26話 いいやつだよ
フェリスの町に来てもう1か月が経とうとしていた。
まだ中継地点の建設は始まっていない。 それどころか新しい問題が浮上した。
「周辺の魔物の縄張りがおかしい? どういうことですかロナさん」
緊急の報告があるということでロナとラナはメルクと応接間にいた。
「ええ、この1週間の出来事なのですがこれを見ていただけますか」
ロナがラナに目線を配ると、ラナはバッグからロナたちが作成した魔物分布図とここの役人が作った魔物分布図を出し机に広げた。
「見て分かると思いますが、魔物の縄張りが変わっています。 それも大規模に……」
北側に生息していた魔物が南に移動していたり、役人の分布図には載ってない魔物がいたり、はたまた居たはずの魔物がいなくなっていたりと変化が起きていた。
「これは私たちの憶測なのですが、ここ一帯に何らかの魔物が出現したと考えています。 そのためここを離れたり、住処を変えたりしたりしていると思います。 メルクさんはどう思いますか……?」
メルクは二つの地図を交互に見て自分の髪の毛を掴んだ。
「私にも……お二人の考えと同じです。 そうであっては欲しくないのですが……」
「気持ちは分かります」
重苦しい空気が応接間に立ち込める。
「いったい、どうすればいいのだ!! この町はこれからなんだ! それなのにこんな不安定な状態ではまた被害が出る!!」
髪を掻きむしり、ぶつけようもない怒りを爆発させた。
「これから私たちはその魔物の調査に行ってきます。 なので、この町に来る人は無条件で入れてください。 こんな状態で町の外にいるのは危険ですので」
「でも薬はどうする? また変なものを町に持ち込まれて無関係な人が苦しい思いをするかもしれないんだぞ!」
「それぐらい自分で考えてください。 それがあなたたち役人の仕事でしょ。 町の人々の安全のために身を粉にするのが私たち役人です」
そういうとロナとラナは応接間を出て行った。
「さて少し気を引き締めて行きましょう」
町から出るなりロナは鞘から剣を引き抜いた。 もういつどこで魔物が襲ってくるか分からない、そんな緊張感が漂っていた。
「ちょっと待って!」
歩き出そうとしたロナを呼び止めて、ラナはバッグからクリムを出した。
「クリムが問題の魔物のところまで連れてってくれるらしいよ」
ロナは少し眉を潜めた。 信じてない様子だった。
「君たちが探そうとしている魔物は私たち竜の古い友だ。 竜の魔力を感じ取ってここに来たのだろう」
「それって私のせいでもある?」
ここ最近自室で竜の姿でいた。 その時に自然と身体から竜の魔力が溢れていたかもしれない。 そのせいで、こんな事態になってしまった。
そんなことを思いラナの顔は少しだけ、元気を失った。 クリムはやれやれといったように首を振り、ラナの頭の上に乗った。
「そう気を落とすな。 別段凶暴なやつではない。 むしろ話のわかるいいやつだ」
「……珍しいね、元気づけるなんて」
「うむ……そうか? まぁいい。 元気になったのなら竜になってくれ。 向こうから返答があるかもしれん」
「あい」と返事をしてラナは竜の姿になった。 もう何度も竜になっているからか、竜になる時間が短くなっていた。
ラナが竜になるとクリムはあたりをきょろきょろし始め、北にある山を指差した。
「向こうにいるようだ。 待っているから来い、と」
「それは確かですか?」
「そうだ、間違うはずがない。 あいつの気だ」
うれしそうにニカっとクリムが笑う。 ロナとラナは互いに目を合わせると同じタイミングで肩をすくめた。