10話 看病
「俺にも魔法を使える妹がいたんだ。 肺の病気だったよ……」
男は少し昔のことを話し出した。
う
「俺の家は貧乏で、薬もまともに買えなかった。 両親と俺で必死に金を集めてたよ。 でもそのせいで、妹には寂しい思いをさせてしまった……。 誰もいない家でひっそりと息を引き取ったよ……」
かける言葉が見つからない。 もしかしたら私もそうなるのかもしれない。
私が出かけているときにラナの容態が悪くなすり、そのまま……。
そう思うと他人事にはとても思えなかった。
「そばにいてほしい時にそばにいてやれなかった……。 そのことを今でも後悔してるよ……」
男は深いため息をついた。
「だからせめてもの罪滅ぼしで、魔法を使える人の手助けをしてるんだ。 何か力になれることはないか?」
ポツリと「こんなことで許されるとは思ってないが……」と呟いた。 最後の時、そばにいられなかったことをそうとう後悔しているようだった。
「ついてきてもらっていいですか。 えっと……」
「すまない。 言ってなかったな」
恥じるように頭をかいて名前を言った。
「ヴァンス・ストライプだ。 よろしく」
「こちらこそ、ロナ・フェーリスです」
二人は軽く握手をしてラナが眠っている場所に行った。
「ラナ、大丈夫ですか! 起きてください!」
ロナはラナの顔を見て焦った。 呼吸は荒く、ラナの額から大粒の汗が溢れていた。 ラナの身体を何度も揺すって起こすと、うっすらと目を開けて弱々しく声を出した。
「その、ひと、だれ?」
寝る前より咳することはないが、喋るのも辛そうだった。
「ヴァンスさんです。 少し助けしてもらおうと来てもらいました。 ですが、その前にちょっといいですか」
ラナの額に手を当てるとひどく熱かった。
「ラナ、ひどい熱ですよ!」
「なんだって!」
ヴァンスもラナの額に手を当て熱を測ると、目を見開いて驚いた。
「すぐ解熱剤を飲んだ方がいいかもしれないが……」
ヴァンスは悩んだ。
人体の発熱は、生命防御反応の一つだ。 最高で40~41℃まで上昇し、発熱は細菌やウイルスの増殖を抑え免疫力を高めるという。
しかし、発熱は不快感、不眠、食思不振 、発汗による脱水、エネルギーの消耗など悪影響があることも確かだ。
それに、今のラナの様子を見ると飲ませた方がいいかもしれない。
ヴァンスはバックから小さなケースを出した。 そこから一粒取り出してロナに手渡した。
「俺が調合した薬です」
「調合したって、大丈夫なんですか?」
不安気に渡られた薬を見る。
「妹がいなくなってから医学を勉強したんだ。 ほら、許可書もある」
懐から許可書を取りだしロナに見せる。 許可書には、白衣を着たヴァンスの顔写真が貼ってあった。
「それなら、安心ですね。 ラナ薬です、飲めますか?」
「うん……」
ロナはラナの身体を起こしてやり、薬を飲ませた。