夏15日 マリエッタ 嵐と戦う父の背中
あたくしが小さかった頃、やっぱり今の季節に強い嵐が来たことがある。
その頃あたくしは、庭でヒヨコを飼っていた。
町であったお祭にアンシーとディオと三人で連れて行ってもらった時に、出店で三人揃って買ってもらったヒヨコだった。
あたくしの家の庭に三人で小さな小屋を建てて、そこでヒヨコを飼っていた。
小屋はおもちゃの様に小さくて、ヒヨコが大きくなったら使えるような代物じゃなかったけれど、幼かったあたくしたちはそんなこと考えもしなかった。
嵐が来るから小屋を丈夫にしてあげようとお父様に言われても、自分たちが作った小屋を貶されたみたいに感じてあたくしは「いらない」と突っぱねた。
それなのにいざ嵐がきてみると、激しい風の音はとても怖くて、時々木の枝が飛んでいく様子を安全な家の窓から見たあたくしは、小屋が飛ばされてしまうと泣きじゃくった。
お母様に宥められて泣き疲れて眠ったあたくしは、目が覚めて相変わらずの風の音に絶望して、きっともう小屋もヒヨコも飛ばされてしまったに違いないと、それでも微かな希望も持って、窓から小屋の様子をうかがった。
けれど、窓から小屋を見ることはできなかった。
お父様の背中が、小屋を隠してしまっていたから。
お父様は嵐の中、小屋が壊れることがないように守ってくれていた。
あたくしは今も、嵐が来るたびにお父様の背中を思い出す。
小屋とヒヨコとあたくしの気持ちを守ってくれた、お父様の背中を。
家の中は風もないのに、お父様の草が激しく揺れている。
緊急事態ということで、魔石を使ってリーンに連絡すると、
「ん……魔法の草だから、周囲に漂う嵐の気配に反応して勝手に揺れてるんだと思います。
打つ手はないです……すみません」
と言われてしまったらしいわ。
嵐の気配に反応して勝手に揺れるってどういうことなの。
リーンと会話している間にも、お父様の草が一本、二本と抜けていってるわ。
「ぐ……くぅ……なんとしても……守らねばならぬ……」
リーンの言葉にしばらく呆然としていたお父様が、飛んでいこうとする草を空中で握りしめて、毅然とした態度で立ち上がった。
この背中……見たことがあるわ……。
あたくしの小屋を守ってくれた、あの時とそっくりよ。
頭を覆うように防風ネットを張るなどのお父様の努力もむなしく、嵐がおさまった時、お父様の草は抜け落ちていたわ。
そう、頭頂の一本を除いてたすべてが。




