夏14日 ミズキ いつも心にひのきのぼう
今日も今日とてコンビニへ。
ジュースを買ったらオマケでシールが付いてきた。
『プリま!』という、小さい女の子向けドラマのシールらしい。
お姫様たちが魔法を使いながらバレエを踊って競い合う作品だとか。マスコットの墓場とか出てきそうだな。
私は見たことがなかったが、日曜朝十時から放送してるそうだ。
ちなみにこの世界、土曜日っぽいものはない。一週間は六日で、一カ月は三十日、五週間なのだ。
もうカレンダーなんていらないんじゃないかってくらい、わかりやすいね。
ところでこの作品、ドラマなのだ。アニメじゃなくて。
実はこの世界、テレビはあるけどアニメはないんだよね。漫画もないっぽいし。
アニメや漫画があれば、もうちょっと服装の露出にも寛容になったりしないかなあ。
そう、露出と言えば水着ですよ!
ついに、巷を騒がせていた(?)魔物が捕えられたらしいのです!
これでようやく森に……否、泉に行けるね!
ついに来た水着回!
今日明日はリーンが仕事だから、明後日行こうかな!
魔物は自警団の詰所で捕獲されていると聞いて、やってきました自警団詰所!
王子、初の魔物との遭遇。
ひのきのぼうを持ってこようか迷ったけど、いかにもレベル1ですって感じが恥ずかしいので手ぶらで来ました。
「たのもう!」
詰所の入り口をバーン!と開くと
「ああ、ミズキ。いらっしゃーい」
「よくっホッきたっハッなっフッ」
「今日も山男の汗?」
「材庫あるよ」
スティック状のお菓子をポリポリ咥えたシュシュさん、
筋トレ中のバトレイさん、
剣の手入れ中のディオさん、
読書中のアンシーさんという、ゆるーい雰囲気の面々に出迎えられた。
「えーっと、魔物を捕まえたって聞いたんだけど、見せてもらえないかなと思って」
「あ、そこそこ。好きに見てってー」
シュシュさんは指示棒のように持ったお菓子で部屋の隅を指して、すぐにそのお菓子をポリポリ。
このゆるさ……ひのきのぼう持ってこなくてよかった……!
持ってたら全力でプギャーされても致し方ないところだった。
部屋の隅には鳥籠があって、中に手のひらサイズくらいの黄色い毛玉が入っていた。
「意外と小さいんですね」
「まーね。小さいうえに大人しいのよ。厳重警戒して損したきぶーん」
本気でひのきのぼう持ってこなくてよかった!
こんな可愛い毛玉に棒で殴りかかったら、逆に私が弱いもの虐めの罪で討伐されるところだった!
それにしても可愛いなあ。
頭の形はウサギというよりは猫なんだけど、耳はウサギみたいに長いたれ耳。
額には赤い石っぽいものが埋まっている。第三の目なのかな?
寝ているのか目の色はよくわからないが、たぶんつり目気味だと思う。
全体的に毛足は長めで、キツネみたいなフサフサ尻尾。
いいなあ、可愛いなあ。
いや、私にはコロネがいるが……!
「触ってみる?」
私の物欲しそうな視線に気づいたのか、ディオさんが鳥籠の鍵を開けてくれた。
触っていいのか!
魔物って言っても人を襲わないなら、広義の意味での魔物ってことか。
なんとなく、コアラ園の飼育員さんよろしく抱っこで手渡してくれるのを期待していると、
「あ、こいつ、男が触ると膨張するからさ、籠からは自分で取り出してくれる?」
ディオさんにあとはセルフで! と言われた。
しかし、男が触ると膨張するとはどういうことか。
籠の入り口をスライドして開くと、魔物が目を開けた。
額の石と同じ赤い瞳を想像していたけれど、予想に反して黒い円らな瞳だ。
入口から手を差し込むと、魔物は私の手ではなく私の顔をじっと見てきた。
「なんかこいつ、男嫌いみたいなんだよね。
シュシュやアンシーが触ると機嫌良さそうにするんだけど、
オレやバトレイが触ると途端に怒るんだよ」
「ほ、ほう……」
ディオさんの言葉に、私は魔物に近づけていた手をピタリと止める。
だって、これってさ、あれだよね。
もしこれで魔物が膨れたら、私は男認定されたってことだよね?
私はたしかに王子だけど、男になりたいわけじゃないわけで!
本能で生きてそうな動物的なものに男認定されるのは、なんていうか、結構屈辱というか、嫌、うん、嫌です。
手を引っ込めて入口を閉めると、ディオさんが「触らないの?」と尋ねてきた。
「いや……王子たるもの、やはり魔物と慣れ合うわけにはいかないのだ……」
さすがの私も男認定されるのが怖くて触れないとは申せません。
「そうなんだ?」
「ああ、たとえレベル1でも、王子の心のひのきのぼうは折れることはないのだ」
「そっか。よくわからないけど、王子ってたいへんなんだね」
うん、私も何言ってるのかよくわからないから許せ。
心のひのきのぼうを素振りしながら(イメトレとも言う)家路をたどっていると、
「落としたよ?」
と、後ろから声をかけられた。
振り返ると、髪をツインテールにして赤いボンボンをつけた小さな女の子が『プリま!』のシールを拾ってくれているところだった。外見だけなら五歳くらいかな。
ちなみに一カ月この村で過ごしてわかったことだが、この世界の人は外見年齢イコール実年齢ではないものの、外見年齢イコール精神年齢と思ってもそれほど間違いではない。
まあたまに、外見幼女で精神年齢老婆のいわゆるロリババアとかもいるらしいから、絶対じゃないけどね。
ところで、ロリババアはメジャーな属性だと思うけど、ショタジジイの需要っていうのは、いかほどのものなのだろうか。
いやそもそも、寡聞にして私はショタジジイという言葉を聞いたことさえないのだが。
幼児で爺言葉っていうと、えーと……あ、あれか……
動くお城の話に出てくる「待たれよ」の子とか……? あれは普段は普通の口調だからちょっと違うか。
「あ、プリまのシールだあ」
意識を現実に戻すと、ツインテ幼女が拾ったシールを物欲しそうに見ていた。
「きみにあげるよ」
演劇部としては特撮にもそれなりに興味はあるけどシールは別にいらないし、もともと小さな女の子向けのオマケだと思うしね。
うん、実はさっき
「この商品、都だと大人のファンが大量に買い占めて品切れ状態らしーぞ」
ってホセが言ってたけど、私はそんな大人じゃないからね?
幼女はもじもじしながら
「……ありがとう……お、お兄ちゃん……」
と言い残して去っていった。
…………うん。
幼女は本能で生きている動物的なものとは違うのだと自分に言い聞かせつつ、心頭滅するために心のひのきのぼうをひたすら素振りする帰り道だった。




