7話 夜戦
夜も深まり辺りはすっかり暗くなってしまった。 馬車を持ってる人は馬車の中に入り、持ってない人は膝を抱えて小さくなり、魔物に見つかりにくそうな格好をしていた。
そのなかでただ一人、火を絶やさないために火の番をしているロナがいた。
「さすがに眠いですね……」
小さくあくびを漏らして目を擦る。 その横でラナがスヤスヤ寝ている。
交代で火の番をしているが、暇でしょうがない。
ただ火を見て、たまに薪を入れるだけのつまらない作業で眠気がすごい勢いで襲ってくる。
昔、学校の苦手教科を受けてる時に襲ってくる眠気に似てる気がする。
そんなつまらないことを考えながら、火に薪を入れるとどこかから狼の遠吠えが聞こえた。
「んんー、けっこう近いですね」
薪をくべる。 狼の遠吠えがまた聞こえた。
「……また薪を入れたら、遠吠えが聞こえるのですかね……」
奇妙なワクワク感を持ちながら薪をくべる。
「魔物だー!!」
一人の男性が怯えた声である一点を指差す。
その声でラナが目を擦りながら起き上がり、男性が指差す方を見た。
「……暗くてよく見えないよぉ。 お姉ちゃん見える?」
魔物と遭遇しても呑気なものどうかと思うが、さっきまで寝ていたし仕方ないと多目に見る。
「狼の魔物ですね。 今確認できるだけでも六体います。 おおかた、どこかの馬車に食べ物が入ってたのでしょう」
寝ぼけた声で「そっか」と返事して、手をポーチに入れてなにかを探している。
「ラナはそこにいてください。 絶対に手を出してはいけませんよ」
「寝ぼけててもお姉ちゃんの助けはできるよ?」
「絶対に、手を出してはいけません」
「絶対」にを強調しても、しぶるラナにもう一度釘を刺してローブを脱ぎ駆け出す。
ロナだけが動けると思っていたが、ロナの後ろに武装した男たちも一緒に魔物に向かって駆けていた。
どうやら、前にあった事件をきっかけに護衛を雇った商人がいるようだ。
「傭兵にはいい仕事ですね」と心の中で呟き加速すると、後ろにいる傭兵を置き去りしする。
魔物も吠えると、散々に散ってロナたちに襲い掛かる。
一体がロナに向かって飛びかかってくるのを地面を滑ってかわす。
やり過ごしたあと、即座に踏ん張り地面を蹴って抜刀し斬りかかる。
完全に隙をついた、と思ったが前脚を軸にくるっと回りかわされてしまった。
「器用なことで」
苦笑いとともに呟き、辺りを見る。 男たちもそれぞれ一体の魔物と交戦してるが、ロナと同じような状態だった。
さて、どうしたものか……。
無闇に接近して、もし押し倒されたら間違いなく死ぬ。 かと言って、距離を取ると仕掛けることもできない上にあの異様に伸びた尻尾が気になる。
おそらく、ムチのように使うと思うがどれ程自由に扱えるのか想像もできない。
とりあえずは後手にまわりますか。
魔物の一つ一つの行動に注目して、いつでも身体を動かせるように踵をあげる。
魔物は前脚を使って勢いよく回ると、長い尻尾が襲ってきた。
剣を盾にして防いだが、長い尻尾が剣に巻き付きロナのお腹を打つ。
短い悲鳴が口から漏れ出す。
「お姉ちゃん!」
遠くからロナを見ていたラナが声を上げた。
急いでポーチから折り畳まれた羊皮紙とペンと取り出して、絵を描いて手をかざす。
手のひらと羊皮紙の間に青白い光が灯ると、地面が盛り上がり狐のような顔と前脚が出てきた。
前脚を地面に付けて、身体を地中から引っ張り出すと器用に二本脚で立った。
一見すると狐のようだが、毛並みは白く尻尾にゴツゴツした大きなコブが付いていた。
「お姉ちゃんを助けて!」