夏3日 ロバート 貝に八つ当たりした自分にあとで凹んだ
「えっと、『来たる夏六日、七日、一泊二日にて合宿を執り行う。
場所はヴァルドリー邸。通達を受けし者は、必ず出席されたし』だって」
ノエルが書いた連絡文を、リーンが読み上げる。
六日と七日で必ず出席って、また急だな。
「それ、ノエルが勝手に決めたんでしょ?
もー、ノエルは人の都合ってものを考えないんだから。ぷんすこ」
妹が「食堂の仕事で忙しいのにー」と、テーブル席で雑誌を捲っている。
お前を見る限り、それほど忙しそうには見えないけどね。
リーンを見ると、そんなヴァニラを苦笑いして見ていた。今日も可愛い。
「クーちゃんが、ヒューくんとアッシュくんと参加するって言ってたけど」
「でも、ノエルの頼みじゃ行くしかないよね!」
リーンが提示した餌に、ヴァニラはあっさりと喰らいついた。
お前はそういうやつだよな。
でも……
「リーンは行くの?」
おれだって人のことは言えない。
「その日はお仕事があるから、ずっとは参加しないけど、夕方からは行くつもりだよ」
アプローチしようにも、手紙の配達に来た時くらいしか会えないし。
「リーンが行くなら、おれも参加しようかな」
「お店はだいじょうぶなの?」
結構露骨にアプローチしたつもりなんだけど、スルーされた。
「ま、自営業だからね。休みは好きに取るさ」
「そっか。それじゃあロバくんとヴァニラちゃん、『ミズキ王子を囲む会』出席、っと」
詳しい内容も聞かずに参加を決めたけど、そういう集まりだったのか。
「ねえねえ! 合宿って何やるの?
囲む会ってことは、ミズキさんを中心に円を作ってぐるぐる回ったり?」
囲むってのはそういう意味じゃないだろ。
「ん……わたしもよくわからないけど、
ミズキちゃんは、『ひと夏のアバンチュールでミッドナイトなボンゴレビアンコ』って言ってた」
ボンゴレ……昼食か夕食のメニューか……?
「一泊二日なんだよね? 飯ってどうするのか聞いてる?」
「ん、そうなの。ロバくんが参加するなら相談してきてって言われてたんだった。
図書室のお屋敷で合宿するから、そこの調理場を使って参加者みんなでご飯を作る予定らしいの」
参加者……みんなで……?
参加者次第かもしれないが、結構悲惨なことになるんじゃないのか……?
この村、料理できないやつ多いんだよ。だからうちが繁盛してるとも言えるわけで。
「ミズキちゃんが、メニューは『カレー』が良いって言ってた。
合宿と言えばカレーなんだって」
ボンゴレビアンコじゃないのか。
「ロバくん、カレーってどんなお料理かわかる?」
「一応知識としては」
たしか異世界の料理だったはずだ。
ミズキちゃんの世界の料理だったとは知らなかったが。
たくさんの香辛料で肉や野菜を煮込んだ、スパイシーな料理らしい。
釜で焼いた薄いパンのようなものと一緒に食べるのが主流だとか。
作れないことはないだろうけど、素人も混ざることを考えるとちょっと厳しいな。
別の料理にしてもらうか……
「ミズキちゃんの世界では定番のお料理なんだって。
わたしも作れるようになりたいな」
それは作るしかないな。
リーンがミズキちゃんにべったりなのはちょっと複雑だけど。
まあ、他の男のために料理を覚えたいとか言い出さないだけましか。
「やあやあ! リーンはいるかな?」
店の正面ドアが開いて、ミズキちゃんが入ってきた。
背後に、「バーン!」という文字が書かれている。
背後に花が咲いたり文字が出たりするのは、どうやらミズキちゃん特有の魔法のようなものらしい。
「ミズキちゃん!」
リーンがぱっと顔を輝かせる。すごい嬉しそう。
リーンはミズキちゃんと寄り添うようにして店を出ていった。
やっぱり結構複雑だ。
なんとなくもやもやするので、今日のまかないはボンゴレにした。




