15話 なんでいる
「なにか消化にいいものを買ってきます。 おなか空いてるでしょ?」
窓の外に目を向けると空は暗くなりつつあり、おなかも空いていた。
「じゃあ、うどんお願いしてもいい?」
「はい、すぐに戻りますので待っててください」
ロナが部屋から出て行くのを手を振って見送る。 そして誰もいないことを確認して毛布をめくった。
「いつまでそこにいる」
「む、もういいのか」
ラナの股の上に猫のように丸まっている小さな竜がいた。 翼を軽く動かして動こうとする竜に、ラナは慌てて静止の声をかけた。
「待て! 動くなよ……」
ピタっとその場で動きを止めた竜は、怪訝そうな顔をラナに向けた。
「なぜだ?」
「そこはデリケートゾーンだからだ!」
顔を少し赤らめて、竜を抱えて毛布の上に置いた。
「っで、お前は消えたんじゃあないの?」
「私も分からん。 なにせ前例がない」
竜は頭を傾げ、そんなに問題にしてないようだった。 むしろ生きているのだから、問題視してないのかもしれない。
だったら、相手にするのも面倒くさい。 だけど、少しだけこいつに用事がある。
ラナは手をグーにして、竜の頭をぶっ叩いた。 竜は頭の上にヒヨコでも見えてるのか、目をまわし足もフラフラしている。
うん、スッキリした。 いい気分だ。
「な、なにをする!」
「いや、いい機会だと思ってね」
悪びれずにデコピンもかました。 竜は頭を後ろにのけぞらしていい反応をする。 いじめる方としては、楽しい。
もう一発かましてやろうと、指に力を込める。
「ラナさん、大丈夫ですか!!」
荒々しく扉を開けてヴァンスが入って固まる。
そして指をプルプル震わして、ラナの上でフラフラしている竜を指差した。
「な、なんで竜がここに?」
「あぁ、これ人形ですよ」
「人形!? フラフラしてるぞ!」
「最近のは電気で動くようになってるんですよ。 ほら、叩いても、振り回しても、何も言わないでしょ」
ニッコリ笑う。たぶん今まで、一番の笑顔だったと思う。
竜も必死に人形のフリをして、なかなかに滑稽だ。
そして、ざまぁみろ! 夢とはいえ、ひどい目にあったからこれぐらいやっても、バチは当たらないだろう。
竜はきつい目でラナを見ているが、知らんぷりを決め込んだ。
「ほ、本当に人形……?」
「うん、そうだよ。 あっ! お姉ちゃん、おかえり!」
「ええ、ただいま。 それで、それは?」
ロナも竜を指さしてヴァンスと同じ問いをした。
「人形だよ」
「そうですか。はい、これうどんです」
冷凍されたうどんの麺だけを渡された。
「えっ、作ってくれないの?」
「作ろうにもキッチンがないので」
確かにキッチンはなかった。 よくよく考えれば、宿にキッチンが付いてるなんて聞いたことがない。
「じゃあ、これどうするの!」
「人肌で暖めてください」
ロナとラナは、わーわー、きゃーきゃーと言い合う。 それを見かねたヴァンスは、ふっと笑った。
「俺がホールに頼んで作ってもらうよ」
「お願いー」
「お願いします」
きれいに二人の声が重なり、ヴァンスは笑いながらうどんを受け取ってホールに向かった。
「さて、私にはちゃんと話してしれるんでしょうね?」
ロナはラナのベットに腰かけて言った。
「うん……。 でも、誰にも話さないでね」
それから、ラナは自分にあったことを包み隠さず話した。