29話 開戦1
三日後という日はすぐに訪れた。 もうすでにお日様は沈みかけていた。
「それでは私たちも行きましょうか、ヴァンスさん」
「はい!」
「それからラナ、死なないでね」
「うん、お姉ちゃんもね」
ロナとヴァンスは北西の門に向かい、ラナとバッグに入ってるクリムは北東の門に向かった。
「そういえばさクリム、狗の名前って何?」
「名前はないな。 私たちは種族を名として呼んでいる」
「ふぅん、じゃあ私が付けてもいいかな?」
「変な名前にしなければいいと思うが……どうしてまた?」
「名前あった方が呼びやすいじゃん! うぅん、どうしよう。 ポチでいいっか」
一瞬だけ考える仕草をしたが、一般的に人が犬につける名前にした。 クリムもくつくつと笑っている。
「君のそういうところはいいな。 あいつも別のにしろと言うぞ」
「そうかな? 意外に気に入るんじゃない」
「ないと思うぞ……。 それより急いだ方がいい。 ポチはすでに人間の前に出たぞ」
お日様の位置を確認すると半分は隠れていた。 ラナは走るスピードを上げて北東の門に行った。
北東の門にはまだ魔物は姿を現さず、兵たちも眠そうにしていた。
ラナは手をメガホンのようにして叫んだ。
「みなさーん!! 北西に強そうな魔物が現れたから、そっちの応援に行ってー!!」
眠そうにしていた兵は一気に目を覚ますと、数名は応援に向かった。
「お前たちも行けよー!!」
「い、いやしかし、ここの守りが……」
「私がいるから大丈夫!! それに私の知人にも応援頼んどいたから大丈夫!!」
「だが……」
「同じ町の仲間でしょ! 助けに行ってよ!!」
「っ! わかりました、ここは任せます!」
残っていた兵も北西に急いで向かった。
「クリム出てきていいよ」
バッグからもそもそと出てき、伸びをした。 そして何も入ってないバッグをその場に捨てて、ラナは竜の姿になった。
その後にポチが跳んできた。
「ほぉ、本当に竜の魔力そのものですな」
ラナの姿を見て感嘆の言葉を漏らした。 どうやら話だけでは人間が竜の魔力を持っていることを信じられなかったようだ。
「よろしくね、ポチ」
「ポチ」と呼ばれ目を丸くしたが、声を上げて笑った。
「これは素敵な名をもらったものだ。 こちらこそよろしくラナ殿。 さて向こうもお出ましですな」
門の正面にはこの町に入る時に襲ってきた狼の魔物と尻尾が二股に分かれている大猿魔物が走ってきていた。 数はそれぞれ二十体ほどの大きな群れだった。
「ラナ殿、一つ忠告しておきます。 決して儂の周りには来ないでください。 巻き込まれますゆえ。 では!」
ポチは名前に似つかわしくないほどの咆哮をあげると、単身であの群れに跳ぶように突っ込んでいった。 腕を大きく振り回して先頭にいた魔物を一気に蹴散らすと、群れの中心に躍り出て暴れるように薙ぎ払っていった。
拳の衝撃で昏睡するもの、その衝撃に耐え切れず身体の一部が飛ばされたもの様々いた。 そのたびにポチの毛並みは血に染まっていった。
「私たちも行こうか」
「ちょっと待って」
ラナは地面を指差すと地面から尻尾にコブの付いた狐を五対ほど出し、魔法で線を引いた。
「この線を超えた魔物は倒して」
「キュ!」と可愛らしい鳴き声で敬礼した。
そしてラナとクリムは翼をはためかせ空に飛び立ち荒れ狂う魔物に向かっていった。