4話 夕飯まで
「それでは、ごゆっくり」
老人が部屋のドアを閉めて去っていく。
部屋の中は最低限の生活ができるぐらいの家具だけが置かれた質素なものだった。
さっそく二人はローブを脱ぎハンガーにかけた。
「お姉ちゃん、おやつ! おやつ食べに行こ!」
もう我慢が出来ないといった風に、ロナの腕をつかみブンブン振っている。
肩が外れそうなほど振り回されて、少し苦痛の表情を浮かべるが、なんとか笑顔を作った。
「おやつは無しです。 もうすぐ夕飯の時間になりますので、食後のデザートとしていただきましょう」
「夕飯っていっても、まだ2時間ぐらい時間あるじゃん! そんなに我慢できないよ!」
子供のように文句を垂れるラナをなだめながら、机を指差す。
「ニ、三個ならあのお饅頭食べてもいいので、夕飯まで我慢してください」
すぐさま机に飛びついて饅頭を頬張る。 幸せそうに顔を歪ませ、楽しそうにお茶を用意してまた頬張る。 足をばたつかせ饅頭の甘さを身体で表現している。
下の部屋の人には、迷惑になっているだろう。
ロナは心の中で謝罪した。
「お姉ちゃんはこれからどうするの?」
一個目の饅頭を食べ終え、二個目の饅頭の包装を剥がしながら尋ねた。
「汗もかいたことですし、シャワーを浴びたいですね」
「あっ! 私も入る!」
饅頭を一息に口に入れ、お茶で流し込んだ。
「まさか、一緒に入るつもりです……」
「そのまさか! 背中流すついでに、おっぱい大きくしてあげよっか?」
いやらしい笑みを浮かべて手をわきわきと動かすラナを一瞥して、ロナは足元を見た。
しっかり、くっきり、何にも邪魔されずに床が見える。 黒っぽい木でできた床が見える。 視線を床からラナの胸に移す。 動きやすく旅に適したダボついた服を着ているのに、胸の膨らみを確認できる。
たかが脂肪、されど脂肪、夢の脂肪。 しかしロナの胸にはその脂肪がなかった。 柔らかい二つの山々は、すでに平地になっていた。
昔は、まだ胸の膨らみはあった。 ラナほどではないが確かにあったのだ。 しかし、これから大切に育てようとした矢先に
行路師としての仕事が多く入るようになった。 いろんな町で道を作っていくうちに、仕事の効率や出来が評判になり出張を頻繁に繰り返すうちに胸の山は、どんどん削られ平地となった。
歩くだけでも脂肪は燃焼され、さらに剣も振り回すので脂肪はあっという間に筋肉となってしまった。
「一人で入ります!」
バスタオルをひっ掴むと、不機嫌そうにシャワー室に入っていった。
シャワーを流している音が、部屋に広がるのをいいことにくつくつと笑う。
「お姉ちゃんのスレンダーな身体を見るためなら、私は何でもしちゃうよーっと」
その場で服を脱ぎ捨てて素っ裸になると、うきうき気分でシャワー室のドアに手をかけようとしたら、カラカラと少しだけドアが開いた。
ドア向こう先には、髪を濡らしたロナが目だけを覗かしまるでオバケのように見えた。
「入るな」
これだけを言い残して、ピシャリとドアを閉めた。
ラナはすぐさま服を着て、ベットに腰かけた。
「あの声色は本気だったなぁ……」
姉の逆鱗に触れてしまったことを反省しながら、夕飯の時間まで大人しく待った。
この時、妹のおっぱいに嫉妬してたことを当時のラナは知るよしもなかった。