19話 勘違い
「話は分かりました、が!」
ヴァンスは語尾を強調して言った。
「いくらなんでも給金が低すぎます!」
メルクはヴァンスに薬の講義を依頼したが、あまりにも給金が少ないため憤慨している。 予算的にもこれが最大という話だが、他人からしても少ないと思う。 1か月を食っていくのがやっとぐらいの給金だ。 それに食事代の他に宿代も払わなければならない。 暮らしていくには厳しすぎる。
「まぁまぁ、ヴァンスさんも抑えて、抑えて」
ラナが仲介に入り、場の空気を変えようとしていた。
「確かに少ないですけど、ヴァンスさん仕事の予定あります?」
「ないが、ここよりずっといいところを探す!」
「アテはあります?」
「この町は商人が多いんだ。 人手は多い方がいいだろ」
「普通はそう思いますよねぇ」
ラナは何度も頷いて「分かる、分かる」と呟く。
「商人はセコイ人ばっかだから、雇ってくれる人いないと思うよ。 利益を独り占めしたいもん」
笑顔で教えてあげた。 おかげでヴァンスの希望は消えたが、事実なのだから仕方がない。
「このままじゃ、ヴァンスさん死んじゃうからわたしから一つ良い案がある! ということで聞いてもらいまぁす!」
一方的に話しを進めるラナを見て、ロナは少しため息をついた。
竜に会ってから、性格が変わったような気がする。 前までは、もっと人の話を聞いてたと思うのですが……。 これが成長というものですかね。
そうじゃなければ、あの竜に鉄槌をくださなければなりませんね。
「もしヴァンスさんがこの仕事を受けたら、住む場所と食事を提供します! どう、いい話でしょ?」
ヴァンスは少し唸って考え込み、仕事を受けることにした。 宿代も食事代もいらないのだ。 いくら給金が少なくても、悪い話ではない……かな?
そんなわけで、3人は契約を済ませて宿に荷物を取りに戻った。
竜はラナのローブの中に隠してた。 そういえば、まだ名前を決めていなかった。
もう非常食ってことで『肉』って名前でいいや。
可愛がることもないし、適当が一番!
「お姉ちゃん、お待たせ! ヴァンスさんもお待たせです!」
ラナが宿の外に出た時には、すでに二人は外で待っていた。
「丁度いいところに、私たちこれからヴァンスさんの服と食糧を買ってきます。 先に行っててもらえます?」
おお、さっそくデートですか。 お姉ちゃんもやるねぇ。
ラナは敬礼してロナたちを見送った、と思ったらロナが一人だけ戻ってきてラナに耳打ちした。
「魔法のこと忘れてないですよね?」
「え、あ、当然!」
忘れてた。
「それならいいのですが……、私たちが買い物に行ってる間に済ませておいてください」
そう言うと、小走りでヴァンスの元に行った。
なんだ、ヴァンスさんに魔法を見せないための買い物か……。 早とちりした自分が恥ずかしい!!
ラナは顔を真っ赤にしながら走った。
走って、走って、肉(竜)が落ちて、踏んで、拾って、走る。
うっはぁぁぁぁぁぁぁ、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃ!
走りながらケタケタ笑うが、すぐに息苦しくなって立ち止まる。
周りから変な目で見られても気にならなかった。
むしろ見られて興奮した。
うわぁ、私変態になった。
さらに笑う。
性格変わったなぁ、私。
悪い方向にね。