あの娘は剣聖様・後編
「ボクはね。常々思うんだよ。可愛い女の子が可愛い服を着る。ということは、可愛い子なら可愛い服を着ていいってことじゃない?」
上目遣いで「でしょ?」と告げるその様子は保護欲を擽るような美少女。
「そんな屁理屈を捏ねて…せっかくいい事を教えてあげようと思いましたのに。」
その悲壮感に満ちた顔は何度言っても聞かないことへの諦めが出たものであろう。
「いい事、なになに?なんのことだい!?」
詰め寄ってくる時に香る甘いミルクのような香り。午前からずっと魔物狩りで汗をかいているはずの体から、何故そんな匂いを漂わせるのか。
女である自分もいろいろと気を使ってこまめに汗は拭いているが、臭い。それなのに前線で暴れ回っているこの子はそんなものを少しも感じさせない。
「ねー!ねー!教えてへぶっ!?と、突然なにさ!?」
「あ、すいません。つい。」
「つい!?ボクってばつい何かで突然叩かれたの!?」
「五月蝿いですね。ほら、これですよ。」
渡されたのはくるくるに丸められた小さな紙。暗号化されているが、軍の人間ならば誰でも読めるようなもの。
「えっと、帝都にて彼の姿あり。闘技祭への参加が目的と思われる。」
それを読んでからのやり取りは刹那の間に行われた。
「つ、強くなったね。さっちゃん。」
「ええ、剣聖様のおかげです。」
走り出そうとした体勢で固まる剣聖と服の首周りを掴んだ状態の女騎士。ボクは剣聖だよ?君より上の階級の人間なんだよ?という彼の顔面にぶ厚い羊皮紙の束を叩き付ける。
「まだここでの討伐任務がこれだけ残っています。これが終わるまで勝手に何処かに行けると思ってなんていませんよね?」
纏うオーラは悪鬼の類。剣聖と言えどそのオーラの前では涙目で頷く事しか出来なかった。