夏17日 ディオ 腹が十六分音符
先日捕まえた魔物は一昨日の午前中に、ジジとニニが連れて行った。
嵐が来る前に村を出て、一日でも早く確実に王都に届けたいらしい。
ちょうどジジたちがくる時期で良かったよな。
そうじゃなかったらとっくにあいつ毛皮にされて、額の魔石はオレたちの飲み代にでもなってたはずだ。
王都までは片道六日程度でつくから、早ければ秋になる前に王都から調査員がくる可能性があるわけだ。
その関係で、今日は団長とシュシュが村長のところに今後の相談に行っていた。
ところで、オレは今とんでもなく腹が減っている。
昨日から何も食べてないからだ。
嵐の前にホセのところで保存食を買っておくのをうっかり忘れたオレは、朝から何も食べてない腹を抱えて、昨日の夜ロヴァ亭に行った。
だが、ロヴァ亭は夜の営業をしていなかった。
ロバートのやつ、最近店休み過ぎじゃないか?
ロバートにそこを何とか飯を食べさせてほしいと頼んだが、「忙しいから無理」とすげなく断らた。
なにがそんなに忙しいのかと思いきや、ヴァニラ曰く「さっきまでリーンが来ていた」らしい。
「来ている」じゃなくて「来ていた」ってところがポイントだ。
つまりもう「帰った後」。
要するにロバートは、余韻を楽しむので忙しいから無理! と。
壁にエイトビートを刻んで一晩過ごしたオレは、腹の虫が十六ビートを刻んでいる感覚に冒されつつ、早朝雑貨屋に向かった。
だが雑貨屋の保存食類はすべて売り切れていた。駄菓子でさえも。なぜだ。
保存食はシュシュとバトレイが、駄菓子はジャンが買い占めていったらしい。
シュシュとバトレイはどうしてオレを買い物に誘ってくれなかったんだろう。
いや、わかってる。仕事仲間同士で買い物に行ったんじゃなくて、恋人同士で買い物に行ったんだよな、ちくしょう。
そして現在、オレの胃袋は一周回ってフォービート。
ぐ、ぐ、ぐー、ぐ、ぐ、ぐ、ぐー、ぐ。
三拍目にアクセントだ。洒落てるね。ハア……。
今日の出勤メンバーのうちシュシュは村長のところ、バトレイとあと一人は街道の警備に行ったので、今詰所にはアンシーとオレの二人だけだ。
本を読んでいるアンシーが、時々煩わしそうにこちらを見てくる。
すみません……あと三時間我慢してください。
「はあ……、これ食べなよ」
十五分後、オレの演奏にしびれを切らしたらしいアンシーが、オレに向かって四角い包みを差し出した。
これ……もしかしなくても弁当だよね?
「これ、アンシーさんのお昼なんじゃ」
「そうだよ。でも、そんな音出されてたら集中して本読めない」
はい、すみません。
「アンシーさんはお昼どうするんです?」
「家に帰って食べてくるからだいじょうぶ」
大丈夫って言ってもなあ、アンシーの家って詰所から結構遠いんだよね。
だからいつも弁当作ってきてるんだし。
「ほら、早く食べなよ。なに? 食事介助が必要なの?」
オレが躊躇っていると、アンシーがさっさと弁当を広げてフォークでおかずを突き刺した。
そのまま口元に突き出されそうな勢いだったので
「すみません、いただきます!」
と頭を下げる。
「どうぞ」
と弁当箱とおかずが刺さったフォークを差し出され、オレは一日半ぶりに飯にありついた。
「ごちそうさまでした。お、おいしかった、です」
「いいよ、無理しなくて」
食べ終わって弁当箱を返す。
「洗って返そうか」と聞いたところ「今すぐ返して」と言われたので。
なんだろう。なんかオレ信用ないのかなあ。
「無理してるわけじゃないんだけど……」
弁当は、うん、うまかったと思う。
ロバートと比べるのはおかしいだろうからやめとくけど、オレに弁当を作ってくれた歴代彼女の中では一番うまかったよ。アンシーは彼女じゃないけど。
ただ……
「全部嫌いな食べものだったでしょ?」
アンシーが弁当箱を鞄に仕舞いながら、何の感情も滲ませない声で言う。
そう、アンシーの弁当はことごとくオレの嫌いな食べもので構成されていた。
いくらアンシーでもオレが今日腹を大演奏させることなんて予想してないだろうし、ただの偶然だとは思うけどさ。
「オレの嫌いなもの、よく知ってたね……」
弁当に入ってたのは偶然なんだろうけど、それがオレの嫌いな食べものだって、彼女よく知ってたなあ。
そう尋ねるともなく言うと、アンシーは微妙な表情でこちらを見た。
「……ディオは知らないかもしれないけど、実はわたしはディオの幼馴染だからね」
「知ってるよ!?」
オレだって知ってるよ!
それに、片方が知らない幼馴染設定なんて病的妄想だよ!
弁当のお礼にアンシーをロヴァ亭での昼飯に誘うと、食後、
「たまにならおごられてもいい」
とアンシーが言った。
いつもつれないアンシーが言うことなので、
「じゃあ今夜飲みに行く?」
と調子にのると
「たまにならって言ったでしょ」
と、返ってきた。
やっぱり、アンシーはつれない。




