夏11日 ホセ 悠久たる深淵 VS 荘厳たる夕闇
今日は町に仕入に来ている。
今日はヴァニラもいないから、すげー楽だ。
いや、嫌いじゃねーけど、あいつと長時間いると結構疲れんだよ。
「なあなあ、帰りに私が馬の手綱を握ってもいいか?」
「ダメに決まってるだろ」
ヴァニラがいない代わりに、服地を買いにミズキがついてきてるけどな。
ミズキもよく喋るけど、ヴァニラに比べると疲れないのはなんなんだろうな。
最初ミズキを見た時は、会話できる気がしねーと思ったもんだが。
ミズキは声が低いからかもなあ。ヴァニラはキャンキャン言うからな。
「私も武芸を習得しようかと思ってな。
とりあえず、ひのきのぼうの素振りから始めたんだが。
馬にも乗れた方が王子っぽいだろう!」
ヒノキノボウって何だ……?
しかし、馬ねえ。
まあ、白馬の王子とかって言うもんな。俺の馬は黒いけど。
「王子っつーのは馬には乗れるかもしれねーけど、戦闘力はそんなにねーんじゃねーの?
王子は守られるもんだろ、騎士とかに」
この国の王子は勉強ばっかりしてる引きこもりで、もやしだって噂だぞ。
「騎士か! 騎士も悪くないな!」
まあ騎士はガキの憧れの職業だからな。
貴族じゃなくてもなれる上に実力次第じゃ貴族位がもらえるし、制服が格好いいとか、貴族のお姫さん方と知り合う機会があるとか、いろいろ魅力があるらしいな。
俺は貴族なんてめんどくさそーだと思うけどな。
まあでも、人気の一番の理由は、やっぱ強くて格好いいってところか。
ジャンじゃねーけど、騎士道チップスもいつまでたっても人気あるしなあ。
「騎士っつーのは通称で、軍属魔道師以外の兵士、
例えば軍属剣術士とか軍属槍術士とかの上級兵士を指してんだよ。
兵士は五体満足ならほとんど誰でもなれるらしいけど、
上級兵士は戦闘能力・知力・品格・容姿とか、なんか色々良くねーとなれねーんだと」
「へえ。じゃあ結構スターなんじゃないか?」
「だな。俺も都で何度か見かけたことあるけどさ、オーラがあるっつーか。
見ただけで騎士ってわかる感じだったぜ?」
用事を終えて車止めに行くと、エターナルダークフォースと変な野郎が見つめ合っていた。
「この素晴らしい毛並。
まさかお前は、前世で俺の相棒だった、荘厳たる夕闇……!?
生きて……いや、転生していたのか……!」
変なやつは、驚愕した様子で俺の馬に語りかけている。
「変なやつがいるな」
と、ミズキ。
あ、お前(も結構変だと思うけど)もそう思う?
「おい、俺の馬がどうかしたのか?」
ここで遠巻きに見ていても仕方ないので、男に声をかける。
振り返った男は、眼帯をしていた。
「ああ、こいつの今世の主殿か。
俺は、前世のこいつの主……いや、相棒か。ヘルファイアという者だ。
まさかこんなところで荘厳たる夕闇と再開できるとは思わず、
不用意に話しかけてしまい、悪かった」
そいつは自嘲気味に笑うと、ふっと遠い目をした。
「……ホセ、お前の兄弟か?」
「同じ赤髪ってだけで結びつけんじゃねーよ」
他は似てねーだろうが。
眼帯をしたそいつは、燃えるような赤い髪を一部分だけのばして編んでいた。
服は上下ともに黒い。所々に銀に光る鎖が巻きついている。
……結構恰好いいな。
「主殿、よければこいつの今の名を教えてもらえないか?」
そいつ……ヘルファイアだったか? ヘルファイアは馬の鼻面に軽く触れた。
「悠久たる深淵」
俺は短くその名を答える。
「エターナル……ダーク……フォース……。
永遠……いや、悠久たる……深淵……か?」
「よくわかるな」
ヘルファイアの呟きに、ミズキがつっこんだ。
いや、わかるだろ、ふつー。
「悠久たる深淵。悪くはない……悪くはない、が、
フォースとホースの音が似ている部分が気にかかる。
どうだろう、主殿。ここは荘厳たる夕闇に改名しないか?」
「あ゛?」
なんだこいつ、俺がつけた名前に文句あんのか?
「…………」
「…………」
睨みつけると、向こうも無言で睨みつけてきやがった。
埒があかねーな。無視して帰るか。
「おい、待て!
このままでは荘厳たる夕闇の真名が侵食され、魂の力が失われてしまう!
おい、主殿のご友人! きみからも主殿を説得してくれ!」
俺が無視して荷台に荷物を積み始めると、ヘルファイアは慌てたようにミズキに矛先を変えた。
するとミズキは、
「ムギが良いと思うぞ」
と、至極どうでもよさそうに答えた。
「は?」「ぬ?」
俺とヘルファイアの声が重なる。
ムギって……麦か……?
いや、名前にそれはねーだろ。
「お前、いっつも王子だのなんだの派手にしてんのに……
どうしたんだよ……熱でもあんじゃねーか? おい、具合悪いのかよ?」
昼飯何食ったっけ? 変なもん食ってねーよな?
「ああ、悪いが、王子と厨二は全く別物なんだ。
その子は麦が好きみたいだしな、ムギがいいと思うぞ。可愛いじゃないか、ムギ」
「ムギ……だと……。
荘厳たる夕闇の新しい主の友人と思い、
それなりの人物なのだろうと思っていたが……
まさかただの人間だったとはな……。
いや、きみには難しい話だっただろう。すまない、忘れてくれ」
ヘルファイアは見下すような態度に変わり、眼帯を手で押さえて首を振った。
ムギはどうかと思うが、それにしてもこの態度はムカつくな。
「そうするー。帰るぞ、ホセ」
怒ろうかとも思ったが、ミズキがやる気なさそうな様子で返事をしてさっさと荷台に乗り込んだので、俺も無視して御車台に乗り込む。
「あ、おい、待て……!
く……うあぁ……右目が……まさか……指令……なのか……。くっ、こんな……時に……。
すまない荘厳たる夕闇。必ず……必ず助けに行くぞ……!」
右目を抑えて蹲るヘルファイアを無視して手綱を振ると、悠久たる深淵は軽快に走り出した。
店に着くと、ちょうどジャンが騎士道チップスを買いに来る時間だった。
「なんだよ! またアルフレッドかよ!」
すでに持っているカードが出たらしい。カードをペッと床に投げつけて店を出ていった。
拾ってけ。出禁にすんぞ。
カードを拾って何気なく絵柄を見ると、「アルフレッド・ヘルファイア」という文字とともに、さっき見た男が剣を構えた姿で描かれていた。
騎士の品位って、なんだったんだ……?




