夏1日 マリエッタ 星の日に向けての準備
昨日の若人の日はミズキがこなくて残念だったわ。
こ……コロネの様子も聞きたかったのに。
大事にしてくれてるかしら。
風邪だと伺ったけど、大丈夫よね?
夏と言えば、来週の日曜日は星の日ね。
この季節、原因はよく知らないのだけど、川面に空の星がきれいに映りこむの。
特に七日は、まるで鏡みたいに星が映ることが例年の観測からわかっているのよ。
その日は、願いごとを書いた葉っぱで小舟を作って、星の海に流すの。
「家族みんな元気で過ごせますように」とか、「作物がたくさん取れますように」とか。
あたくしも小さい頃は、「お菓子屋さんになれますように」って書いたものだったわ。
アンシーは「お嫁さんになりたい」だったわね。
そういえば、この間ヴァニラに見せてもらったおまじないの本に、「好きな人と自分の名前を書いて星の海に流すと両想いになれる」っていうものがあったわね。
あたくしも今年は、それをやってみようかしら。
願い事を書くための葉っぱは、いつもお父様が用意してくれる。
うちの分じゃなくて、村中の分よ。
木が一本あれば、村中の人数分足りるもの。
願いを書く葉っぱは何の葉でも構わないらしいのだけど、お父様は比較的船にしやすい葉がつく木を
森から探して取ってきてくれているみたい。
ついさっき、お父様とサトウで広場に木を設置したところなのだけど、さっそく子どもたちが群がっているわ。
「おれね! おれね! 騎士道カードコンプリートしますようにって書く!」
「ぼくはお小遣いアップ!」
「男子ってほんと子どもね~」
「じゃあお前はなんて書くんだよ!」
「子どもにはおしえな~い」
微笑ましいわね。
「あとそれと、騎士になれますように! って書く!」
「あー! 欲張っちゃダメなんだからね!」
「うるさいチービ!」
「何よサルー!!」
本当に微笑ましいわね。
街道が整備されて町や都へ行きやすくなってからというもの、この村も、だんだん若い人が外に出ていくようになってしまった。
ディオみたいにちょろっと都会に出て数年で帰ってくる人も少しはいるけれど、ほとんどの人は戻ってこない。
この子たちもそのうち村を出ていってしまうのかと思うと寂しいけれど、外に出ていく可能性があるからこそ、今のうちにこの村で楽しい思い出をいっぱい作って欲しいわ。
「もーっ喧嘩はやめなよー。すぐ喧嘩するんだからー。
あ、あたし、二人が仲良くしますようにって書こう」
大人しそうな女の子が、プチリと新たに葉を千切る。
「げ! 冗談だろ! じゃあ俺は、そのお願いを無しにしてもらう!」
プチリ。
「ひどーい! じゃあそれを無しにしてもらうもん!」
プチリ。
「それも無し!」
プチリ。
延々と繰り広げられる「それ無し」合戦に、ぎっしり茂っていた木の葉が、次第に薄くなっていく。
少し離れた場所で、この様子を厳めしい顔ながらも微笑ましそうに眺めていたお父様が、帽子(カツラ)を抑えて微かに震えていた。




