食べ物の恨みは怖いんだぞ。【後編】
なんというか、思った以上に冷静になった。
「な、なんだテメェ!」
唾をまき散らして騒ぐハゲの男を前にランゼブは頭の後ろを掻きながら、ちらりと足下の少女へと向ける。
小麦色の肌に頭頂部で怯えのためかペタリと垂れる三角の獣耳。1枚の布に頭を通して腰あたりを紐で縛っただけのみすぼらしい服。
「ったく。こんなガキを犯すぐらいなら金払って娼館に行ったほうが色々と楽しめる気がするけどな。」
確かに年の割には出るとこは出ている。だが、臭うのだ。何日も水浴びすらしていないのだろう。獣臭いし、酸っぱい臭いもする。
「クソがッ!俺達が誰かが分かってやってんのか?」
蹴られた場所が悪かったのか、鼻血を垂らした男が唾をまき散らすように叫ぶ。
「俺達はフリークマン商会の用心棒だぞ!アァン?」
「用心棒だか何だか知らねぇが、お前達はやっちゃぁいけねぇことをしたんだ。」
トントンと爪先立ちでジャンプしながら拳を肩の辺りまで上げて構える。
「ひとーつ、大の男が何人もでガキを追いかけて下劣な行為に及ぼうとしたこと。」
手に持った紙袋を空に向けて投げて男達に向かって一気に踏み込んで接近、一番近くにいた男の顎を掠るような右フック。ただのパンチだと男がランゼブを捕まえようと手を伸ばすが、膝から崩れ落ちるようにして地面に倒れる。
「ふたーつ、お前達の所為でおっちゃんからもらった焼き鳥が砂まみれだ。」
突然の事に狼狽えたままで動けない残り二人の男。その内右側の男に向けて更に踏み込んで懐へと侵入、男は仰け反りながら腰の鞘からナイフを抜こうとするが、柄頭をそっと押さえるだけで抜くことが出来なくなる。
ナイフを押さえていない逆の手で顔面を掴んで足払い。身体が宙に浮いたと同時に顔面を掴む手に力を込めて地面へと叩き付ける。
「みーっつ、オレが貴様ら赦せない。その二人を連れてさっさと消えろ。」
宙を舞っていた袋から砂まみれの焼き串をとりだして気絶する男達の口へと突っ込んで残った一人へと投げ捨てる。
「さて、ガキ───って、気絶してんのかよクソったれが。けどまあ、こんなとこに置いたままには出来ねぇよな。」
面倒だと愚痴を零しながらランゼブを少女を背負ってその場を後にした。