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春3日 ミズキ バック転したら異世界に着地した

どうやら異世界に来てしまったらしい。


私、大塚瑞貴十八歳。

女子高生で女子校生な、高校三年生であります。

演劇部所属、演じるのは主にヒーロー、中高一貫の女子校に降り立ったプリンス・ミズキとは私のことだ。

プリンセスじゃなくてプリンスな。王子様ですよ!

目が覚めたら、異世界にいました。

「王子、女子校の次は異世界に降り立つ」なんちゃって!

……うん、落ちつこう。

私もちょっと混乱してるんだよ。


私が異世界に来た理由はなんとなくわかる。

たぶん私、死んだか夢見てるかのどっちかだ。

演劇の練習中に調子に乗ってバック転したら、奈落に落ちちゃったんだよね。

いやだって、練習見学に来てたファンの子がさ、スマホ構えてシャッターチャンス狙ってたみたいだから、ついサービスしたくなっちゃったのよ。

格好よく決めるはずが、バック転のままボッシュートとは、とんだお笑いだが。


そんな感じで、私の高校生活は後ろ向きに全力ジャンプで終わってしまったらしい。



「……と、今後はこんな感じになると思いますが、大丈夫ですか?」

目の前の眼鏡のおっさんが今後の大まかなスケジュールについて説明してくれてる。

しかしこれ、本当に異世界なんだろうか。

演劇部脚本担当の子に聞いていた異世界転生話によくある、優遇対応があまりなさそうなんだけど。

だってこの説明によると、王都からの使者が来たら、私は当面の生活費だけ貰えて、あとは放り出されるってことでしょう?

あんまり手厚く保護されるのも煩わしそうだから嫌だけど、この世界のルールを教えてくれたりとかさあ……

うん、お金だけ渡されても生きていけるか不安だよ……。


「まあ急に言われても混乱しているでしょう。

 たぶん夜までには村長が来ると思うので、それまでゆっくりしていてください」


壁にかかった時計を見ると、四時あたりの位置を指している。

なぜか言葉は通じるし、時計も……文字はちょっと違うみたいだけど普通に読めそうだ。


「うーん……ちょっと散歩とかしてみてもいいですか?」


なんか、部屋にいても異世界にいるのかどうか今一つ実感がわかない。

そりゃ確かに、目の前のお医者さんもその娘さんも、「ハムは好きかしらー?」って聞いてきた奥さんも、それからたぶん野次馬?の二人組も、日本どころかうちの世界にはいないような髪色や瞳の色をしてるけどさ。

でもそんなの、ウィッグとかカラコンとかあるじゃん!

「王子、ドッキリ大作戦!吊り橋効果で恋愛成就!」とかかもしれないじゃん!

……まあ、ないだろうけど。


「散歩ですか……。ホセとリーン、ミズキさんに付き合ってくれるかな」

お医者さんの依頼に、女の子の方が頷く。

この子、さっき怯えさせちゃったんだよね。

金髪くるくるのウィッグ被って、宝塚ばりにメイクしてたの忘れて、至近距離に近寄っちゃったからなぁ。

あのメイク、遠目から見るようだから、近づくと怖いんだよね。

ドン引きされるならまだしも、怯えさせちゃうとは王子失格だ。

「俺もいーよ」

んで、怯えた結果この男子の後ろに隠れちゃったわけだが……。

この男子、真っ赤な髪にやや釣り目で、髪型のせいか姿勢のせいか、微妙にヤンキー臭を漂わせてくる。

ギザギザなハート臭いというよりは、盗んだバイクで走りだしそう。

この違い、わかるだろうか。

こいつよりは、いくら至近距離塚メイクでも、私の方が恐くないんじゃないだろうか。

まあ、恐いか恐くないかはともかくとして、王子度は私の方が上だよね。

こう、物腰とかね?

顔は、私は薄っぺらい顔にメイクで盛ってるだけだから、ナチュラルビューティ度では彼の方に軍配があがる。

とはいえ、彼はちょっと野性味のある精悍な顔立ちで、王子というよりは戦士寄り。というよりヤンキー。

よって、王子は私だ!

と、ついついイケメンを見ると王子の座に相応しいのはどちらか値踏みしてしまう癖を発動させていると、女の子の方に「いかないの?」と小首を傾げられた。

この娘は、なんかあざといね!

私は好きですよ、あざとい女子!

だって私もあざとく王子やってますから!


「えーと……リーンちゃんで、あってるよね。

 さっきは怖がらせてごめんね。私はミズキ、よろしくね」

「だいじょうぶ。よろしくお願いします」

リーンちゃんはペコリと頭を下げた。

「俺はホセ。よろしくな」

「よろしく」



外に出ると、木造の小作りで可愛い感じの家がぽつぽつと建っていた。

「ここはラスシャ村。だいたい三百人くらい住んでるんだ」

「ふむ」

ホセに村の解説をしてもらいつつ、村の周囲をめぐる。

見かけない顔が珍しいのか、時々話しかけてくる住民もいるが、ホセが「今忙しいんでまたな」と追い払ってくれた。

さらに、

「そういやお前……えっと、ミズキ? 腹減ってないか?」

と、私の腹具合まで聞いてきた。

野性味のある外見で一見粗野そうに見えると言うのに……

「きみ、甲斐甲斐しいな」

王子としては、エスコートされる立場というのは、なんというか落ちつかない。

「そうかー? 普通だろ。んで、腹は?」

「すいているとも」

部活後の高校生の空腹っぷりを舐めてもらっては困る。

「何か食うか。

 つっても、たぶん今日は村長のところでそれなりの飯がでるだろうし、軽くだな」

「わたし、ロバくんの所に行って、何か買ってくるよ」

そういうとリーンちゃんはふわりと浮きあがった。


もう一度言おう。

ふわりと浮きあがった。


地面に足がついてない! 物理的な意味で!

私もよく「地に足がついてない」と言われたものだけど!

死因も足がつくはずの地が無かったことによるものだけど!


これは……これは……間違いありません……!

異世界ですよ!!!

王子、異世界に降り立ちました!!!!!

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