春20日 ミズキ ○ヒゲ危機一髪
服作りで肩が凝ってきたので散歩に出ることにしたんだが、なんだか今日は人通りが少ない。
いつもならしばらく歩けば、女の子たちに話しかけられたりするんだけどな。
は!? もしかして、旬すぎた!? 王子の旬すぎた!?
まあたしかに。ここに来てから早二週間以上経つからね。
ま、いいや。コンビニでもいくかー。
「いらっしゃい。おー、ミズキいいところにきたな」
「やあやあ、旬が過ぎた王子が来ましたぞ」
コンビニ……つまり雑貨屋である。
実際この店、なんでもあるしね。
冷蔵庫っぽいものに入った栄養ドリンクを買って、レジの横に置かれた椅子に座る。
この椅子は別に飲食スペースってわけじゃなく、ここに座ってホセと雑談していく人が結構いるらしい。
「どうした? 元気ないな」
「いや、まあ。私はともかく、今日は妙に村中静かじゃないか?」
「ああ……ちょっと良くないことがあってな……」
ふむ。良くないことがあって、村中お通夜状態とな。
は! まさか、例えでもなんでもなくて、まさにお通夜!?
でも、この世界の人って寿命が長いって聞いたけど。やっぱ死ぬときは死ぬんだ!?
「……誰が亡くなったんだ?」
「は? いや、ちげーよ。ただ、妙な噂が流れたんだよ」
「また噂か!」
この村、噂に翻弄されすぎなんじゃないか!?
現実を大事にしようぜ! 王子はロマンを大事にするけど!
「なんでも、露出狂で女装趣味の幽霊が出たらしい。
普段は姿が見えなくて、影の状態で人に付きまとい、
鏡にだけその姿を映すんだってさ」
「へえ、それで鏡に映ったら、すかさず露出するのかい?」
「そうそう」
「ネタだろ?」
「俺もそう思う。リーンに聞いた話だから信憑性はいまいちなんだが」
ひどいな。気持ちはわかるが。
リーンは微妙に天然なところがあるからな。
「昨日、シュシュたちが変質者を捕まえたらしい。
ヘンリー・シツシャタイってやつでさ、毎年出る変態なんだよ」
変質者って異世界にもいるんだ。
ヘンリー・シツシャタイ。変質者で変態。リーが余るが。
名は体を表すということだろうか。
だとしたらこれ、名付け親が悪い。
「あと、双子たちが幽霊が出たって騒いでたんだと」
「ふーん、その二つに尾ひれやら何やらついたのかな」
でも、どんな尾ひれがつけば「女装」なんてキーワードがつくんだろ。
「まあ、真実はどうであれ、それで村の連中びびってるんだよ。
単純に幽霊が怖いやつ。
変質者な幽霊が恐いやつ。
怖くなくても、子どもがいる家は、露出狂は子どもの教育に良くないってんで、
子どもを家から出してないみたいだな」
ふーむ。まあたしかに、実態のある人間の変質者なら対処のしようもあるけど、幽霊の変態じゃ、注意しようがないもんなあ。
「俺んとこも無関係じゃなくてさ、聖水売ってくれって結構注文入ってんだよ」
「おおう」
RPGで聖水が売られているのを見るたびに、御利益的にどうなのかと思っていたけど、この世界でも聖水売ってるのか。
「聖水なんて冠婚葬祭の時くらいしか売れねーから、あんま在庫無くてさ。
今から町まで仕入に行こうと思ってたんだよ」
「おや、じゃあお邪魔してしまったね」
言ってくれればいいのに。あれ、でも「いいところにきた」って言ってなかったか?
「そんでさ、わりーんだけど、配達頼まれてくんねーかな。
焦ヒゲに湿布の配達頼まれてんだけど、町の教会まで行くとなると、
ちょっと鍛冶屋に行く時間ねーんだよ」
なるほど、そういうことか。
「了解した」
王子、(異世界での)初めてのおつかいだな。
ところでコゲヒゲって誰だ?
青ヒゲとか黒ヒゲの仲間っぽいけど大丈夫だよな?
「ああ、焦ヒゲっつーのは鍛冶屋のじーさんだよ。
場所わかるか? 自警団の詰所の近くだぞ」
「鍛冶屋か。まあ散歩がてらのんびり行ってみる。
詳しい場所はその辺の人に聞いてみるよ」
けれど、いざ鍛冶屋に向かってみれば、道中誰とも会うことが無かった。
そうだ、幽霊騒動でみんな引きこもってるんだった。
なんかこの人っ子一人で歩いていない村の状況の方が、ゴーストタウンっぽくて怖いんだけど。
鍛冶屋みつけられるかなー、と不安に思いつつ、自警団詰所の近くに来ると、モクモクと黒い煙を出している建物があった。
きっとこれだな。
そこに当たりをつけてドアをノックしてみる。
すると、すぐに中から「はーいっ」という声がして、双子の女の子の方が顔を出した。
「あっカイジンさんっ」
ん? 外人さん、か? 異世界人で、まあある意味外から来た人だから?
「こんにちは。えっと、クーリエちゃんだったよね?」
「はいですっクーですっ。
カイジンさんどうしたの? おじいちゃんに用事?」
「ああ……いや……」
なんだろう、「ガイジン」じゃなくて「カイジン」って言ってるような気がする。
カイジンって……怪人?
あ、ああ!
「異世界人」→「イセカイジン」→「イセ・カイジン」でカイジン?
伊勢怪人。
…………。
「フハハハハハハ! 私に会いたくば、東海道を膝栗毛って来るがよい!!」
とか言えばいいのかな?
「えっと、じゃあじゃあっ……カイジンさんの狙いも、ヒュー兄……?」
とか考えてたら、クーリエちゃんにじと目で見られてるし!
「そいつ、兄貴に近づく女には攻撃的だから気をつけた方がいーよ」
奥からクーリエちゃんの双子の男の子が出てきた。
たしかアシュレイくんだったね。
「ああ、いや、私は、コゲヒゲさん? に用事なんだ。
ホセに頼まれて、湿布を届けに来たんだよ」
たしか、コゲヒゲさん? は鍛冶屋のお爺さんだとホセは言ってたな。
たしかこの二人も鍛冶屋の子だったはずだし、預けて帰ってもいいのかな。
「何で疑問形なんだよ」
「いや、コゲヒゲさんって異世界人の感覚からすると、変わったお名前だと思ってさ」
「ああ、それ名前じゃなくてあだ名だから。
じいちゃんに会ってくといいよ。入って」
アシュレイくんに促されて鍛冶屋の中へ。
クーリエちゃんも「ヒュー兄狙いじゃないなら許可するですっ」と、私の手をひいて中に入れてくれた。
見た目よりやや幼い言動がちょっと可愛い。
それにしてもこの鍛冶屋……
鍛冶屋というより美容院みたいな匂いがするな。
いや、鍛冶屋の匂いなんて知らないけど。
奥に行くと作業場があって、ヒューさんと老人が作業をしていた。
「ちょっと作業が一段落するまで待ってて」
と、アシュレイくんが言うので、お言葉に甘えて見学させてもらう。
鍛冶場なんて初めて来た。勉強になるなあ。
演劇人間としては、本職の動作からは学ぶものが多い。
まあ、今後演劇に携わる機会があるかはわからないけどさ。
と、ちょっとしんみり気分でいたら、美容院の匂いが一層強くなって鼻をついた。
美容院の匂い?
違うこれ、髪が焦げたときの匂いだ!!
見ると、お爺さんのもっしゃり生えた髭がチリチリ煙を出している。
が、双子はおろか本人さえも、髭が燃えていることを気にしてない様子だ!
私がひとりおろおろしていると、アシュレイくんが「いつものことだよ」とクールにおっしゃった。
「焦ヒゲか……」
これもまた、名は体を表すってことだろうか。
いや違うな。
これは単に、体から名付けた、ただのあだ名だな。だなだな。




