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夏14日 ホセ テイマー姉妹のジジとニニ

ロバートとリーンの件は、どうやら上手くいったらしい。

いつもどおり朝ボサボサで店に来たロバートが

「うまくいったー……」

と緩んだ顔でへらりと笑うから、今朝は氷水で絞ったタオルを頭に乗せておいた。

その後来たリーンは、星の日の翌日とは違って、なんつーかいつもどおりだった。

上手くいったっつーの、ロバートの夢じゃねーのか?

あの寝ぼけ具合だ……あり得る。



夕方店じまいの準備をしていると、懐かしい二人組が入ってきた。


「やっ、てんちょ! ニニだよ!」

「久しいの、小僧。我のことを覚えておったか?」


テイマー姉妹の、ジジとニニだ。

背の高い方がニニで低い方がジジだが、ジジが姉でニニが妹だ。

姉妹と言っても血はつながってないらしく、ニニの方は褐色の肌に若葉色の髪をしているが、ジジの方は白い肌に白髪だ。

二人は冒険者で、毎年この時期になるとこの村を訪れる。

この村を拠点として奥森で狩りをしているらしい。

「ここの森は、同業者が少ないからね。結構穴場なんだよ」

とかって、前にニニが言ってたな。


「よお、ジジは相変わらずみてーだな。ニニはちょっとデカくなったか?」


ジジは二年前のアッシュたちくらいの姿をしていて、俺がジジと初めて会った二十年前から少しも成長していないように見える。

ニニの方は、二十年前はジジより幼い見た目だったのに、今じゃ俺と同じくらいじゃねーか?


「ニニとしては、そろそろ成長止まってほしいの。ニニの寿命短いのかなー。やだやだやーだー」

この駄々っ子っぷり、精神面はあんま成長してねーみたいだけどな。


「あ、そだ! てんちょ、超寿命の長い男ひとつちょーだい」

「さすがに取り扱ってねーよ」


うちは何でも売るけどな、さすがに人身売買はしてねーぞ。


「やっぱダメかー。

 このままじゃニニ、あっという間にお迎えが来て

 おねーちゃんのこと置いていくことになっちゃうよ……」


ニニは肩を落としてがっくりと俯く。


「ぬしが気にする必要はないわ」

「だっておねーちゃんが一人になるのやーだもんー」


膨れるニニに、涼しい顔のジジ。

詳しいことは本人も忘れたと言っているが、ジジはすでに二百年だか三百年だか生きているらしい。

それだけ生きて幼い容姿のままというのは、とんでもなく老化が遅い、つまり寿命が長いということだ。


普通よりも寿命が長いっつーのは、必ずしもいいことじゃねえ。

親しい奴がどんどん老化していって、そのうち話も合わなくなって交流がなくなったり、ずっと仲が良かったとしても結局は死に別れたりする。

今まで何人か寿命の長いやつに会ったことがあるけど、結構寂しいものだとほとんどのやつが言っていた。

他にも、寿命が長いやつは人身売買のために狙われる可能性がある。

寿命が短い人間の中には、なんとしても寿命を延ばしたいって考えるやつもいるみたいで、そういうやつ用の商品にされるんだ。

自分の寿命を変える方法は、現状一つだけ存在する。

つがいを持つことだ。

誰かとつがいになることで、寿命は夫婦の寿命を足して割ったようなものに変わっていく。

それを狙って、長生きしたいやつは寿命が長い相手を配偶者に望むわけだ。


「お前がジジと同じだけ生きようと思とたら、

 たぶんジジの倍ぐらい寿命がある男を見つけないといけないんじゃねーか?」


成長具合を見る限り、ニニの寿命は平均より短そうだ。


「……がんばる!」

「いや、いねーだろ」


国王のお抱え学者がたしかすでに千年くらい生きてるって話だったが、すでに伴侶がいるって話だったしな。そうゴロゴロとそのレベルの長生きがいるとは思えねえ。


「どっちかっつーと、ジジが寿命の短いつがいを持つ方が現実的だよな」


そうすればジジの寿命が短くなって、成長と老化も早まるはずだ。


「いずれはそうするつもりだよ。あと三百年後くらいかな」

「三百年もしたらニニは死にかけだよー!

 おねーちゃん今! すぐ! 寿命が一年くらいの人とつがいになろうよ!」


寿命には個人差があるとはいえ、さすがに一年で誕生から老衰を駆け抜けるやつはいねーよ。


「ふん。我は、この見た目のやつとつがいになろうとする男なんぞ、ごめんだわい」


まあ、それもそうか。ジジの見た目は子どもだもんな。



「ところでお前ら、自警団寄ってきたか? 二人に見せたい魔物がいるって言ってたぞ」


俺はまだ見てねーけど、ディオの話だと小動物系の女性受けしそうな魔物らしい。


「見た見た! 見たよ! すっごいレア!」

「この森に生息してると知れれば、国から調査が入るだろうの」

「まじか」


二人の話によると魔物はロイニーロイニーという種族で、額の石にひたすら魔力を蓄え続け魔石を作り出すという特性を持っているらしい。

魔力による魔法のような攻撃手段は持たず、牙や爪もそれほどの強度はないため、身を守るすべが体を膨張させて威嚇することだけという、非常に弱い魔物のようだ。

弱い魔物であるロイニーロイニーだが、作り出す魔石には大きな価値がある。

現在この国で使われている魔石は、奥森や遺跡などの魔力溜りや鉱山などで採集・採掘されたものがほとんどだ。

他に魔道師によって魔力をチャージされた魔石もどきもあることはあるが、これは本物の魔石に比べると全然内包している魔力量が少ない。

それに比べてロイニーロイニーが保有している魔石は、鉱山などで採れる魔石と比較しても遜色がないか、それ以上の精度がある代物らしい。

鉱山産の魔石というものは、ものすげー昔の(昔ノエルがいつ頃か言ってたが忘れた)地層から出てくるもので、つまりその精度の魔石が出来るにはものすげー時間がかかるってことで、いつか魔石が枯渇するんじゃねーかって問題になってるらしい。

そこで注目されたのがロイニーロイニーだ。

ロイニーロイニーは数年で精度の高い魔石を作り出す可能性があるらしい。

国の研究機関注目の的というわけだ。

ところが、ロイニーロイニーは七百年ほど前の魔物図鑑にその存在が載っているものの、過去に乱獲されたのか図鑑に書かれた生息地ではすでに発見できなくなっていた。

絶滅したのではないかって話にもなっていたらしい。

そんな魔物が奥森に生息しているかもしれないわけだ。

これはかなりの大発見だろう。


「売ればすっごい! すっごい! すっごいお金になるとは思うけどね!」

「さすがに国に報告するさ」

「お前らの名前で報告が行けば、国も悪戯とは思わねーだろうしな」


モンスターテイマーっつーのは国家資格がいる職業のうえ、ニニはともかくジジはいろんな意味で有名だからな。


「しかしいいのか?

 我も長くこの森で狩りをしているが、ロイニーロイニーを見たのははじめてだ。

 奥森に行ったからといってそう簡単に他の個体に遭遇できるとは思わないが、

 保護のために奥森は許可がなければ入れなくなるだろうの。

 そうなれば、旅人が来なくなるぞ。

 それから、調査員が何人くるかはわからんが、余所者が村に長く滞在することになるだろうな」


ジジは眉間に皺を寄せた。

たしかに、この三百人しか住んでねー村に百人とか調査員がきたら、ちょっとなんかあれだよなあ。

寝泊まりする場所も、食料も、うちの村だけじゃ回していけそうにない。

俺が二日に一回町に仕入に行かなきゃいけなくなったりするかもしれねーな。

まあ心配しなくても、調査員の衣食住は国の方でなんとかするかもしれねーけど、それはそれで、近くに住んでんのに一緒に暮らしてねーかんじで落ちつかねーしな。


「できたら、調査にくるやつにも村のみんなと仲良くしてほしいよな……」


余所者に村を乗っ取られるような事態は、さすがに拒否したい。


「うむ。我の方でも、大勢で押し掛けることがないよう、取り計らってみよう」

「おう、たのんだ」



話が一区切りついて、ジジは店内をぐるりと見回した。


「ぬしも変わらんが、この店も変わらんな」

「いや、さすがに建物がボロくなってきたからな、建て替え検討中だ。

 まあ俺が継いでから二十年たつからな」

「二十年か。もう冒険者にはもどらんのか?」


俺は二十年前まで冒険者をしていた。

魔物を倒して素材を売ったり、商隊の警護をしたり、地方の村の依頼で魔物を倒したりして日銭を稼いでいた。

十年ほどあちこち回って、なんとなく地元に帰ってきたら、この雑貨屋の爺さんと気が合って、そしてなんとなく店を継ぐ約束をしてしまった。

約束した数日後に爺さんが寿命で死んだのには驚いたが。

約束は約束だから、店を継いで二十年、今に至るってわけだ。


「わかんねーけど、とりあえず今はいーや。雑貨屋っつーのも、結構楽しいんだよ」


毎日毎日似たような客が来て似たような物買っていくだけだったりすんだけどさ。

でも、二十年前、今のアッシュより幼かったロバートがいつの間にか俺よりでかくなって彼女作ったり、もし子どもが出来たら赤子を預かった方が安全なんじゃねーかと思ってたエメリアさんに子どもが生まれて意外と無事に育ったり、リーンがきたり、ミズキがきたり、なんかよくわかんねーけど、結構楽しいんだよな、ここにいるの。


「ふむ。ではベテラン雑貨屋店長となったぬしに、おすすめ商品でも紹介してもらおうかの」

「おすすめ! おすすめー!」


ジジが容姿に似合わないニヤリとした表情で笑い、ニニも肉体の成長に似合わない無邪気さでぴょんぴょん跳ね回る。

よし、ベテラン雑貨屋の力、なめんなよ?

俺はカウンターに二つの商品を置いた。


「こ……これは……都ではすでに在庫切れと噂の、プリま!おまけつきヨーグルト風味牛乳……!

 言い値で買おう! 全部だ!」


定価でいいぞ。あと、村のガキにも欲しがるやつがいるかもしれねーから、全部は売らねーぞ。

ジジは三百年生きており、知識もあるし古い言葉遣いだが、趣味嗜好は見た目どおりだ。


「こ……これは、イケてる独身ご長寿名鑑最新版! 言い値で買うよ! 全部!」


一冊でいいだろ。つーか、一冊しか仕入れてねーよ。

ニニの欲しそうなものは毎年かわるけど、今年はこれでいいだろ。

二人は商品を抱えて上機嫌で宿泊先のロヴァ亭に帰っていった。

ベテラン雑貨屋の力を思い知ったようだ。




夕方、村長が店に来た。


「あれ……おかしいのう……ないのう……」


本棚で何かを探しているので声をかけると

「あのう……そのう……あれじゃよ……わかるじゃろ……?」

と、もじもじしながら上目づかいでこちらを見てきた。


カツラか? 毛生え薬か?

いやでも本棚っつーことは、頭皮ケアの本か?

でももう村長が持ってない本はねーはずだぞ?

ベテラン雑貨屋の力をフルパワーにしても、わからない。

くそ……俺もまだまだか……。


「あの……イケてる……長寿の……」

「え? イケてる独身ご長寿名鑑?」


聞くと、村長は自分が載っているかもしれないと毎回チェックしているらしい。

いやこれ、独身しか載らねーから!

何でか毎回仕入リストに入ってると思ってたら、毎回いつの間にか村長に売っていたらしい。


「まったく、ワシが入荷を頼んだものを別の者に売るとは! なっとらん!」

と客に叱責され、ベテラン雑貨屋を名乗るにはまだまだ修行が必要だと思い知らされる夕方だった。


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