夏1日 ミズキ 夏がきたきた夏がきた!!
昨日の若人の日……行きたかった。
「病み上がりだからダメ」ってリーンがさー!
村長の髪を引っこ抜くのは嫌だけど、みんなと交流したかったのになー。
だって二日も家に閉じこもってるんだよ!?
王子はみんなの輪の中にいないと、死んじゃうんだよ?(嘘だが)
ところで、先日私は風邪をひいた。
鳥インフルじゃなかった。コロネごめん、疑って。
体しんどくて「王子、ここに散る」って思ったけど、そう感じるくらい、私は今生きてるんだなあ。
実は時々、この世界の生活を夢じゃないかって思うことがあったんだけど、夢じゃない。生きてるんだ。
よしっ、頑張って生きよう!
「散る……王子散る……」
今日から暦の上では夏!
だけど実際はまだまだ涼しいね。
って言う心づもりでいたのに……。
森の木々からジーワジワジワ蝉の鳴き声が聞こえてくる。
昨日まで鳴いてなかったよね?
それに、昨日までこんなに暑くなかったよね?
いや、家に閉じこもってたからよくわからないけどさ。
舗装されてない地面には、なんか所々、一センチ強の妙な穴が開いてるし、遠くの地面には逃げ水が見える。
ちょっと、いきなり暑くなり過ぎじゃないか?
王子、夏はちょっと苦手でございます。
王子は爽やかじゃないといけないから。汗は王子の天敵なんだな。
あとさ、セーラー服。
私、セーラー服って似合わないんだよね。
なんていうか、上着の丈に対して、スカートが長すぎる感じがするんだよね。
ほら、足が長いから?(ふふーり)
お、ちょっと調子でてきたぞ。
いいよね、セーラー服。私以外が着る分には!
薄着の軽やかなお嬢さんたち! いいじゃないか!
生足半袖! 生足半袖!
村の広場まで来ると、お嬢さんたちに取り囲まれた。
長袖ロングスカートのお嬢さんたちに。
生足半袖はどこにいった!
しかも
「まあ、ミズキ様! そんなに肌を出して! 真っ黒になってしまいますわよ!」
って。
そうか、異世界に来ても日焼け対策からは逃れられないのか。紫外線め。
日焼け止めとかないのかなあ。
異世界人の先達は、日焼け止めは開発しなかったのか。
まあ私も、日焼け止めの作り方なんて知らないけどさ。
「日焼け止め? あるぞ」
コンビニに行ったら、日焼け止めが売っていた。
本当に何でも売ってるな!
「日焼け止めあるのに、なんでみんな長袖着てるんだ?」
ホセも長袖を着ている。
長袖というか、私が作った羽織だが。
気に入ってくれたようで何より。
こんど浴衣とかも作ってこようかね。
「こいつが出回って日が浅いからなあ。
夏は女は布で肌を覆うものって、固定観念みたいなのもあんだよ」
なんともったいない!
夏は身も心も開放的にするって言うじゃないか。
そんで、ひと夏のアバンチュールがミッドナイトでどうとか言うじゃないか。
アバンチュールってどういう意味だか知らないが。
アンチョビに似てるけど、たぶん無関係だとは思う。
女子校のクラスの子も、海に出逢いを探しに行ったりしてたみたいだし。
王子は……夏はあんまり出番ないものだからさ。
王子はそう、おでんみたいなものでさ、秋からが旬なんだよ。
「おでんはじめました」よろしく「王子はじめました」みたいな。
夏はかき氷と冷やし中華に譲るわ。
「で、どうすんだ? 買うのか、日焼け止め」
「うむ、ひとつもらおうかな」
私には、夏に長袖生活なんて無理そうだしな。
いっそ日焼け止めの効果をお嬢さんたちにアピールして、薄着ブームでも起こしてみるかな!
夏のファッションリーダーは私だ! みたいな感じで!
最近は夏でもおでん売ってるし、王子も夏だからって舞台裏に引っ込む必要はないよね!
ホセは、店の棚から手のひらサイズの丸い缶を取ってきた。
「ほらよ。使い方わかるか?」
「肌に直接塗るんじゃないのか?」
そうか、日焼け止めと言っても、向こうの世界と同じものとは限らないんだな。
ホセは私に断わると、缶の蓋を開けた。
中には白い粉が入っている。
「粉状なんだな」
「肌に塗る時は、これをのばして使うんだ。
のばした状態だと日持ちがしねーんだよ。
使う分だけ小皿にでも出して、毎回のばして使いな」
「ふむ、なるほど」
使いやすい日焼け止めは今後の課題だなあ。
日焼け止めの需要が増えれば開発もされるだろうし、これは頑張って普及しないとな!
「のばすのは、水でいいんだよね?」
「いや、大男の汗でのばすみたいだな」
…………How?
「ワンスモア……」
「大男の汗でのばせって書いてあるぞ」
ホセが缶の側面に書かれた取説を指さす。
mjd。
お・お・お・と・こ・の・あ・せ!
なんだそれ。なんかいきなりファンタジーだな。
蓬莱の玉の枝とか燕の子安貝とか、なんかそういう感じのものか!?
まさか本当に、ただの男の汗ってわけではないだろうし。
「それは……どこで手に入るんだ……?」
「どこって……その辺にあんだろ。
自警団にいきゃ、手に入んじゃねーか」
自警団……って、バトレイさんか!?
自警団のバトレイさんは筋肉ムキムキの大男だ。
うわあ……いかにも良い汗かいてそう。
その後お客さんが来てホセが忙しくなってしまったので、代金を払って雑貨屋を出てきた。
向かう先は自警団詰所。
何て言って汗貰おう。
「わあ! キラキラ煌めく良い汗ですね☆ ちょっともらってもいいですか?」
これかな。
ちょっと王子のキャラじゃないけど。
でも、人の汗を自分に塗るなんて、すごく嫌だ。
だからこの日焼け止め、普及してないんじゃないか?
しかし、長袖を着るもの嫌だし……。
「あれ? ミズキさんどうしたの?」
自警団詰所の前で躊躇っていたら、パトロールから帰ってきたらしいディオさんに声をかけられた。
シュシュさんも一緒だ。
「その……ちょっと汗をもらいに。バトレイさんの」
「え? 汗? バトレイの?」
なんかちょっと気まずい。
二人して微妙な表情してるし。
そういえば、シュシュさんってバトレイさんの恋人なんだっけ。
彼氏の汗が欲しいなんて言われたら、良い気はしないよね。
いや、どうなんだろ……彼氏じゃなくても、知人の汗を欲しがられたら、複雑……、いやそもそも、汗を欲しがる人がいる時点で微妙な気分なんじゃ。
い、言っとくけど! 貰いに来た私だって微妙な気分なんだからな!
「えっと……それはさ……、オレの汗じゃ、ダメなの?」
ディオさんが可哀想なものを見る目で、こちらを見てくる。
優しさが痛い……!
「ディオさんじゃちょっと。やっぱりバトレイさんじゃないと……」
ディオさんは大男って感じじゃないし。
「やっぱりバトの方がいいわよね!
さっすがミズキ! わかってるじゃない!」
シュシュさんは、なんだか得意げだ。
詰所の中はもわっとしていた。
部屋の風通しが悪いせいか、バトレイさんが部屋で筋トレしてるせいか。
アンシーさんは窓際に座って涼んでいる。
「おお、まかせろ」
汗が欲しいと頼むと、バトレイさんは二つ返事で快諾し、筋トレの勢いを上げた。
飛び散る汗! 煌めく汗!
汗は……汗は美しい……!(錯乱)
「そんなもの、何に使うの?」
この暑い中、涼しい表情で本を読んでいたアンシーさんが、顔も上げずに聞いてくる。
「そんなもの」って言われた。
う、うん……それが正しい。正しいよ!
私はちょっと自分を見失っていたようだ。
汗なんて、「そんなもの」だよ。
「日焼け止めをのばすのに使いたいんだ」
「日焼け止め? それ、もしかして山男の汗と間違えてない?」
あ、大男の汗じゃないのか。ホセの間違いかー。
びっくりしたなあ、もう。
でもやっぱり、山男の汗って、男の汗には変わりないのな!
「山男の汗っていうのはこれだよ。来て」
アンシーさんについて、詰所の裏に回る。
裏には、ツタを木の柵に巻きつけた、ゴツゴツした形の瓜がなっていた。
「この茎を切って、採集した汁が、山男の汗」
それって、つまり……へちま水みたいなものか!!
「すぐには取れないから、明日取りに来て」
というアンシーさんにお礼を言い、暑い室内で過度な運動を行い熱中症になりかけているバトレイさんを止めて、私は家に帰った。
夕方、仕事から戻ったリーンに、
「今日、ミズキちゃんが『大男の汗……大男の汗……』って
ブツブツ言いながら歩いてたって話聞いたけど、ミズキちゃん大丈夫?
バトさんに汗、貰ってこようか?」
と、可哀想なものを見る目で見られた。




