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春6日 リーン ミズキちゃんとえすえふ

いろいろあって、ミズキちゃんはわたしと一緒に住むことになりました。

最初はお化粧がすごくてちょっと驚いちゃったけど、ミズキちゃんは背も高くて格好良いし、受け答えもハキハキしていて、自分もつられてシャキッとしちゃいそうな人なの。

ユズさんはおっとりした人でそういうところは似てないんだけど、でもなんとなく、一緒にいて心地のいいところが似てる気がします。

これから仲良くやっていけるといいな。


でも……


「ミズキちゃんは、もとの世界に戻りたい?」


ユズさんはよく、「この世界は大好きだけれど、一日だけでももとの世界に戻りたい」と言っていました。

きっと若かった時は、もっともっと元の世界に戻りたくていろいろ戻る方法も探したんじゃないかなって思うから、ミズキちゃんもそうなのかもしれません。


「うーん……戻りたいかと聞かれれば、戻りたいよ」

「そっか……」


それはきっと当然だよね。

全然知らない場所に突然来たら、どうしたらいいかわからないし、すごく怖いもの。

わたしも、記憶を無くしてこの村に来た時すごく不安だったから、なんとなくわかります。

「でも、たぶんそれは無理だと思う。

 なんとなく思うんだけど、私はこの世界に呼ばれてやってきたというよりは、前の世界から弾かれたんだと思うんだ。

 前の世界に私の居場所はもうないんだと思う」

「……よくわかんない、けど」


ミズキちゃんは時々、わかりづらい言い回しをする気がします。

なんていうか、ノエルさんが時々読んでくれる古典みたいな。


ノエルさんっていうのは、この村で子どもたちに読み書き計算、それに歴史なんかを教えてくれている人です。


「えっと、つまりさ。私は前の世界では死んだんだと思うんだ」

「…………」


「死」という言葉は、ユズさんを思い出します。

わたしにとって一番身近な「死」はユズさんだし、それにユズさんも「元の世界で私はきっと死んだんだろうねえ」と言っていたから。


「未練がないわけじゃないけどさ。

 そんなわけだから、この世界で生きていくことに全力を尽くしたいんだよね」


そういってミズキちゃんは笑いました。

まだ、苦笑い。


「それじゃあ、わたしは、ミズキちゃんのこと全力でお手伝いするね」


記憶が戻らないまま三年がたって、新しい記憶、思い出が増えていって、そうしてようやくわたしは、もう記憶を取り戻したいとは思わなくなりました。

ミズキちゃんも、ここでの生活が充実すれば、苦笑いじゃなくて本当に笑えるのかもしれません。

「全力を尽くす」なんて、大変な覚悟じゃなくて、もっと気楽に日々が過ごせるように、早くなってほしいな。


「ねえリーン。私の方からも質問いいかな?」

「はい」

なんだろ……ついかしこまって癖の敬語になっちゃいます。

「リーンがご飯を買いに行ってくれた時、浮いてたよね」

「あ、うん。わたしは魔法使いなの」


ユズさんが言っていました。ユズさんの居た世界には魔法が無いんだって。

人が宙に浮かぶなんて、えすえふの世界らしいです。

「えすえふって何?」って聞いたら「スーパーファンタジーの略」だって言われたな。

「へー! やっぱ魔法なんだ! スーパーファンタジーだなあ!」

と、ミズキちゃんは目をキラキラさせてます。

ミズキちゃんもスーパーファンタジーって言った。やっぱりえすえふなんだ。

なんだか、ユズさんとミズキちゃんが同じこと言うとちょっと嬉しいかも。


「そうなの、えすえふなの」

「SF?」


だから調子に乗って使い慣れない言葉を使っちゃったんだけど、ミズキちゃんはきょとんとしました。

「いや、これはSFなんてものじゃないよ!」

と、拳を握るミズキちゃん。

「え、でもさっきスーパーファンタジーだって」

「もちろんスーパーファンタジーだけどさ! あっもしかして!

 リーン、SFがスーパーファンタジーの意味だと思ってる?」

「違うの?」

なんだろ……なんか恥ずかしい。

ミズキちゃんは「ははーん」としたり顔。

「いやー、これはね、間違えて覚える人多いからね、仕方ないね!」

ミズキちゃんはニヤニヤしています。

やだちょっと、ミズキちゃんキライかも。

「いいかねリーンくん、SFとは!」

「……えすえふとは?」

えすえふとかもうどうでもいいので。

恥ずかしいので、この話題、はやく終わってほしいです。


「SFとは! 『すこし不思議』の略なのですよ」


なぜか……本当になぜか、

ミズキちゃんの後ろに

「ドヤアァア!」という文字が見えた気がしました。

目の錯覚?

あ、これがもしかして、えすえふ(すこし不思議)ってやつなのかな。

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