夏19日 ホセ 虹の日の前夜祭
明日は虹の日。
故人が生前暮らした場所や家族のもとへ遊びに来る日だ。
虹の日と名前が付いているけれど、うちの村からじゃ虹は見えない。
大昔の人が信じていた宗教の聖地に、毎年夏の十九日から二十日にかけて虹がかかるらしい。
その虹を渡って、死んだやつがこの世界にやってくるんだと。
大昔の宗教すぎて、聖地の存在自体が神話みたいなものなんだけどな。
その宗教を信じているいないに関わらず、明日は死んだ家族の分まで飯を作ってテーブルに並べるなどして故人を偲ぶことが、この国の人の慣習になっている。
そして、虹の日前日である今日の夜は隣町で祭が開かれる。
隣町だけじゃなくて、ある程度の大きさのある町ならば全国的に祭がある日だ。
所縁の地へと帰る故人が迷子にならないように、道標として夜中明かりを灯し騒ぎ立てるのだとも聞くし、祭をして賑やかに故人を迎えようって意味だとも聞くし、本当のところはどういう理由で祭が行われてるのかは不明だ。
俺からすればどの理由もこじつけで、本音は騒ぎたいだけだったりするんじゃねーかと思ってしまうが。
この日は毎年ヴァニラたちを祭に送っていくことになっている。
村には遠出する足をもってないやつが多いから、こういう時は馬車を持ってるやつは総出で駆り出されるもんだ。
サトウも村長の馬車でマリーたちを送っていくって言ってたしな。
「うおぉお……これが噂のカラーひよこ! この国では絶滅してなかったのか」
ミズキが夜店を見ながらはしゃいでいる。
カラーひよこに興味持つとか、お前はガキか。だいたい、もうひよこ飼ってるだろうが。
隣町に着くやいなや、ヴァニラとルリはジャンを連れて人ごみに繰り出して行き、俺はなんとなく、ミズキとリーンに付いて回っている。
まあ一応、女二人だとなんかあったら危ねーからな。
当然ロバートがエスコートを申し出たみたいだが、リーンに断られたらしく家で不貞寝すると言っていた。
リーン曰く
「ミズキちゃんにお祭を楽しんで欲しいから、わたしは頑張ってエスコートしたいの。
でもロバくんがいると……ん……気が散るから、困る……」
とのこと。
よくわかんねーけど、まるっきり意識されねーよりはいいんじゃねーの?
ちなみに去年までは、ロバートはヴァニラとルリに付いて行っていた。
ロバートが不貞寝することにしたため、ジャンに白羽の矢が立ったらしい。
それにしても、ミズキはいちいち夜店の前で立ち止まっている。
ミズキがいた世界では見なかったようなものが売っていたりするらしい。
リーンはそんなミズキを見て満足そうに笑っている。
俺は腹が減ったから、食い物の屋台があるあたりに早く行きてーんだけどな。
「ふぉお、すごい……こんなものが……!」
ミズキは今度は、マジカルフィッシュの店で足止めを食らっている。
マジカルフィッシュは魔石の一種だ。
中に水が入った透明度の高い魔石で、水の中に魚の幻影を見せる石だ。
保有している魔力量が少ないため魔石としての価値はない。
「酸素無しでどうやって生きてるんだ? 何食べて生きてるんだ?」
まあたしかにリーンじゃねーけど、目をキラッキラさせてるミズキ見んのは、悪い気はしねーかな。
次にミズキが興味を持ちそうな夜店はどれだろうなんて、ちょっと先の屋台に目をやると、カラースライムが売っていた。
カラーひよことかカラースライムとか、虹の日にかこつけて七色で染められた商品が多いんだよな。
カラースライムは、毒のない種類のスライムに清潔な水を大量に与えて巨大化させ、コアを残して拳大の大きさにちぎったものに食紅で色を付けた代物だ。
うまく作れば一匹のスライムから無限に近い数のカラースライムができるが、カラースライム一個の小売価格は百ゼルから三百ゼルと、なかなかぼったくりな商品だ。
カラースライムにはコアがないため、魔物としての脅威は全くない。ほんの少しの魔力を帯びた、スライムの肉だ。
「ふぉ! こ……これは……!」
ようやくマジカルフィッシュから離れたミズキが、案の定カラースライムの屋台に寄って行った。
「これは、初心者冒険者の導き手……? ひのきのぼうでも倒せるにくいやつ?
いやいや、まさしくこれは四つくっつけると消えちゃうアイツじゃないのか……!?」
興奮した様子でブツブツ呟き始めたミズキに、リーンが寄っていく。
「カラースライム……。ん、わたし買おうかな。ミズキちゃんも買う?」
リーンは「毎度! どれにする?」と威勢よく聞いてくる屋台のおっさんに黄色いカラースライムを指さして「ひとつください」答えた。
「それじゃあ私は赤いやつをもらおうかな。四つ!」
黄色いカラースライムを袋に入れてもらっているリーンの様子を見ていたミズキも注文する。
なんで四つも買うんだ、こいつ。大人買いってやつか?
それにしたって、せっかくなら別の色のやつ買えよ。
「あいよ、赤四つ!」
ミズキはそれぞれにスライムが入った袋を四つ受け取って、興味深そうに袋の上からスライムをつついた。
その後、どこかそわそわした様子のミズキを連れて屋台でいくつか飯を買い、飲食スペースに行くと、
「もう我慢できん!」
とミズキがカラースライムの袋を開いた。
そして、すでにスライムが入っている袋にもう一個スライムを移す。
当然スライムはくっついて、拳二個分の大きさを持ったスライムに変わる。
「くっついた!」
何やってんだこいつ……と俺は思ったが、ミズキはその結果に嬉しげだ。
ミズキはそこに、さらにもう一個スライムを足す。
拳三個分の大きさを持ったスライムが出来上がる。
「そしていよいよ……四つ目!」
ミズキは最後のスライムを、合体したスライムの入った袋に落とした。
当然そこには、拳四つ分の体積をもった大きなスライムが出来上がった。
「あれ……? 消えない、な?」
その結果に、ミズキは戸惑った表情を浮かべる。
「ミズキちゃんなにしてるの?」
リーンも戸惑った表情で、ミズキを見ている。
「いや、四つくっつければ消えるかと思ったんだ」
なんだそりゃ。どっから聞いたガセネタだよ。
「ん……よくわからないけど、そんなに大きくしちゃったら食べにくいよ?」
そう言いながらリーンは、自分の黄色いカラースライムに噛み付いた。
「え!? 食べるのか!?」
ミズキは驚愕して、スライムを噛み千切って口をもきゅもきゅ動かしているリーンを見た。
スライムは噛み千切ることは出来るが、噛み砕くことは出来ない。
リーンはしばらく口の中でスライムを噛んだ後、でかい塊のままそれを飲み込んだ。
少し苦しそうな表情と喉が大きく動く様子が微妙にエロい。
さすがカラースライム。
女に食わせたい屋台料理ランキングに毎回入るだけはある。
「何味だ?」
エロい思考を振り払うために聞いてみると、リーンは「ん、レモンかな」と言った。
カラースライムは食紅で色を付けると同時に香料や甘味料なども加えられていて、色ごとに味が異なる。
つっても本物の果汁が入っているわけでなし、「なんとなくレモン味かな?」と思う程度の味だ。
カラースライムのポイントは、やっぱり見た目と食感にあるんだろう。
「食べものだったとは……」
ミズキはなんともいえない顔で、自分の巨大な赤いスライムを見つめていた。
その後、食べにくさと飲み込む苦しさと胃袋の重さで憔悴しきったミズキは、祭の間中「スライム産みそう」と虚ろな目で繰り返していた。




