表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/100

夏6日 ホセ ハナビとコイバナ

「はあ~……大浴場……」

風呂上りらしいミズキが、庭のベンチに座って項垂れている。

この前俺にくれた服に少し似た、変わった服を着ている。ユカタと言うらしい。

化粧を落としたミズキは、なんだか幼い感じがする。

「大浴場……入りたかったなあ……」

「大浴場って、他人と一緒に風呂入る場所だろ? お前よくそんなもん入りたがるな」

俺は嫌だ。落ちつかねーのが目に見えている。

「慣れれば平気だよ。広くて気持ちいいし、リラックス空間だから会話も弾む」

ふぅん。そんなもんかね。

「ちなみにアニメなどで、女子風呂でお互いのスタイルについての話をしていたりするが、あれは幻想だ」

ふぅん。そんなもんかね。

アニメっつーのが何かはわかんねーけど。


「ミズキちゃん! ホセくん!」

しばらくミズキと他愛もない話をしていると、リーンが来た。ミズキと同様、ユカタを着ている。

リーンはベンチの空いている部分、ミズキと反対側の俺の隣に座った。

「両手に花だなあ」

ミズキがニヤニヤしながら肘で小突いてくる。

「いつものお前ほどじゃねーよ」

村の女たち山ほど侍らせて歩いてるって、爺婆たちが言ってたぞ。

「まあ私は花っていうより、王子だから華だけどね」

何言ってんだこいつ。

「ミズキちゃんは女の子だよ!」

「お前女だろ」

花で間違ってねーじゃねーか。

リーンも同じことを思ったのか、ほぼ同時に否定の言葉が出た。

「そ……そうか……」

ミズキは決まりが悪そうに俺たちから視線を逸らすと、前を向いた。サンダルを履いた足をプラプラさせている。

最初見た時も棒みたいなやつだと思ったけど、足首ほせーな。


次第に庭に人が集まり始めた。

今日はこの後、花火をすることになっている。

合宿には不参加だが、花火だけ参加するってやつが結構いるみたいだ。花火って結構高いけど、今回はノエルが金出してくれるからな。

女も結構いるけどミズキのファンとは違うやつらなのか、こっちに来る気配はない。結構着飾った女が多いな。これはあれか、ヒューに会いに来たな。

屋敷からもチラホラと風呂が終わった面々が出てきて、それぞれ仲が良いやつと集まり出した。

ヴァニラはルリと話しつつ屋敷の出入口をチラチラ気にしていて、ルリに煩わしそうな顔をされていた。

この状況、クーが野生の感で察知して、ヒューを外には出さねえんじゃねーか? 飢えた獣が跋扈するこの中庭に、クーがみすみす獲物を放つとは思えねーな。


出入口のドアが開く音がしてそちらを見ると、ロバートが出てきた。数人の女がロバートに寄っていく。

「やっぱり金髪碧眼はモテるなあ」

それを見てミズキが感心したように頷いている。

「お前、今日は閑古鳥じゃねーか」

「私のファンの子たちは着てないらしい。

 それに、今は浴衣。男装してないし、すっぴんだしね。

 私としても、王子オーラが出しにくいんだ」

ふぅん。そんなもんかね。

「ミズキちゃんの浴衣、とっても似合ってるよ!」

リーンはミズキにキラキラした眼差しを向けている。

リーンのやつ、ミズキのこと大好きだもんな。

「リーン、お前さ、ロバートのこと、どう思う?」

ロバートはさっき一瞬、こっちというかリーンを見ていた。リーンもちょっとはあいつに興味があればいいんだけどなあ。

「ロバくん?」

リーンはコテンと首を傾げた。そしてロバートをじっと見て

「モテるよね?」

と、再び首を傾げた。

「いや、そういうことじゃねーんだけど……」

聞きたいのはそういうんじゃなくてだな……

「格好良いとか素敵とか好きとか付き合いたいとか結婚してとか、そういうのねーの?」

「だんだん好意レベルがあがってるな!」

「あと、小学生みたいな表現だな!」とミズキにツッコまれる。

悪かったな! 小学生っつーのはよくわかんねーけど、馬鹿にされたのはわかるぞ! 俺も異性に対する好意なんて、どう表現したらいいのかわかんねーんだよ!!

リーンは再びロバートをじっと見つめて、少しして口を開いた。

「ん……美形だよね、キラキラしてる。

 しっかりしてるし、優しいし、モテるのもわかるなあって。

 でも、彼女の話は聞かないし。ヒューくんと噂になった時は、ちょっと納得しちゃった」

おい、その話は俺にもダメージがあるからやめろ。

「あー……、付き合えたら付き合いたいとか……ねーの?」

「ん、それはないかな。なんだろ……違う世界の人っぽくて、考えたこともない、かな」

ダメだこれは。

好印象ではあるんだろうけど、恋愛対象には入ってないってことか? 俺でもなんとなく、そんくらいはわかるわ。


リーンはヴァニラに呼ばれて「ちょっと行ってくるね」と俺たちから離れた。

ミズキと二人になると、

「おい」

と、低い声でミズキが話しかけてきた。

「なんだ今のは」

怒っているような憤っているようなそんな声だが、何怒ってんだこいつ。

「今のって?」

ミズキの機嫌を損ねるようなこと、なんかしたか? 全然思いつかねーけど。

「なんでリーンにロバートさんのことを聞く」

は? そんなこと怒ってんのか?

「ロバートがリーンのことが好きだって言うからさ」

隠すことでもないから正直に話す。ロバートも別に隠したい風でもなかったし、どうせ今の質問でなんとなく察してるだろうしな。

「そうだとしてもだ……! ああ……まったく……!

 ……リーンは、きみのことが好きだろう!?」

ああ? リーンが俺のことが好き? ああこいつ、「好きな相手に、別のやつを勧められたら悲しい」とか、そういうことが言いたいのか。

だったらそれは見当違いもいいところだが。

「リーンは別に、俺のことはそういう意味では好きじゃねーよ」

一緒に暮らしているとはいえ、まだ一カ月だもんな。ミズキにもまだわかっていないことはあるみてーだ。

「たしかにリーンは、他の村の連中よりは俺に懐いてるよな」

「うむ」

「でもそれは、俺に恋愛感情があるからじゃねーよ。

 あいつはさ、自分が懐くのを許してくれそうな人物になら、誰にでも懐くんだよ」

この世界で知り合いの誰もいないミズキに懐いたように。

手を差し伸べて一緒に暮らしてくれたユズさんに懐いたように。

俺も自分が拾って連れてきたから気になって、最初の頃に結構会いに行ったりしたからな。だから懐いているのであって、たぶんそこに恋愛感情はないはずだ。

積極的に話しかけたりすれば、きっとリーンはロバートにも懐く。

ただし、そこに恋愛感情が生まれるかは別問題だが。

「……そうなのか?」

ミズキは微妙に納得がいっていないみてーだ。

「そうか……いや、でも……そうなのかなあ……」と、仕切りに首を傾げている。

「あいつのさ、お前に対する態度と俺に対する態度、違わねーだろ」

「……そう言われてみれば……そうか」

ミズキはヴァニラたちと話しているリーンを見ながら、また足をブラブラし始めた。

しばらく沈黙が続く。

「お前は?」

いつもミズキは良く喋る。

そのミズキが黙ると落ち着かなくて、俺はなんとなく聞いてみた。

「お前は好きなやついねーの?」

ブラブラしていた足がピタリと止まる。

ギギギ……と音がしそうなほどゆっくりと、ミズキがこちらを向いた。

顔はこっちを向いてっけど、目が高速で泳いでいる。

「ナンダキミ、ワタシノコトガスキナノカ?」

何で機械人形みたいな喋り方してんだ?

「いや別に」

嫌いでもねーけど。

「そうか、びっくりした!

 王子はお嬢さんたちからの愛は大歓迎だが、BLに走るわけにはいかないからな!」

なんだ、ビーエルって。ピエールなら、隣町の問屋の名前だけど。


ノエルとマリーとサトウが花火を持って現れて、俺たちのらしくない会話は、そこまでとなった。

はあ、なんかすげー疲れた。

ガールズトークっつーのか? それやってる女どもの近くにいるのもすげー疲れるけど、自分がそれっぽい会話すると、さらに消耗すんのな。

俺はまだまだ恋愛ごとは遠慮したい。そうあらためて考える、合宿の夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ