28話 準備
翌日になるとロナたちはフェリスの町に帰り、狗は魔物の動向を探るためにまたどこかに跳んでいった。 何かあれば、竜と狗だけが聞き取れる特殊な声で知らせるらしい。
そしてロナたちもロナたちで動かなければならない。 これは人間と魔物の領地を賭けた闘いでもあるのだから。
フェリスの町に着くなりロナたちは真っ先に役所に向かった。 役所に入るなり、みんなの顔がやけに沈んでいることに気が付いた。 理由を尋ねようとしたらメルクがロナたちを見つけ、遠くから声をかけてきた。
「少し時間をいただけますか……」
「いいですよ、私たちも少し話をしたいと思っていました」
ロナたちは応接間に向かい、お互いに話しをした。 メルクは、ここに来るはずだった商人が一人残らず魔物に襲われ命を落とした、ということを聞かされた。 それでみんな沈んだ顔をしていると言った。
ロナからは魔物がフェリスの町を襲撃してくるので、その対策をするよう伝えた。
その結果、今夜からそれぞれの門に兵を置き、ロナたちも事が落ち着くまでここにとどまることにした。
兵の数はメルクにお願いして、ロナはヴァンスにもこの町を守ってもらえるか聞きに行った。
応接間に残ったラナはメルクに一つだけお願いをした。
「メルクさん、北東の門は私に任せてもらえます?」
「おひとりってことですか……」
ラナは頷いて肯定した。
「ダメです。 いくら魔物と戦うことに慣れているからと言って、ラナさんは女性です。 そんな危険なことさせられません!」
「で、でも私……あの……魔法が使えるんです。 まわりに病気をうつさないためにも……」
「なおさらダメです! ラナさんが魔法を使わなくていいように私たちが頑張りますのでゆっくり休んでいてください!!」
「でも……」と食い下がっても「ダメです!」の一点張りでラナは渋々応接間を後にし家に帰った。
自室に入るなりクリムが「どうする?」と言ってきた。
「どうするも……なにも……」
椅子をひき、ほうづえをついてムスっとした表情で考える。
「私と狗は人がいるところに姿を現せん。 私たちがいた方が戦況は有利になる」
「分かってる! 分かってるけど手がないの!!」
机をたたき怒鳴るとクリムも身をすくめた。
「む! こういうのはどうだ? まず狗が北西に魔物側として出る。 それを君が北西の護衛にまわっている兵に伝え、救援を頼む。 そして狗は頃合いを見て北西に跳んでもらう。 どうだ、いい作戦ではないか?」
「それでも多少は残るでしょ」
「そこは君がどうにかしてくれ」
いいかげんだとは思ったが、悪くない考えと思った。 人間は急な出来事が起こると反射的に言われたことをするって、どこかの本にあった気がしないでもないようなあるなような……。
「今、狗から連絡があった。 三日後の太陽が沈んだ時、魔物が攻めてくるらしい」
耳をヒクヒクさせながらそう言った。
「そう……、だったらさっきクリムが言った作戦を伝えておいて」
クリムは飛びながら翼を小刻みに振動させ口を大きく開いた。 これが竜と狗だけが聞き取ることができる声を発する姿勢なのだろうか。 阿呆すぎる。
話終えたのか口を閉じてフラフラしながら机に到着した。
「お疲れ」
「阿呆とか思っただろう」
「うん、馬鹿みたいだなぁって」
フラフラした身体で頭突きしようとしたが、途中で力尽きてラナの膝の上に落ちてしまった。 さすがに心配になりクリムの身体を撫でた。 クリムの身体は汗で少し湿っていた。
「本当に大丈夫?」
「少し、寝る」
目を瞑るとすぐに寝息を立てって夢の中に落ちて行った。 ラナはクリムを優しく抱いてクリム用に作ったクッションという名のベットに寝かしてやった。
あと三日、人間がフェリスを守り抜くか、魔物が占拠するか。 向こうの戦力も分からない一世一代の大勝負、クリムもぐったりしていて不安もあるが頑張るしかないとラナは思った。