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春28日 ディオ 妹による兄への無慈悲な疑惑

「お兄ちゃんって、ホモなのかな?」


麗らかな昼下がり。

ヴァニラが発した言葉に、ホセが盛大にむせた。


「なに!? なになに!? ホセなんか心当たりあるの!?」


咳き込んでいることにはお構いなしに、ヴァニラがホセに詰め寄る。


「ごほっ……あっ、あるわけねーだろ……」

「ほんとにー? あやしーなー」


咳き込みつつ否定するホセに、ヴァニラがじと目を向ける。

ちなみに、ヴァニラはサボり、オレは買い物で雑貨屋に来ている。


「そういえば前に、ホセが泊まりで仕入に行った時あったよね。

 あの時ロバートがさ、

 『明日ホセがいないと思うと眠れる気がしない。このまま起きとこうかな』って言ってたな」


それを聞いてヴァニラは同性愛を疑ってんのかな。


「え!? ホセなんだ!? てっきり相手はヒューさんかと……。

 お兄ちゃんとあたし、服の趣味も似てるから……」


違うのか。

いったい何があってそんな疑惑があがってるんだろう。



「だってさ、お兄ちゃんに彼女がいないって、変だと思わない?

 よりどりみどりのはずなのに」

「お前ってさ、自分の兄貴に対する評価高すぎねーか。

 そんなんだからブラコンって言われんだよ」

「ブラコンじゃないけど! でも、客観的に見てもそう思うでしょ!?」


まあ、確かに?

オレと仲が良い女の子にも何人か、本命はロバートって子はいるしなあ。

ヒューに比べて人前に出てることが多いから、アプローチもかけられ放題だろうし。


「結構告白とかされてるみたいなのにさー。

 あたしがお兄ちゃんと暮らし始めて五年になるのに、

 一度も彼女がいた気配ないんだよ!

 別に女の子が苦手って感じでもないのにだよ!

 これはもう……ねえ……」


最後、言葉を濁したけど、最初に思いっきり「ホモなのかな」って言ってたよね。

彼女がいた気配……ねえ。


「けどオレ、以前ロバートに恋人がいたって聞いたことあるよ」

「えっ本当に!? エア彼女!?」

「お前、兄貴の評価高いのか低いのか、どっちなんだよ」



オレは以前、一時都に住んでいて、その時オレはロバートの部屋に転がり込んでいた。

仕事も、ロバートが調理師見習いとして勤めていた店に、ウェイターとして採用してもらった。

その時点ですでにロバートに彼女はいなかったけど、常連のお客さんに、ロバートに以前恋人がいたって話を聞いたことがある。


「たしか軍属魔道師で、あれ何年前だっけ。

 八年前? の民族紛争の鎮圧に行って行方不明だって」

「行方不明ってことは、生きてるかもしれないのか?」

「いや、オレたちが都にいた時点で行方不明になって三年たってたからさ、

 見込はないんじゃないかな」


ロバートがその人のことを探していたのかも、待っていたのかも、オレは知らない。

なんとなく聞きにくくて、本人に聞いたことはないんだよね。


五年前、ロバートがこの村に戻って店を持つと言うので、オレも一緒に村に帰ってきた。

オレが都にいたのは三年。

ロバートは六、七年いたのかな。

オレたちのこれから先の一生を考えれば、ごく短い時間だけれど、今まで生きた年数の中では、決して短い期間じゃない。


「まあだからさ、ヴァニラが心配しているようなことは、無いんじゃないかな?」

「そっか……」


まあ、現時点で彼女がいないことには変わりないだろうけど。


「だいたいさ、彼女がいないってだけでホモだなんだって言ってたら、

 オレやホセだってホモってことになるじゃん」


そう指摘すると、ヴァニラは「へ?」と心底何を言われたかわからないという顔をした。


「二人は単に、モテないから彼女いないだけでしょ?」


ヴァニラの暴言に、沈黙するオレたち。

いや、ホセはともかく、オレはまあまあモテないわけじゃないような……。

そりゃ「本命はロバート、ディオはキープかな☆」とかって、面と向かって言われたりするけどさ……ハア……。


「お前……自分の兄貴の評価高すぎんのか、他に対する評価低すぎんのかどっちなんだよ……!」


ホセの疲れたようなツッコミを華麗に無視して、

「あ、そろそろ戻らないとお兄ちゃんに怒られるー」

と、ヴァニラはピョコピョコ軽い足取りで出て行った。



閉まったドアの向こうから

「お兄ちゃんが恋のライバルじゃなくて良かったー」

という声が聞こえた気がした。


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