27話 夜の会話
北の山に入ってずいぶん時間が経った。 お日様はすでに地平線の彼方に沈みそうだった。
「まだですか、もう日が暮れてしまいます」
「もう少しだ。 ……いや、向こうから来るみたいだ」
クリムの一言でロナとラナはあたりを見渡した。 まわりには魔物の姿はなく、草木をかき分ける音もしなかった。
緊張した空気の中、上からクリムが友と呼ぶ魔物が現れた。 人間を狗にしたような姿をしており成人男性二人分ぐらいの大きな身体を持っていた。
「久しいな古き友よ」
クリムは狗の真ん前真で飛んでいった。 狗はきつい目つきをしていたが、クリムの姿を見ると目つきは柔らかいものになった。
「あぁ……本当に久しいな。 それに生まれ変わりをしたのか」
「正確には生まれ変わりではないが、それに似たようなものだ」
「似たようなもの……?」
それからクリムは自分にあったことと、ラナのことを話した。
「それは災難でしたな、ラナ殿」
狗は自分の足をバンバン叩きながら笑った。
話終えた頃にはお日様は沈み、代わりにお月さまが顔を出していた。
ロナたちは仕方なくここで野宿をすることになった。 ロナはいつ魔物が襲ってくるかまわりに気を配りながら枝を集めてたら、「他の生き物は来んよ」と狗が優しい笑みを浮かべて言った。
確かにここに来るまで魔物はおろか動物にも会ってない。 他の生き物がこの狗を避けている、ということだろうか。
ある程度の枝を集めてところで元いた場所に戻ると、ラナがたき火用に石で円を作っていた。 そこに拾ってきた枝を入れて魔法で火をつけてもらった。
「それで狗、なぜここに来た?」
火がつくなりクリムが狗に問いかけた。 狗はあごをポリポリかきながら、
「竜の魔力を感じたものでな、来てみた。 おかげで厄介ごとに巻き込まれそうになっただな」
「厄介ごと?」
「この先にある町を襲撃するから儂にも手伝えっと言われた」
狗はフェリスの町がある方角を指差した。
「何と答えた……」
「竜なら、何と答える……?」
「この姉妹の味方になる」
間を置かずに即答した。 その答えにロナとラナは同時にクリムを見た。 クリムもちらりとロナたちを見て、また狗に視線を戻した。
「生きるためとはいえ、この姉妹には迷惑をかけた。 それにこっちの娘は私の教え子だ」
尻尾でラナを指した。 それにつられ狗がラナを見たので、ラナは自然とお辞儀をしてしまった。
「死なせたくはないのだ。 この二人を」
ラナは「おぉぉ……」と感心の声を上げた。 狗もそうかと呟き、意を決したように言った。
「ならば儂は古き友の味方になろう。 死なせたくないしのぉ」