某国の聖女
人の二倍程の大きさの女神像の前に跪いて祈りを捧げる一人の女性。
窓から射し込む光も相まってその姿はまるで一枚の絵画のような幻想的な風景を醸し出す。
ギィとあけられた扉から姿を見せたのは真っ白の甲冑に身を包んだ青年。赤い絨毯の上を歩いて女性の傍まで寄ると片膝を地面に着いて頭を垂れる。
「見つかったのですね。」
「はっ!ここから南西に約二十キロール程のグリオス村で見たと言う情報が入りました。」
そっと立ち上がり、自己主張の激しい双丘から引き出したのは傷だらけの十字架。それを愛おしそうに何度か指先で撫でると青年へと向き直る。
「どこに向かっているか分かりますか?」
「向かっている方角からして、恐らく帝都に向かっているかと思われます。」
「帝都ですか・・・。確か、帝都から闘技祭へと招待状が来ていましたよね?」
「はい。」
少し考える様に桃色の唇に人差し指を当てながら唸ると、パンっと手の平を合わせて微笑む。
「やっぱり、国同士の友好の為に交流は親密にするべきですよね?それに闘技祭では怪我人も出るでしょうし、私が行けば万事解決ですね!」
自分で自分に言い聞かせるように言う女性に青年が異議を唱える。
「貴女様が行かずとも闘技祭の怪我人ぐらいは下級神官で十分では?」
それに前回行かれた時は貴族に言い寄られてもう絶対に行かないと言っていたではありませんか。と言うと、それを思い出したのか露骨に顔を顰めて悩み始める。
「仕方ありません。前回警告は致しましたし、もうないでしょう。もし、またあのようなことがあれば斬り捨てて構いません。」
名案だと言わんばかりに目を輝かせる女性に青年は聞こえないように小さく溜息を吐く。
「手足の一本や二本なら繋げれますし、牽制にもなるでしょう。さて、なら早速向かうとしましょう!早く行かないとまた逃げられていまいますからね。」
「では、正門前に馬車を回すよう指示しておきます。」
「ふふっ、いつもありがとう。」
「いえ、聖女様の為とあらばいかなることでも苦痛には感じません。」