き合ってるの? いつから?」
パイ包みを買いに行くついでにお昼ご飯をロヴァ亭で食べることにした、わたしとミズキちゃん。
ロヴァ亭に向かいつつ「お祭のお誘いを断っちゃったから、ちょっとフォローをしておきたい」とミズキちゃんに話すと、ミズキちゃんが驚いてわたしを見ました。
「一週間くらい前からかな」
そういえばミズキちゃんに言ってなかったです。
言うほどのことでもないかな、って思ってたからでもあるけど。
「リーンだいじょうぶ? 顔に騙されてない? あれは自分の容姿の使い方を知っている男だよ?」
ミズキちゃんは心配そうにわたしを見てきました。
ミズキちゃんはロバくんのことあんまり好きじゃないのかな。
「ん……だいじょうぶ、だよ?」
美形だとは思うけど、別にお顔が好きでお付き合いしてるつもりはないし。
そういえばロバくんは、いったいわたしの何が好きなのかな?
ロヴァ亭の入り口をくぐると、すぐにロバくんが気づいて
「いらっしゃい」
とニコッとしてくれました。
視線を感じてミズキちゃんを見上げると、ミズキちゃんは疑わしそうな目でわたしを見ていました。
だから騙されてないってば。
ロバくんがニコッてしてくれるのは好きだけど、それにときめいたことはないもん。
ロバくんがニコッてしてくれると、わたしはほっとします。
少なくとも表面上は歓迎してくれるんだなって思うから。
だからわたしも誰かに声をかけられたら、できるだけ笑顔で返事をしようと思っています。
だけど、矛盾しているようだけど、わたしはロバくんの笑顔に魅力は感じません。
お付き合いしてる人の笑顔が好きじゃないなんて、ちょっと問題な気がします。
ミズキちゃんが心配してるみたいに笑顔に骨抜きになってる方が、むしろ健全な気がするな……。
日替わりランチを注文しロバくんが奥の厨房に入っていくのを確認すると、ミズキちゃんがテーブルに身を乗り出してわたしに顔を寄せてきました。
「リーンはロバートさんのどこが好きなの?」
ミズキちゃんがコソコソと聞いてきます。
あとでお家で話すんじゃダメなのかな。
「んと……、……わかんない」
しっかりしてるとか、優しいとか、良いところは色々思いつくけれど、どれも「好き」って気持ちにはつながりません。もちろん嫌いじゃないけれど。
「やっぱり顔?」
だから顔じゃないってば。
じっくり考えてみても、ロバくんの好きなところが思いつきません。
でも……断る理由がないから付き合ってるんじゃなくて、お手紙をもらった時はわたしも本当に「ロバくんが好き」って思ったんだけどな。
ほどなく、ロバくんが二人分の料理を持ってきてくれました。
今日はヴァニラちゃんはお休みなのかな?
「おお、おいしそう! いただきます!」
「いただきます」
お皿に綺麗に盛り付けられたお料理はとってもおいしそう。
わたしもお料理はするけど、こんな風にはできません。
「おいしい」
ひと口食べると、自然と感想が漏れました。
「ほんとに!?」
ロバくんのちょっと大きな声に思わず顔を上げると、ロバくんがくしゃりとした顔で笑っていました。
いつもニコッとしてくれる時とは違う、すごく嬉しそうな、本当の笑顔のようなその表情に、わたしは見入って――
「どうかした?」
でもすぐに、ロバくんはいつも通りの顔に戻ってしまいました。
そつのない、いつものロバくんです。
「ん……なんでも、ない」
わたしがそう言うと、ロバくんは「そ? ごゆっくり」と言って、厨房に戻って行きました。
ロバくんの姿が見えなくなってしまっても、まだちょっと胸がドキドキしています。
自分のことなのによくわからないけど、またさっきの笑顔が見たいなって、思っているような気がします。
「……やっぱり顔かもしれない」
わたしは、ロバくんのさっきの笑顔が好き。そういう風に笑うロバくんが好き。
ご飯を食べながら呟くと、ミズキちゃんがしたり顔で「やはりか」と頷きました。




