16話 夕飯
ラナは一通りのことをロナに話し終えた。 どこにいたのか、何をされたのか、誰と会ったのか、そしてこの竜は何なのか、すべて話した。
ロナはラナの話を少しも馬鹿にせずに真剣に聞いてくれた。 時折、悲しそうな顔を見せながら黙って聞いてくれた。
「それでは、ラナは病気ではないってことですね?」
「うん、そうみたい」
「そうですか……」
ロナは安堵の息をはいた。 ずっとラナを死なせないためにいろんな病院にあたったり、本を漁ったりとラナが生きながらえるためならいろんな努力をしてきた。
そしてそれが今無意味だったことを知ったことで呆れもしたけど、それ以上に「よかった」と思った。 妹のラナは、ちゃんと生きられる。 まだ人生を楽しめる、と思うと涙が出そうになった。
「まぁ、これからどうなるか分からんがな」
竜がいらないことを言ったので、ラナの代わりにぶっ叩いておいた。
「今更だけど、お前の名前ってなに?」
ラナは竜にデコピンしながら聞いた。
「私に対する扱いが酷すぎないか?」
「私に酷いことしたから、それを返すまでやるよ。 それで名前は?」
またデコピンするが、さすがに学習したのか首を振って躱された。
「名前はない、というよりも思い出せない。 おそらく君に竜の魔力を流したとき、私の記憶も流れてしまったのかもな」
「あっそ。 ないのなら私が付けてあげる」
竜の話を適当に聞き流して名前を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「すまないが、開けてくれないか。 両手が塞がってるんだ」
ドア越しにヴァンスの声が聞こえた。 どうやら夕飯を持ってきたようだ。 ロナは立ち上がりドアを開けるとうどん一つと海鮮丼二つが乗ったお盆を持って入ってきた。
ラナは適当に竜を枕に放り投げて、机を運び出しヴァンスはそこにお盆を置いた。
そして三人は食事を始めた。
「これお好みでかけてくださいって厨房の人が……」
ヴァンスはロナに醤油とわさびの入った小皿を差し出したが、ロナはこれをどうすればいいのか迷っていた。 それを見かねたヴァンスは実際にやりながら説明しだした。
「お刺身の乗ったものを食べるので、醤油とわさびって欲しくないですか?」
「そのままでも美味しいですけど、欲しいですね」
「その人のためにこれがあるんですよ。 まずここでわさびを醤油に溶かして……」
ヴァンスは箸を使ってわさびを醤油に溶かしていく。 黒い醤油はほのかに白みを帯び始めた。 そしてこの醤油を円を描くように丼にかけていく。
「はい、これで完成! 一口試しにどうです?」
ヴァンスはずいっと丼をロナに差し出した。 ロナは少し躊躇していたが、醤油によって光っている海鮮物を見て耐えきれずに一口だけもらって食べた。
「お、美味しい……」
少しピリっとするが、むしろそれが食欲をそそられる。
ヴァンスは「それはよかった」とロナに微笑んでから、丼を頬張った。
ヴァンスの笑顔を見てから、ロナの頬が少しだけ赤みを帯びていたことに含み笑いを浮かべながらラナはうどんを必要以上に音を立てて啜る。
ひょっとしてお姉ちゃんって惚れやすい? ちょっと面白くなってきたかも!