春26日 ホセ 雑貨屋の一日
朝七時半、店を開けて一番最初にやってくる客は、だいたいロバートだ。
「おはよ……」
「うす」
ロバートの寝起きはあまりよくない。
起き抜けでボサボサのままうちに来る。
まあ、ロヴァ亭の裏口出てすぐのところにうちの店はあるからな。
人目につくこともそんなにねーだろーが。
「あー……ホセの顔見ると、朝が来たって感じするな」
「キモチ悪りーこと言うな。ほら、そこで寝んじゃねーよ」
ロバートは店に入ると、何も手に取らずにレジ横の椅子に座り、うつらうつらし始める。
「うん……」
「ほら、いつものでいいのか?」
「うん……いつもの……」
湯に浸して絞ったタオルをロバートの頭に乗せて、コーヒーを入れてやる。
ロバートはコーヒーを一口啜ると
「やっぱ、人に入れてもらうコーヒーはいいな」
と笑った。
「嫁もらえよ」
「そうだなあ」
「つーか、ヴァニラに入れてもらえばいいだろ」
「それは何か嫌だなあ」
コーヒーを飲み終わる頃にはロバートも覚醒する。
「今日って熟女の日じゃねーか?」
「そうなんだよなー……強めのやつもらおうかな」
「はいよ」
ロバートは、栄養ドリンクを買いに来る。
熟女の日はいつも以上に気合が必要らしく、強めのやつを所望だ。
「そう言えば、なんで『熟女の日』なんだ?
『紳士の日』と対になるなら『淑女の日』なんじゃねーの?」
と尋ねると、
「隙あらば人の尻を触ってくるような人たちを、おれは『淑女』とは思わないな」
と、ロバートは疲れた顔で笑い、店を出ていった。
今日も頑張れ。
朝八時、リーンが来る。
「ホセくんおはよう」
という、ただの朝の挨拶のために顔を出す。
だけど時々、飴を買っていくこともある。
仕事の移動中に食う用みたいだな。
「これください」
リーンがレジに持ってきたのは、棒付の飴。
「これはダメだ」
「どうして?」
「あぶねーだろーが。転んだら喉に刺さるかもしれねーぞ」
「そっか……。ん、他のにする」
聞き分けが良くてよろしい。
「それじゃあ行ってきます」
リーンは飲み込んでも大丈夫そうな小さい飴を買って、仕事に出かけて行った。
九時、近所の婆さんが来る。
十分後、婆さんが増える。
あ、分裂じゃねーぞ。別の婆さんが来たってことだ。
昼頃まで、入れ代わり立ち代わり爺婆どもが来る。
んで、昼になると一斉に店を出て行く。
毎日毎日、「ところで彼女はできたのかい?」だの、
「うちの孫(都会に住んでて俺とはまるで接点がない)はどうだい?」だの、
詮無いことを話すのはやめてくれ。
十四時過ぎ、昼ドラを見終わったミズキが来る。
ミズキの顔色で、その日の昼ドラの出来の良し悪しがわかる。
「アイス食べたいなあ」
椅子に座ったミズキが、脈絡もなく話し出す。
「あー、もうすぐ夏だからな。次の仕入れの時にでも仕入れてくるよ」
「ひょっ! アイスあるんだ!?」
こいつ最近ちょいちょい王子キャラが崩れるな。いいと思うけど。
「しかし、こうコンビニ的だと、スウェットが欲しくなるなあ」
コンビニっつーのは、ミズキの世界での雑貨屋みたいなものらしい。
「すえっとって何だ?」
こっちは初めて聞く単語だ。
「スウェットって言うのは……何だろうな。
部屋着の一種かな。寝巻きとしても使うんだけど。
前の世界では、よくスウェットにつっかけでコンビニに行くものだったんだよ」
寝巻きでうちに来るとか、お前はロバートか。
「お前にまで濡れタオルとコーヒー用意すんのは嫌だからな」
十五時、早めに仕事が終わったらしいリーンが、店に顔を出した。
軽く雑談をして、ミズキと一緒に帰っていく。
今日は村で大きな事件はなかったみてーだ。
平和でなにより。
十五時半、百ゼルずつ握り締めて、鍛冶屋の双子がくる。
焦ヒゲに小遣いもらったみてーだ。
クーはチョコ菓子を買っていく。
アッシュはスナック菓子を買っていく。
騎士団員のカードがおまけについた「騎士道チップス」は、もう卒業したらしい。
十六時、ヴァニラがサボりにくる。
益体のない話をしていく。
そして何も買わない。
別にいーけど。
「じゃ、そろそろもどろーっと。
あっそーだ!
水着買いに行きたいから、次の仕入れの時乗せてって!
絶対! 忘れないでよね!」
なんか買ってけ。
十六時時半、ジャンがくる。
「騎士道チップス」を買い、ここで開けていく。
何かがあって、今年騎士道カード集めが再燃したらしい。
何があったか聞いたはずだけど、忘れた。
十七時、エメリアさんを探しにルリがくる。
今日はお前の母さんきてねーぞ。
十七時半、仕事を終えた自警団のやつらがくる。
今日はロヴァ亭が熟女の日だから、酒類が飛ぶように売れる。
「ディオの家でみんなで飲もーよ!
アンシーなんかおつまみ作って!」
「鍋でいい?」
「ちょっ、またオレの家なの!?」
「ホセもどうだ?」
俺は今日はいーや。
十八時、店じまい。
おつかれさんっした。




