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夏13日 ディオ 夜勤とジェンダー

参ったことに、いるはずの魔物が見つからない。


うちの村の近くだと、魔物は奥森で発生するとされている。

この付近で強い魔力が充満している場所なんて、奥森くらいだからね。

どうして奥森に魔力が溜まるのかは解明されてないみたいだけど、奥森だけじゃなくて、世界中のあちこちに魔力が溜まる場所はあって、魔物はそこで発生しているらしい。

奥森は、魔石によって張られた結界の向こうにある。

だいたいの魔物は結界を抜けて村近くの森に出てくることはないんだけど、ごくまれに出てきちゃう困ったさんがいるんだよね。

リーン曰く、結界に触るとビリッとしたり、すごく不快な感覚があるらしい。シュシュが「出てくる魔物はマゾなのね! きっと!」と言ったところ、「ん……不快だけど、その分結界を抜けた時の解放感があるから、そうかもしれないね」と言っていた。シュシュに会話を合わせたつもりかもしれないけど、この子は危ない匂いがする。


で、先日魔物が結界を抜けた反応があったんだけど、そいつがいまだに見つかってないんだよね。

魔物が結界を抜けると詰所にある魔石に反応が出るから、魔物が森まで出てきてるってのは間違いないはずなんだけど……。

どんな姿の魔物かとかがわからないのは難点だよなあ。万が一蟻みたいに小さかったら、永遠に見つけられない気がする。

四日前から探してるけど見つからなくて、見つからない間は夜勤人数が増えるんだよな……。

日中これだけ探し回って見つからないなら敵は夜行性だろうと目星を付けて、今日はシュシュとバトレイが夜の森に入っている。

夜の森は慣れてないと危ないから、どうしてもじゃなければ夜は森に入らないんだけどね。

今回だって、案内に夜の森に慣れているジャンを連れて行っている。

ジャンの予想だと数日中に嵐が来るらしいから、自警団としては嵐が来るまえに魔物を討伐しておきたい。じゃないと、魔物が嵐に紛れて移動するかもしれないからね。


森の中はバトレイたちに任せて、オレは村のパトロール中。

森から魔物が入ってこないか、森と村の境をひたすら行ったり来たり。

今一つ意味があるとも思えないこの行動。だって、オレが通り過ぎた直後を見計らえば、森から村に侵入し放題だし。

村と森の境界をずっと見張るなんて、かなりの人数で対応するか、結界を張るしかないわけで、数人でパトロールしてもほとんど意味はないと思うんだよね。


「それでもやるんだ?」

「仕事だからね」


サラリーマンですから。

ちなみに、夜のパトロールも昼と同様、二人一組。なんかあった時、連絡に走れる人がいた方がいいからね。

今日はアンシーとチームです。


「夜勤に女の子を駆り出すのって、オレはどうかと思うんだけどね」

「仕事だからね」


それはそうかもしれないけど、なんかね。

ここ百年くらいで、軍をはじめ自警団とかにも女性が所属するようになったけど、男女同じ扱いって、男としては結構やりにくいところがあるんだよね。

別に「女は男に守られとけばいいんだよ!」とか言うつもりはないけど、出来そうなことは男の方でちょっと負担するくらいの方がお互い気分よく過ごせるんじゃないかと思うんだよね。

まあ、「男に頼るなんて、女は男に劣るみたいでご免よ!」とかいう人もいるだろうけどさ……

劣るとか劣らないとかじゃなくて、適材適所っていうか……

ダメだ、オレあんま頭良くないから、よくわからなくなってきた。


「ま、変に気を遣われても迷惑だよ。夜勤くらい問題ないし」

「はい……」


はい……でも気を遣わずにはいられない性分なんです……。



しばらく無意味と思えるパトロールを続けていると、ちょっと離れた場所に明かりが見えた。シュシュがオレたちを呼びに来たらしい。

昼間なら笛を使って連絡を取り合うんだけど、深夜だからね。近所迷惑となるため笛が使えないから、直接呼びに来たらしい。

と思ったのに、


「ディオ! アンシー! 魔物捕まえたからパトロール終了でいいよー!」


やたらとでかい声が夜闇に響き渡った。

近所の家から一斉に壁をドンと叩く音が聞こえた気がした。

こんなことなら、名前呼ばれない分、笛の方がよかった……。



詰所に行くと、鳥籠の中に魔物が入っていた。

黄色い毛皮で、ウサギみたいな大きな耳が垂れ下がっている。

額にはまった魔石で魔物だとわかるが、可愛らしい外見だ。


「小さい魔物だったんだね」

と、アンシー。


いや、そりゃたしかに鳥籠に入るサイズって考えれば小さいのかもしれないけどさあ……


「それ、魔鳥獣愛護団体とかに、怒られない?」


魔物は鳥籠に入る適正サイズをはるかに超える大きさで、籠の中にみっちり詰まっている。

どうやって詰め込んだ。


「いや、それがさー。最初はこーんな小さかったのよ」


シュシュは、両方の手で手のひらサイズを示した。


「それが、籠の隙間から木の枝でツンツンしてる間に、ムクムクムクムク大きくなってきちゃって」

「だから愛護団体に怒られるって」


なんでつついた。


「だって不貞腐れてるみたいな態度が可愛かったんだもん」


先生! ここにいじめっ子がいます!(シュシュがいじめっ子なのは今更だが!)

だがしかし、この村には頼れる先生がいなかった。(ノエルじゃ話にならない)


「機嫌が悪くなると大きくなるのかと考えてな、俺が筋肉を披露したんだが……」

「さらに大きくなったんだね」


シュシュが「愚かだね」と言わんばかりの目でバトレイを見ている。

シュシュはそれでもバトレイが好きだと言うのだから、恋愛とは不思議だ。


「まあでも、機嫌が悪いと大きくなるっていうなら、

 放っておけば機嫌も直ってそのうち元の大きさに戻るんじゃない?」


このメンバーじゃ、構うだけ逆効果ってものだろう。


「そうねえ。じゃあちょっとディオ、そこのロッカーに入ってみなさい」


シュシュが詰所に置かれた掃除用具入れを指さす。


「ロッカー? なんで?」


中には箒やらモップが入っていたはずだ。


「いいから。副団長命令よ!」


上司の命令には逆らえないので(サラリーマンですから)、渋々掃除用具入れに入る。

箒とかは外に出していいのか聞いたところ、却下された。

モップが生乾きじゃなくて良かった。

などと、いらぬ安堵をしていたら


「施錠!」


という声とともにドアが閉められ、ガションという鍵がかかる音がした。


「え、ちょ、何!?」

「ディオ。あんたその場所で、機嫌を直すことが出来る?」

「機嫌!? オレ今機嫌悪くないけど、モップが近くて気分悪くなりそうだけど!?」

「そういうことよ!」


シュシュの勝ち誇ったような声とともに、勢いよくドアが開かれる。外の空気がうまい。

もしかして一晩ここに閉じ込められるのかと思ったが、予想に反して一瞬で解放された。よかった。


「ね? そんな狭い場所で機嫌が直るわけないでしょ。あれも一緒よ」


そう言ってシュシュは魔物を指さす。

たしかに、籠にみっちり詰まっちゃってるもんなあ。

騒がしかったのが気に入らないのか、オレがロッカーに入る前よりもみちみちになっている気がする。


「あれ? そういえばなんでこれ、討伐しないで連れて帰ってきたの?」


魔物は見つけた場合、だいたい速やかに討伐される。

素材を採集するにしても、殺してから村に持ってくるはずだ。村で暴れられたら厄介だしね。


「捕まえた時は小型の可愛い感じの魔物だったからね。

 ぼちぼちテイマー姉妹も来るだろうし、欲しがるかと思ってね」

「ああ、なるほど」


夏の半ば頃になると、毎年冒険者の姉妹が村を訪れる。

彼女たちはモンスターテイマーで、奥森でモンスターを手懐けて一稼ぎしているらしい。


「それにしても、このままだと鳥籠が壊れるか、こいつが自爆するんじゃないか?」


魔物はもうかなり籠にめり込んでいる。

そんなにめり込んじゃ、本人もきつかろうて。

それを気にせずさらに膨らもうとするあたり、自爆してもおかしくない。


「自爆されると掃除が面倒くさい」


眉根に皺を寄せて、心底嫌そうにアンシーが呟く。

オレはなんとなく、ポンッと小さな爆風が起こって跡形もなく消えちゃうイメージだったんだけど、アンシーは肉片が飛び散るイメージでも見てるんだろうか。


「おかしーなー。抱っこして連れてくる間は、大人しかったんだけど」


それはそれで、シュシュも魔物も危機意識的にどうだろうか。

けど、抱っこされて大人しいなら、やっぱり虐めなければ元に戻るんじゃ?

でもなあ、今の状態で籠からだしたら逃亡されそうだしなあ。

仕方ないので、オレは籠の上から魔物を撫でてみた。

籠の隙間からはみ出た肉と毛皮をさすさすと擦る。

むっちりもっちりした感触だ。なんだか癖になる。

次第にもちもち感が増していっている気がする。


「ディオ、大きくなってる」


無心で撫でさすっていると、アンシーに止められた。

アンシーを見ると、いつも通り……いや、いつも以上に冷たい目をしている。


「いやでもこれちょっといいんだって! アンシーさんも触ってみてくださいよ!」


そしてこのもちもち地獄のとりことなればいい!


「やだよ、爆発したら掃除めんどくさいし」


アンシーは今日もつれない。


「でも、もうこれ、籠から出せそうにないし、このまま放っておいたらどうせ爆発するんじゃない?」


おお、シュシュナイスフォロー!


「その魔物、まさかの筋肉嫌いと見た。

 この中でもっとも筋肉のないアンシーよ、お前ならばあるいは……」


あるいはなんなのかわからないけど、バトレイもナイスフォロー(?)。


「……はあ……わかったよ……」


渋々という感じでアンシーが魔物を撫でると、魔物はみるみる小さくなっていった。

ためしにオレが再び撫でてみると、また大きくなっていく。

アンシーが撫でると小さく。

バトレイが撫でると大きく。

シュシュが撫でると小さく。


こいつ……女好きだ……!


自警団の仕事は男女同一だというのに、魔物の本能に男女は別物だと突きつけられた、そんな夜だった。


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