表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/32

最終話 ロナとラナ

 魔物との戦闘は朝方まで続いた。 双方傷つき倒れる者も多かったが、お日様が顔を出すと魔物は帰っていった。


 「終わった……。 勝ったぞ、勝ったぞおおおおおおおおお!!」


 人間は拳を天に上げ喜びを表していた。

 

 「終わりましたね」

 「そうですね、良く生きていられたと思いますよ」


 ロナは自分の身体を見た。 返り血で分かりにくいが、所々から血が出ている。 深い傷には服を破って止血をしているが、これでよく動けたと我ながら驚く。

 そんなボロボロの身体でロナはラナのいる北東の門に行こうとしていた。 ヴァンスは慌ててロナの前に出て止めた。


 「ちょ、そんな身体でどこに行こうとしているんですか!?」

 「ラナのところに決まっているでしょ。 どいてください」

 「どきません! 傷だらけじゃないですか、倒れますよ!」

 「大丈夫です。 怪我には慣れてますから」

 

 ロナはヴァンスを押し退けてラナのいるところに向かう。

 足がもつれ今にも転びそうになりながら、それでも前に前に進もうと足を動かす。

 

 「あぁもう、分かりましたよ!」


 ヴァンスは後ろからロナをお姫様抱っこしてやった。 途端にロナの顔が赤くなる。


 「な、なにしてるんですか!」

 「運んであげますから暴れないでください」

 「い、いやでもヴァンスさんもひどい怪我してるじゃないですか!」

 「俺は男なのでこれぐらいヨユーです! だから暴れないでください!」

 

 それでもなお暴れ続けるロナを落とさないように必死に抱えていると、微かに女性の声が聞こえてきた。 声のする方向に目を凝らすと、手を振って走ってくるラナだった。

 ヴァンスはロナを降ろすと、ヨタヨタと見てる方がハラハラする足取りでラナに向かって歩き出した。


 「お姉ちゃん!!」

 「ラナ!!」


 二人はがっしりと抱き合うと涙を流した。


 「お姉ちゃん、すごい怪我。 お姉ちゃんも女性なんだから、変に傷つけたら、もったいないよぉ」

 「今更何を……、ラナは怪我ない? 大丈夫?」 

 「うん……」


 両手を広げて傷一つない身体をロナに見せた。 魔物との闘いでは終始空からの遠距離攻撃だけで、魔物からの攻撃など当たるよしもなかった。


 「二人の再開も程々にしてロナさんを医者に見せましょう」


 遠くから見守っていたヴァンスは再びロナを抱きかかえ、フェリスの町に入っていった。




 「ごくろうだったな」

 「お前さんもその小さい身体で良くやったと感心するばかりだ」


 魔物も死体がごろごろ転がっている北東の門の前で一匹の狗と竜が隣に並ぶように座っていた。 ラナは魔物がひいていくと、元の姿に戻るのを待たずにロナに会いに行ってしまった。

 置いてきぼりをくらったクリムは大人しく古くからの友人のそばに座っていた。 二人はしばらく何も話さず、じっと座っていた。

 久しぶりにこうやって二人でいることに戸惑っていた。 何を話していいのかお互いに詮索していると狗が顔をかきながら切り出した。


 「あぁ……、お前さんはこれからどうする?」

 「そうだな……」

 

 クリムは空を仰いだ。


 「もしよかったら、儂と世界を旅せんか?」

 「旅か……」

 「今も各地を巡っているが、いいぞ! いろんなうまいものも食えたり、その地の歴史に直に触れることができる! それに……、そろそろ旅の友が欲しくてな。 どうだろう?」

 

 クリムは翼をはためかせ狗の正面に座り頭を下げた。


 「うれしい申し出だが、断らせていただく。 今はあの娘といると楽しいのだ。 それに私の教え子だ、最後まで面倒を見るのが教える者の義務と言うものだ」

 「そうか……、ふられてしまったのなら致し方ない」

 「悪いな」

 「なに気にするな」

 

 狗は立ち上がり魔物に差していた剣を引き抜いた。


 「それでは儂は行くわ。 この剣もらっていくと、ラナ殿に言っておいてくれ」

 「あぁ、分かった」

 「では達者でな」


 ぐっと屈むとすさまじい跳躍力を見せてどこかに跳んで行ってしまった。 クリムは狗が跳んでいった方をいつまでも眺めていた。


 

 

 そして数日かけて無数の魔物の死体を供養した。 これでやっと中継ポイントを作ることができると喜んでいたメルクだが、そうはいかないのが世の常。

 あの闘いで生態系が大きく崩れたのは明確である。 そのため周辺の調査からすべてやり直し……。


 「お姉ちゃん、休んでてもいいんだよ?」

 「これぐらいヨユーです。 プロですから」


 今日もロナとラナは人のため安全な道を作りにフェリスの町を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ