あの娘は剣聖様・前編
話が長くなりそうなので前編、後編で分けさせていただきます。
数多の魔物達の亡骸が高く積まれ、全てが綺麗な断面でバラバラになっている。
そんな亡骸の山を旋回するように降りてきたのは真っ白の体をした鷹。その鷹はせっせと魔物を解体する兵士の中の一人の方へと止まる。
「えっと、なにかしら。聖女様からのお手紙……ねぇ、剣聖様は今何処にいるのかしら?」
白い鷹の脚に付けられた手紙を読んでその女騎士は近くの兵士へと訊く。
「朝食がすんでから確か、北の山に行ってみるとか言っていたような……。」
それを聞いた女騎士はヒクヒクと頬を引き攣らせ、額に青筋を浮かべながら首にかけている何かを取り出す。
「一応訊くわよ。何で止めなかったのかしら?」
「何でって言われると、あんなうるうるした目で頼まれちゃ断れないですへぶっ!?」
何の躊躇もなくその兵士の頬に平手打ちを食らわせると、北の山を向きながら首にかけていた紐の先についている笛に思い切り息を吹き込む。普通の人には聞き取れ無い。所謂高周波、超音波と言われるその音は山の頂にいる剣聖へと届く。
「本当にどいつもこいつも剣聖様に甘すぎるのよ。で、何か言い訳はありますか?剣聖様。」
いつの間にいたのだろうか。膝上十センチ以上まで上げられた短いスカートを履き、袖口にフリルが着いた愛らしい服装をした少女。
金色のツインテールを揺らしながら人差し指を女騎士に向けて腰に手を当てウインクしてポーズ。
「えへへ、そんなに怒ってたら皺が増えちゃうぞ!ぷんぷん!はぶっ」
「言い訳はそれでよろしいのでしょうか?いつもいっていますよね。勝手にふらふらとしないでくださいと。」
顎を鷲掴みにされて頬を潰された少女。愛らしい顔は変顔に変わっており、あぅあぅと情けない声が桃色の唇からもれている。
「それに何なんですか!剣聖様ともあろう人がこの格好とはどういうことですか!」
ここは魔物が蔓延る魔境の1つ。それも一匹一匹が小隊を組み、綿密に作戦を組んで倒すような力を持つ。
「どうっ、かわいいでしょ?」
スカートの端を摘みながら一回転。スカートから見える白く艶のある肉付きのいい足。剣聖と呼ばれているが、筋肉に凝り固まった足ではない。
兵士達はその姿におおっと声をあげるが、キッと女騎士に睨み付けられて目を逸らす。
「ハァ、剣聖様はお強いですからこれしきの魔物では驚異にならないのは分かります。それで軽装なのは納得しました。で・す・が!これだけは納得出来ません!」
唇に人差し指を当てて可愛らしく小首を傾げる剣聖に迫る。
「剣聖様!王より戴いた鎧を何故捨てたんですか!!」