5話 値切り
「おいしかったね」
お腹いっぱい食事をしたうえに、デザートまでありつけたのでうきうき気分で食事処を出た。
「ヤギの肉が有名とのことでしたが、有名なだけにおいしかったですね」
「独特のにおいはあったけど、柔らかくておいしかったぁー」
お腹いっぱい食べたはずなのに、ヨダレをたらすラナに注意するとローブの袖でヨダレを拭き取った。
「明日はいつ出かけるの?」
「今日みたいに早く起きる必要はないですよ。 馬を借りるので」
「えっ! 馬借りるの!?」
目を見開いてラナは驚いた。
日中しか行動することができないこの世界において、馬は貴重な移動手段とされ旅人に重宝されている。 ロナたちも出張がある度に馬を借りるが、これがとても高いのだ。
いま借りている部屋の2倍ぐらいの値段なのだ。
借りる度にロナたちも、そろそろ馬を買おうと思っているが仕事の関係で、飼育する時間が取れなく断念している。
「幸いなことに支給金をもらってますので、少しぐらい贅沢してもいいでしょう」
「だったら、今日も馬でよかったじゃん」
「これから何が起こるか分かりませんから、節約できるところは節約していきましょう」
「なので、明日は頼みましたよ」
ポンとラナの背中を叩いて、逃げるように宿に戻った。
翌日、朝一番にチェックアウトすると、受付の老人からクッキーの入った小包を渡してくれた。
「趣味で作っているが、作りすぎてしまった」と、恥ずかしそうに頭をかきながら言った。
クッキーはどれも可愛い動物のものばかりでラナは、とても喜んでいた。
改めて、お礼を言った後、宿を出て馬を借してくれる店に来た。
店の入り口に立つとラナが、恥ずかしそうに口を開いた。
「お姉ちゃん、本当にやるの……?」
ニッコリ笑って親指を立て、「やること」を身体で表現した。
それを見たラナは意を決したように、大きく深呼吸してローブから身体が出てないことを確かめると扉を開けた。
店内は馬小屋を大きく取るため、受付するだけのスペースしかない小じんまりしていた。
ロナは入り口に付近で止まり、ラナを一人で行かせた。
「あ、あの……、馬を二頭借りたいんですが……」
「二頭ね……、一万ペルだ」
ハゲたお兄さんが料金表を見て、読み上げた。
ラナが泣きそうな顔になりながらも、顔を赤めてロナを見た。 ロナは「さらけ出せ!」とジェスチャーし、小声で「値切ってください」と言った。
困惑しながらも「もうどうにでもなれ!」と、若干ヤケクソになりながらも、ローブを脱いだ。
ローブの下は、丈の短いスボンとおへそ丸出しで袖無しのシャツを着ていた。
ハゲたお兄さんは、真っ先におっぱいを見てからラナの全身をして生唾を飲んだ。
ロナは、真っ先におっぱいを見たあのハゲに舌打ちをした。 今すぐあのハゲの頭皮を剥ぎたい衝動に駆られたが、値切りることが優先と心を落ち着かせた。
「す、少しマケてくれないですかね……」
耳まで真っ赤にして値切りが始まった。
ハゲは、長いこと悩みながらもチラチラとラナのおっぱいを見ていた。
「お前の血で髪の毛、書いてやりましょうか……?」
声には出さず、ロナは怒りに震えた。
しかし、おっぱいを見るそうに仕向けたのはロナである。 ラナの大きくてムカつくおっぱいを、更に効果的に見せるために、ラナには薄いシャツを着てもらっている。 つまり、下着がうっすらと透けて見えるのだ。
完全に見せるのではなく、さりげなく見せる。 これが色仕掛けの基本だ。
「ど、どうですかね……?」
「はっ!? あっ、ご、五千ペルで、いいよ……」
ハゲた頭皮まで真っ赤にして言った。
馬一頭の料金で、馬を二頭も借りることに成功したがロナは少し不愉快な気持ちになった。